「イスラム国」支配下の実態伝える~シリア活動家追った映画とラッカの悲しみ(写真12枚)
◆命がけの秘密撮影
内戦が続くシリアを題材にした、いくつかの映画が日本でも上映されている。その一つ、「ラッカは静かに虐殺されている」には考えさせられた。過激派組織「イスラム国」(IS)支配下のシリア・ラッカの状況を伝える市民記者グループを追ったドキュメンタリー映画だ。 (玉本英子/アジアプレス)
静まり返ったラッカの夜、警戒中の戦闘員の目を盗んで、街角にスプレーでIS批判の文字を書くメンバー。その様子を世界に向けてネットで発信する。どの地区で公開処刑があったのか、何人が殺されたのか、グループは隠しカメラで撮影し、記録した。
「背教徒」として殺害され、数日間放置される遺体。広場の鉄柵に並べられる生首。情報統制の中、ISの恐怖支配の実態と、そこに暮らす市民の姿が生々しく映し出される。撮影が見つかれば自身もスパイとして処刑は免れない。
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ユーフラテス川の恵みで栄えてきた歴史都市ラッカ。内戦前に取材した時、ここが殺りくと、がれきの町となるとは想像もできなかった。政治変革を求めるうねり、「アラブの春」は2011年、この町にも広がった。アサド政権と反体制各派の衝突が続く中、勢力を拡大させたIS(当時はイラク・シリアのイスラム国=ISIS)が町を掌握した。2015年2月には日本人人質2人が殺害される事件が起きる。
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◆ラッカ活動メンバーの声
ラッカで何が起きているのか。何人かのシリア人に接触した。ある記者に紹介されたのが、地元の若者たち十数人で活動する市民地下組織「ラッカは静かに虐殺されている」だった。
2015年2月、ネット電話で現地とつなぎ、メンバーの一人、20代のイブラヒム・アル・ラカウィ氏にインタビューすることができた。危険な中、なぜ活動するのか、と私は尋ねた。「誰かがここで起きている悲劇を伝えなければならないんだ」。そう彼は答えた。
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ISのスパイ狩りは熾烈(しれつ)だった。映画に登場した「ラッカは静かに虐殺されている」メンバーの青年は身に危険が迫ったためドイツに逃れたが、父親は拘束され、銃殺される。
◆友人どうしが殺しあうシリア内戦の現実
ISは未曽有の残忍さで殺りくを繰り返し、世界各地で襲撃事件を引き起こした過激集団だ。だが組織が登場した背景をみるなら、イラク戦争後の混乱や、シーア派政権がスンニ派に対する圧迫を強めたこともIS台頭の理由の一つといえる。他方、シリアでは、月50ドルほどの給料がもらえるからとISに入った少年もいた。外国から流れ込んだ戦闘員らは組織をより過激化させた。ISという存在を一面的に見ていただけでは、なぜ、こんな集団が拡大したかは読み取れない。
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ラッカからISは敗走し、クルド勢力主導の行政統治機構に移行した。かつてシリアを取材した際、私は自由シリア軍の19歳の青年に会った。ラッカ出身のアブゼルは出撃を前に顔をこわばらせて、こう言った。
「中学校の友だちが何人もISに入った。多くが戦乱で仕事を失った家族を支えるためだった。でも、僕は彼らに銃を向けなければならない。これは戦争だから」
いまシリアで起きている内戦。殺し合う相手は同級生であり、隣人でもあった。この悲しい現実にも私は目を向けたい。
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2018年5月29日付記事に加筆修正したものです)