長崎に原爆投下 竜巻博士・藤田哲也は被害調査の中で、ダウンバーストの概念を得る
昭和61年12月にシカゴ大学の藤田哲也教授が気象庁で「アメリカのマイクロバーストと激しい竜巻(MIST)計画」という題名で講演を行っています。
藤田スケールで有名な竜巻博士の講演です。
講演会のあと、日本気象学会の機関紙「天気」の編集委員の一人として、藤田教授からお話をお聞きしています。その時の話です。
ダウンバーストのアイデアは長崎原爆調査
いろいろお話を聞きするうち、ダウンバーストの概念を思いついたのは、長崎の原爆調査の時という話をされました。
竜巻とダウンバースト
急激に吹く強い風を突風といい、突風の原因の主なものは、竜巻とダウンバーストです(図3)。
竜巻は、雷発生や台風・爆弾低気圧通過等に伴う発達した積乱雲が原因で発生する鉛直軸を持つ激しい渦巻きです。竜巻は積乱雲の雲底がロート状となり、ロート雲と呼ばれる雲(柱状の雲)が次第にたれ下がってきて、地上へとつながることで発生します。竜巻の中心の気圧は周囲よりかなり低いため、地面付近で風は竜巻に向かって強く吹き込み、回転しながらロート雲の中を巻き上がっていきます。そのため地上では突風が吹き、物が巻き上げます。
ダウンバーストは積乱雲から発生する、冷えて重くなった空気による強い下降気流のことです。航空機が地面付近でダウンバーストに遭遇すると、地面にたたきつけられて大事故となる危険な現象です。ダウンバーストが地面に到達後、強い風が周囲に吹きだし、突風をもたらします。
竜巻とダウンバーストは、上昇流か下降流かという大きな違いがありますが、ともに、発達した積乱雲から生じます。藤田哲也博士は、世界で初めてダウンバーストを研究し、ダウンバーストの世界的な権威であると同時に、竜巻の世界的権威です。
発達した積乱雲から竜巻が発生するのか、ダウンバーストが発生するのかを事前に予測することは困難です。このため、気象庁では、突風被害が発生すると、現地に担当者を派遣し、竜巻による突風であったものか、ダウンバーストによる竜巻であったものかの判断し、データベースを作っています。
私は1年の仕事を1ヶ月で行うための方策を11ヶ月考える
気象庁での講演では、「人は1年でやる研究があると、計画をたてて1年で研究をするが、私は1年でやる研究を1ヶ月でできないかと11ヶ月考え、のこりの1ヶ月で研究する。その研究については同じ結果だが、次に研究をするときに違ってくる。私は1年の研究を1ヶ月で行う方法を知っているので、次の研究は、ほかの人の10倍できる。」という話でした。
これに関連して、藤田博士は、「小学生の頃、大分県耶馬溪の「青の洞門」の話を聞いたとき、20年をかけて穴を掘った人は本当に立派な人と思いましたが、自分だったらそんな努力をしないで、まず最初の10年で穴を掘る機会を発明し、その後2倍のスピードで穴を掘る方が有効だと思いました。後に「穴」と「道具」が残るからです。」と話されていました。
研究を始める前に「道具」を作り、「研究成果」と「道具」の2つが残ることを意識して研究を積み重ねていったことが、竜巻の強さを表す「藤田スケール」を作るなどの業績につながっていると感じました。
ただ、凡人にはなかなか真似ができない方法です。11ヶ月かかっても、1年でやる研究を1が月で行う方法がみつからない場合がほとんどだと思います。その場合は、コツコツやっておけば良かったという深い反省だけが残ります。
Chances for success(成功へのチャンス)の国
藤田哲也博士がシカゴ大学に招かれ、渡米したのが昭和28年ですが、この頃のアメリカは豊かな資金をもとに世界各国から優秀な人材を集めています。
そして、チャンスを与えています。
その結果、強くて豊かな国になっています。
今の日本で、当時のアメリカのように、国内や世界各国から優秀な人材を集めてチャンスを与えているでしょうか。藤田哲也博士の日本に対する問題提起だと思います。
どんなことがあっても、原爆という非人道的な行為は肯定できませんが、藤田哲也という天才によってダウンバーストの研究に結びつき、航空機事故を防ぐことで多くの人命が救われたという事実があります。