凱旋門賞で主役になりそうな欧州GⅠ馬の主戦が語るクロノジェネシスの可能性
ダービー馬でGⅠを連勝
現地時間7月24日、イギリスのアスコット競馬場でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(GⅠ、以下キングジョージ~)が行われ、アダイヤー(牡3歳、英・C・アップルビー厩舎)が優勝した。
フランスの凱旋門賞(GⅠ)と並び、ヨーロッパの2400メートル路線の頂上決戦とも言われるこのレースで、今年、1番人気に推されたのはラヴ(牝4歳、愛・A・オブライエン厩舎)。ガリレオ産駒のこの牝馬は昨年、イギリスで1000ギニー(日本なら桜花賞に該当)、オークス、ヨークシャーオークスとGⅠを3連勝。今年初戦となったロイヤルアスコットのプリンスオブウェールズS(GⅠ)は、長期のブランクも初めてとなる牡馬相手もものともせずに優勝。叩かれて更に良化の見込めるここで圧倒的な1番人気に支持された。
一方、アダイヤーはダービートライアルSを2着した後、A・カービーを乗せてダービー(GⅠ)を優勝。3着に負かしたハリケーンレーンがその後、パリ大賞典(GⅠ)を勝った事で評価を上げたこのフランケル産駒は今回が初めて古馬を相手にするレースとなった。
もう1頭、直前になって注目度が上がったのがローンイーグル。アイルランドダービー(GⅠ)は早目に抜け出したものの最後の最後で2着に敗れたが、クビ差で勝利したのが先述のハリケーンレーンという事で、こちらも注目度が高くなった。
他にもドバイシーマクラシック(GⅠ)でクロノジェネシスやラヴズオンリーユーらを退けて優勝したミシュリフや、キーファーズの松島正昭代表が共同オーナーとして名を連ねるブルームが、サンクルー大賞典(GⅠ)を勝ってここに出走。ワンダフルトゥナイトの取り消しこそあったものの精鋭ばかりの5頭立てで覇を競った。
1万4千人の集客の中、ゲートの開いたレースはブルームが出遅れ。しかし、ラヴと同厩舎という事でオーダーだったのか、最後方から一気に先頭に立ち、逃げる形に。2番手をアダイヤーとローンイーグルが並走したが、途中からアダイヤーが掛かり気味に2番手に上がり、ローンイーグルは3番手。ラヴが4番手で、最後方からミシュリフが追走した。
直線に向くと逃げるブルームをアダイヤーが早々にかわして先頭へ。その外から差を詰めて来たのは前半、最後方に控えていたミシュリフ。3番手にラヴで、ブルームとローンイーグルは後退。最後は3頭が抜け出したが、隊列に変化はなく、1着アダイヤー、2着ミシュリフ、3着ラヴという順で勝負は決した。
欧州トップ騎手が語る日本馬の可能性
勝利したアダイヤーの手綱を取ったのはステルヴィオで18年のマイルチャンピオンシップ(GⅠ)を勝つ等して日本でもお馴染みのW・ビュイック。レース後、連絡を取ると、彼は次のように言った。
「御覧いただいた通り、彼は素晴らしいチャンピオンホースです。何頭も良い馬に乗せてもらったけど、3歳でキングジョージを勝つのだから、トップホースの1頭である事は間違いありません」
秋には凱旋門賞という話も出ているようなので、そのあたりを聞くと、答えた。
「凱旋門賞という話はもちろん聞いています。3歳馬という事で、斤量面でのアドバンテージがあるのは大きいでしょう。ただでさえ強い馬なのに、これは一段と助けになるはずです」
アダイヤーと同じゴドルフィンでC・アップルビー厩舎のハリケーンレーンとの兼ね合いに関しては「タフクエッション」とのひと言。どちらに乗るかは彼自身にも決められないという意味だろう。
そこで話題を変えて「戦った事のあるクロノジェネシス(牝5歳、栗東・斉藤崇史厩舎)を覚えているか?」と聞いてみると、「彼女の事は当然、覚えていますよ」と答えた。彼はクロノジェネシスが2着だったドバイシーマクラシックでウォルトンストリートの手綱を取っていた。結果は2着したクロノジェネシスから3と4分の1馬身差の4着だったのだ。
「僕は日本の競馬にも乗って、日本馬がとても強い事は良く分かっています。もちろんクロノジェネシスが日本でGⅠを勝った優秀な牝馬である事も知っています。凱旋門賞でも大きなチャンスのある馬だと思うし、アダイヤーやハリケーンレーンにとっても警戒しなくてはいけない強力なライバルになる。そう考えています」
今年の凱旋門賞は2ケ月後の10月3日。クロノジェネシスの他にディープボンド(牡4歳、栗東・大久保龍志厩舎)も挑戦を予定している。彼ら日本馬の前に今年もまたヨーロッパ勢が立ちはだかるのか。今後の各馬の動向にも注目していこう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)