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「エッフェル姉さん」の陰で堂々と年5億円の公金を使う国会議員の海外視察を見逃すな

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
エッフェル塔の好きなやつは、エッフェル塔に行くな……ってか?(写真:アフロ)

 自民党女性局長の松川るい参院議員、局長代理の今井絵理子参院議員のパリ視察が批判の嵐に包まれたのはパリ・エッフェル塔の前で塔に似せたポーズをとった写真をSNSにアップしたから。夏の国会議員の海外視察が観光旅行化しているのは知られていても「観光旅行でございます!」と赤裸々に印象づける証拠を自ら発信しては身もふたもない。

 言い訳がさらに炎上を招きます。「費用は党費と各参加者の自腹」(松川議員)「(旅費は)党からの支出と、参加者の相応の自己負担」(今井議員)と。

 この出来事は図らずも公金を用いていなければ構わないという申し分で正当化するという事態を引き起こしました。実は正々堂々と公金を用いた海外視察の方が圧倒的かつ長期にわかって今日まで続いているのです。松川・今井両議員は、そうした同輩や先輩議員を結果的に否定したに等しい。本稿で追及します。

「役得」「物見遊山」「既得権益」「無駄遣い」「海外旅行」と散々批判

 女性局の2人はまるで公金を用いていないかのごとき言い分ですが、自民党の収入のうち約3分の2が政党交付金=税金であり、切った「自腹」が歳費(給料)であれば、それも公金からの支出。

 滞在3泊5日のうち純粋な「研修」がわずか数時間しかなかったという続報にも見舞われました。でもそんなものでしょう。そうならざるを得ない理由があるから。後述します。

 別に国会議員だって観光旅行をしてもいいのです。それを研修だと言い募り、にも関わらず観光としか思えない証拠を全世界へばらまいた挙げ句に党費だからいいじゃないかと開き直ったら怒らない納税者はいないはずです。

 通常国会終了後、しばしば秋に召集される臨時国会までの期間に大量の国会議員が「海外視察」するのは今に始まった話ではありません。一例を挙げると「議員の外遊ラッシュ 衆参合計130人以上 臨時国会までの“夏休み”」という見出しの記事が読売新聞に掲載されたのが1987年6月。相も変わらずです。

 以来「役得」「物見遊山」「既得権益」「無駄遣い」「海外旅行」と散々批判されても一向になくなりません。

年100人以上の国会議員が国会事務局職員も随行して外遊

 今年度も一般会計の歳出(支出)に衆参両院合わせて約5億円の海外活動費の予算が計上されていて可決成立しています。国会法103条「各議院は、議案その他の審査若しくは国政に関する調査のために又は議院において必要と認めた場合に、議員を派遣することができる」に基づく海外「派遣」で100人を超える議員が出かけたか出かける予定です。

 正々堂々と公金を使って行きますよ。衆議院は委員会ごと。委員会名はほぼ「○○省」と一致するとイメージすればおおよそ当たりです。参議院はテーマ別。

 訪問先は今も昔もヨーロッパが大人気。先進的な取り組みをしている国が多く「国政に関する調査」をする価値が高いから選びやすいとの建て前です。議員だけでなく国会事務局職員も随行し、訪れた先に置かれた外務省の在外公館(大使館や領事館)職員が日程調整から通訳の手配、宴席の設定などに忙殺されるのが常です。

ヨーロッパを夏に視察しても相手も休暇でいない

 では充実した「調査」は可能でしょうか。たぶん無理。先述した自民党女性局の「研修」時間がわずかであった理由も同じ。からくりはいとも簡単で「夏の欧州の多くは休暇中」だから。バカンスやバケーションですね。お休み中の政府や議会首脳に出てこいともいえず、在外公館職員が奔走して何とか1人2人の約束をとりつけても多くが表敬。表敬に何時間も費やすはずもなくアッという間に終わります。行ってから相手を探そうというパターンも珍しくなく結局誰にも会えないで役所や誰もいない議場を見学するだけの場合も。

 そこで観光か視察か区別がつかない「迷案」をひねり出すのです。例えば衆議院環境委員会ご一行が当地のサファリパークを視察して生物多様性を学ぶとか壮大な景観の国立公園に行って環境保護の取り組みを学ぶとか。

 それでもなお日中は何とか取り繕えても夜はどうしようもありません。さっさと寝たら寝たで「国政に関する調査」たり得ないから会食(という名の宴会)を開くぐらいしかなくなるのです。

 これが「議案その他の審査」に役立たないとは言い切れません。委員会単位の衆院だと議員団は与野党混在の呉越同舟。飲んで騒いで仲良くなって来たるべき次期国会での審議を円滑に進められるとの効用はあるのです。ただし、言うまでもなくその宴席がパリやローマである必然はゼロ。

報告書は議員団が書かない

 公費で「調査」する以上は報告書を所属する院の議長に提出する義務を負います。かつては国民に公表されずリポート用紙数枚で済ませた剛の者もいました。さすがにやばいと今は法制局などの入っている衆議院第二別館で閲覧できるようになったのです。

 近年の報告書はなかなか立派で内容は詳細だし分厚い。ただ寡聞にして筆者が知る限り議員団長なりが自ら筆を執ったという話を聞きません。ほとんどが随行する国会事務局職員の手によるもの。随行員には大変勉強になる旅のようです。

使い切りを前提とした会計制度と三権分立の壁

 当然「そこまでして行きたいのか」という疑問がわきます。最大の理由は国の会計制度が年度制(4月1日~3月31日)で現金主義、単式簿記で作られるから。

 国家予算は民間企業のように利益を追求しないので1年間の歳入(収入)と歳出(支出)が一致するよう決められています。海外視察は予算が計上されて使い道を両院の議院運営委員会が毎年計画を立てて執行するのです。使い切るのが大前提だから予算の消化に何のためらいもない。

 決められた支出対象で出費がなかったり余れば国庫に返納される「不用額」となり、イコール予算の見通しが甘かった証左にもなってしまうので避けたいとの動機も働きます。

 三権分立の観点から司法や行政が手を入れられない聖域でもあるのです。地方議会議員の海外視察は「ムダだ」との住民訴訟で裁判所が認めて返還命令を出したケースはあっても国会議員は難しい。行政府も例えば民主党政権時に「事業仕分け」の対象としようと検討したものの「立法府の予算に切り込めない」と対象外としたのです。

 要するに国会議員自身が「止めよう」「縮小しよう」との議員立法を作るとか、予算要求をしないと決めるとかしないと続きます。ただこの件は与野党ともに及び腰。どちらにとっても「役得」だから。

日本人の法意識

 川島武宣は著書『日本人の法意識』で「役得」について先の大戦中「『公物と思う心が既に敵』という標語が郵便局の壁にはってあった、という事実」を「面白い」としました。本来は「公け」の所有物と思う=「個人の私的利益のために使ってはならない」「を意味するはず」なのに日本では「『公物』だと思うとむだに使う、という傾向があるから」と。公金だから大切に、どころか公金だから少々遊んでもいいや、と発想するのに似ています。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

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