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出掛ける前からジャズ気分:ブラジルからのオーガニックな新風(ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
ダニ & デボラ・グルジェル・クアルテート『Luz-光』
ダニ & デボラ・グルジェル・クアルテート『Luz-光』

昨年、東京JAZZの屋外ステージに出演して観客を魅了し、続く渋谷と鎌倉の初来日公演も大好評のうちに終えたダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートが、新作『LUZー光』とともに今年もやってくる。

このクアルテート(=クァルテット、四重奏団)は、ブラジル音楽の新たな潮流として注目されている“ノーヴォス・コンポジトーレス(Novos Compositores)”を象徴するユニット。

ブラジル音楽といえば、日本で広く知られているのは“サンバ”に“ボサノヴァ”、ちょっとマニアなら“MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)”に興味がある、といったところだろうか。ボクのアンチョコ『ブラジリアン・ミュージック』(中原仁、音楽之友社)も1995年刊だから、ポスト“MPB”の動向については触れられていない。

21世紀を迎えたサンパウロでは、ボサノヴァやMPBのカヴァー・ミュージックではない、新たな時代に生まれ育った自分たちの感覚を活かした音楽をやろうという気運が高まっていた。ちなみにブラジルの首都はリオデジャネイロだが、1960年にその人口を上回って以降、サンパウロがブラジルのみならず南米の経済・文化の中心地となっている。

音楽家の両親のもとで育ち、MPBの流れを汲みながらジャズを意識したアプローチを取り入れた音楽に興味をもったダニ・グルジェルは、2007年に“ダニ・グルジェル・イ・ノヴォス・コンポジトーレス”というプロジェクトを発足し、新たなアプローチに取り組もうとする若い世代をシーンに送り出すようになる。彼女たちの一派が推進する音楽的潮流を“ノーヴォス・コンポジトーレス(新しい作曲家たち)”と呼ぶようになったのはこれに由来している。

彼女自身も2008年に初ソロ・アルバム『ノッソ』をリリース、2011年には母親でピアニストのデボラのソロ・アルバム『デボラ・グルジェル』に参加するなどして、徐々にクアルテートのコンセプトが固まっていき、2012年のアメリカ・ツアーを経てダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート名義のアルバム『UM(ウン)』(2013年)のリリースへと結実。“UM”はポルトガル語で“1”を示す。

クアルテートの第二弾となる『LUZー光』は、『UM』で提示したジャズ的な瞬発力とMPBならではのリリカルなポピュラリティとの融合に加えて、プロのフォトグラファーでもあるダニならではと言える“脳の視覚野を刺激して多重的なイメージを生み出す”ような新感覚のサウンドをもたらしている。

オーガニック・ミュージック・シーンの新たな潮流を体感できるのは言うに及ばず、意欲的な音楽家たちの“進化”を目の当たりにできるライヴになることは間違いないだろう。

では、行ってきます!

●公演概要

9月26日(金)/27日(土) 開場 19:00/開演 20:00

会場:サラヴァ東京(渋谷)

出演:ダニ・グルジェル(ヴォーカル)、デボラ・グルジェル(ピアノ)、チアゴ・ハベーロ(ドラム)、シヂエル・ヴィエイラ(ベース)

音楽選曲:吉本宏、山本勇樹、河野洋志(bar buenos aires)

♪Dani & Debora Gurgel Quartet | Luz

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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