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日本代表、世界選抜戦に惜敗。キャプテンへの質問に指揮官が代弁?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
合言葉は「ONE TEAM」。選手主導でのチーム作りが目立つ。(写真:アフロ)

 ラグビー日本代表は10月26日、大阪・東花園ラグビー場の改修後のこけら落としでもあった世界選抜戦を28―31で落とした。

 2019年のワールドカップ日本大会での予選プール突破を目指す日本代表。今回は国内トップリーグの最終節を抜けて10月中旬からの約2週間、宮崎で合宿を張った。世界選抜は元ニュージーランド代表(オールブラックス)のマア・ノヌなど世界的名士を並べていたが、約1週間の調整で当日を迎えていた。

 日本代表は11月3日に東京・味の素スタジアムでオールブラックスと戦うとあって、世界選抜戦での快調な滑り出しが期待されていた。7―24とされた前半に課題を残したものの、後半の追い上げもあって選手たちはおおむね前向きで、共同会見に出席したジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、リーチ マイケルキャプテンも同様だった。

 談話のやりとりから何が読み取れるか。

 以下、共同会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ジョセフ

「選手たちの懸命な戦い、誇りに思います。大きくてパワフルな選手がそろう相手に対し、ちゃんとした態度と姿勢、意気込みで戦えました。これを来週のオールブラックス戦でも続けて欲しいと思っています。我々のマインドセットは正しかった。

 ただ、プレッシャーを与えながらそれを得点に繋げることはできなかった。ディフェンスでの綻びはなかったと思います。相手がパワフルなプレーで勢いをつけてきたことで、なかなか止めることができなかったというところはありますが、ディフェンスはうまくいっていると言える。なぜか。それはスタッツ(数値)に出ています。前後半を通じてジャパンの方(防御ライン)がゲインをしていた。ディフェンス(システム)は機能している。ただ、個々のタックルの向上をさせなくてはいけない。

 アタックではゲインライン、スピードボール(詳細要調査)という部分が70~80パーセントくらいできていた。速い球出しがバックスにチャンスを与え、今回の4トライに繋がったと思います。結果的には負けてしまいましたが、やってきたことが機能した試合だったと思います。

 2つの最重要課題が出てきました。ひとつは、規律を守ること。あれだけの反則を犯してしまうと、テストマッチで勝つことはできなくなってしまいます。もうひとつは、セットプレーです。スクラムで劣勢になったところがありました。判断(レフリングのことか)で酷なところがあったとは思いますが、スクラムとラインアウトでプレッシャーがかかったことは事実です。修正には時間をかけていくことが必要。次の試合に向け、修正したいです。宮崎合宿でもセットプレーに着手していましたが、他のところにこだわっていたので、それほど十分にはできていませんでした。そこは、今後、フォーカスしていきたいです」

 2016年秋の着任以来、ジョセフが数値を挙げながら成果を語ったのは稀。もっともその数値の意味するところやそれに伴う成果などについては継続的な調査が求められる。

 この後に続いたリーチは、ジョセフの意見に倣ったようにポジティブだった。

リーチ

「きょうの試合はポジティブな負けだと思います。合宿ではメンタリティにフォーカス。80分を通し、良かった部分がたくさんありました。修正すべきところは、ディシプリンとセットピース。このふたつがうまくいけば、もっといい展開にできたと思っています。アタッキングマインドセットを持つといいアタックができたので、次に向けて修正するというより、アタッキングマインドセットを持って次のオールブラックス戦に向かいたいです」

 そして、試合の流れに沿った質問を受けるなかで皮膚感覚を明かしてゆく。

――攻撃、防御の完成度。これらの観点で振り返っていただけますか。

リーチ

「ディフェンスに関しては前に上がってゲインラインの後ろで止めた回数もたくさん。それに関しては問題ない。アタックに関しては、疲れてきた時にシェイプ(陣形)が乱れ気味になった。そこをもっと修正しないといけないです」

――序盤は攻め込みながらトライが取れなかった。後半はゴール前まで攻めるとトライが取れた。違いは。

リーチ

「相手が疲れていたというのが一番の違い。前半も、もっと細かいスキルを使うべきだった。真っ向勝負でまっすぐアタックをして返されたりしていたので。後半は速いパス、アングルチェンジで前に出たりということができました」

 確かにこの日の世界選抜は、時間が経つほど防御の隙間を開けたような。引退を表明した選手も加わっていた混成チームとあって、ワークレートや連係の面では日本代表に劣っていたかもしれない。日本代表のスコアラッシュの背景に「相手が疲れていた」点を挙げたのは、謙虚な船頭の自然な姿にも映る。

――今日はキッキングゲームよりもフェーズアタックが増えた印象だが。

ジョセフ

「キックの使い方の解釈に関し、誤解されていると思います。キックは、意図的にしている。スペースがあればアタックをして、勢いがなくなったところで(防御の)裏側(のスペース)にキックを入れる。

 今回もキックの後にいいプレッシャーをかけられた。その場で倒れ込んでしまったり、細かいスキルができていなかったりしてペナルティーを犯しました。このような結末になったからといってキックが悪かったとは思っていません。ただ(反則の個所などが)課題だと思っています。

 

 そして約30点のビハインドを背負った後半は、蹴るよりボールキープしてアタックをし続けることが重要でした。挽回してくれた選手は、いい足跡を残してくれたと思っています。本当に後半に出た選手は流れを変えてくれましたし、後半は、勝った試合。勝てるところまで持ってこられた。こういう結末になってしまったことは、ラグビーの醍醐味であるとも思っています」

 アイルランド代表に連覇した2016年6月、ジョセフ体制下のキックを使った戦術は批判の的となった。実際は戦術を問う以前の肉体強化計画が最大の敗因だったのだが、一部メディアは持っていたボールをすぐに手放すように映るキック戦術に批判の矛先を向けた。ワールドカップイングランド大会で歴史的3勝を挙げた際の日本代表が、エディー・ジョーンズヘッドコーチのもとボールキープを重視していたことも背景にあろう。

 もっともイングランド大会でも効果的なキックが勝利を引き寄せており、ラグビーの本質は「蹴るか走るか」よりも「正しい判断と高い強度が保たれているか」にあるとも言える。各種報道の反応に敏感かもしれないジョセフが「キックの使い方の解釈を誤解されている」と強調するのは、無理からぬことだった。会見は続く。

――戦前、前後半の立ち上がりを課題としていました。ところがこの日、前半は攻め切れないシーンがあり、後半も先手を取られました。

 この問いはリーチに向けられたものだった。そのためまずはリーチが「全員で意識していた。ただ、ゲームに出て思ったのは、空き時間があって、その空き時間に…」と誠実に答えていたのだが、その続きをジョセフが引き取った。どういう意味の質問なのか、と聞き返した。ジョセフは続ける。

「前半は得点できませんでしたし、後半は失点しました。ただ、我々が何を目標として掲げ、何を達成したかと考えたら、今回の収穫はポジティブなスタートが切れたということ。以前は見て、構えて、待ってしまっていたところ、きょうはこちらから仕掛けていけました。ただ、それが得点に繋がらなかったということ。ただやられるだけではなかった」

 ラグビーではヘッドコーチ(監督)とキャプテンが共同会見に出るのが習わしだ。キャプテンへの質問をヘッドコーチが代弁するシーンは日本の大学の試合などでたまに見られるが、リーチのような熟練者の代わりにボスが話すことは異例。ジョセフが代表キャプテンへの負担を考慮したとも、自らが何らかの事柄を伝えたかったのだろうとも取れる。

 会見の終了時間が迫ったため、次が最後の質問となった。

 

――昨秋は世界選抜に大差で敗れ、翌週はオーストラリア代表にも完敗したという経緯があります。今回は世界選抜と競り合い、翌週はニュージーランド代表と戦います。意気込みをお願いします。

ジョセフ

「昨年は世界選抜、オーストラリア代表に完敗しました。しかしその後はヨーロッパに出かけ、トンガ代表に勝ち、フランス代表と引き分けました。今年6月はまずイタリア代表に勝ち、翌週は同じ相手に惜敗しましたが、さらに翌週はジョージア代表に勝ちました。いいペースで成長していると思います。きょうが難しい試合になるのは想定していました。宮崎入りの時はトップリーグ明けで、結束力を作るのに時間がかかったので。課題を克服し、さらに成長していきたい。楽な試合はないですが、選手たちも、私もやりがいを感じているところです」

 繊細な心を前向きな言葉で包む時間だった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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