冬将軍・渡辺明棋王(35)春三月に棋王戦8連覇達成 五番勝負3勝1敗で本田奎五段(22)を退ける
3月17日。東京都渋谷区・東郷神社において棋王戦五番勝負第4局▲本田奎五段(22歳)-△渡辺明棋王(35歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。
9時に始まった対局は17時47分に終局。結果は96手で渡辺棋王の勝ちとなりました。渡辺棋王はこれで五番勝負を3勝1敗として、棋王位を防衛。通算8連覇を達成しました。
史上最短の参加1期目で棋王挑戦権を得た本田五段。善戦およばず、敗退となりました。
渡辺棋王、抜群の大局観で8連覇
先手・本田五段の矢倉に後手・渡辺棋王は雁木。両者ともに城が完成しないまま、戦いに入りました。
渡辺「序盤から手将棋になったんで、ちょっとわからないところが多いなと思いながら指してました」
渡辺棋王は歩を2枚捨てて、浮いた飛車の筋を中段に通します。そして交換した角を本田陣に打ち込み、飛角交換に成功しました。局面のバランスは取れていて、形勢は互角のようです。
本田五段が自陣に角を成り返り、強力な馬を作ったところでは、本田五段も指せるのではないかと見られました。
本田「ちょっとよくわからなかったです。こっちがバランスを取れるかどうかという感じで。互角ぐらいはあってくれたような気がするんですけど」
駒がぶつかって激しい戦いが起こる中、渡辺棋王は悠然と、端の歩を2回突き進めます。これがさすがの大局観だったようです。進んでみると連結するとは思えなかった飛と香の二段ロケットが完成し、本田玉脇に突き刺さる形で、端攻めが決まりました。攻防の要所5六に配置された本田五段の馬も、攻撃目標となっています。
本田「いきなりダメになっちゃたんで、ちょっとひどかったです・・・。9筋に飛車回られて、なんかちょっと・・・。5六の馬もいてて、配置がわるすぎて、ちょっとどうしようもないことに気づいたのが遅すぎました。直前はまあ難しそうな気もしてたんで、そこでバランスを取れなかったのが、残念というか、まあ・・・」
決断のよい早指しが持ち味の本田五段の残り時間が少しずつ削られていきます。これはそのまま、本田五段の苦境を表していました。
序盤の早い段階で浮いた渡辺棋王の飛車は、中段で活躍し、△9八飛成と端から押し入って龍となり、本田玉の死命を制する駒となりました。
渡辺「(優勢を意識したのは)龍ができたあたりですかね。△9八飛成と。9筋が破れたんで、指せてるとは思いました」
優勢となってからの渡辺棋王の指し回しは、つけ入るスキがありません。持ち駒の桂3枚は本来であれば使いにくいセットですが、1枚目が自陣の要所に据えられ、2枚目が本田陣の急所を衝きました。
本田五段は桂馬をしばらく見つめ、次の手を指さず、「負けました」と一礼。新鋭の挑戦は、ここで終わりました。
「勝って兜の緒を締めよ」
渡辺「(五番勝負は)2局目で完敗してしまったんで、3局目から立て直せるかどうかっていうところを課題としてやってたんですけど。そのあたりが上手くいったかな、というところですね。(8連覇は)ここまで来るのは大変だったですし・・・。一つ伸ばすのも大変なので、まあ、気づいたらもう8っていうところまで来ていたかという感じではありますけど」
本田「もうちょっといい勝負が・・・(中盤までは)いい勝負というかいい将棋が指せるぐらいの内容だった気がするので。いきなり終わってしまったのが、悔やまれるところです・(五番勝負は)4局目まで・・・。自分の実力的に4局目まで来れるのもよくやったのかもしれないですけど、もうちょっとやっていたかったですね。(今後の課題は)実力をつけてという。はい」
渡辺三冠はこの先、今年度の将棋界を締めくくる大一番であろう、王将戦七番勝負第7局に臨みます。
渡辺「年が明けてから、2月、3月はけっこう大変なことが多かったので、一つこうして大きな結果が出せたのはこれからの励みになるので、まだ年度内、大きいところもありますけども、それに向かって頑張りたいと思います」
棋王戦第4局の対局場は東郷神社。解説の深浦康市九段は最初に、東郷平八郎(1848-1934)の有名な言葉を紹介していました。
この言葉は、戦国武将の北条氏綱の遺言にあるそうです。
「勝って兜の緒を締めよ」とは、まさに将棋を指す全ての人の戒めともなりそうです。