Yahoo!ニュース

【“セクシークイーン”アン・シネ独占インタビュー】「プロゴルファーとして私が日本でやり残したこと」

金明昱スポーツライター
アン・シネは来年も日本ツアーに出場することを約束してくれた(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

 あのフィーバーぶりはもう見られないのだろうか。約1年半前の出来事が昔に思えて仕方がない。

 韓国の女子プロゴルファー、アン・シネが日本ツアーにデビューしたのは、2017年5月のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ。

 この大会で“セクシークイーン”旋風を巻き起こしたのは記憶に新しい。現場にいた筆者も当時のフィーバーぶりには驚かされたものだった。

 モデル顔負けのスタイルと超ミニスカートのウェア姿にギャラリーは釘付け。ホールアウト後のサイン会にもファンが殺到し、初日のギャラリー数は日本女子ツアー最多の1万3097人が集まった。

 ここまでのブレイクを予想していなかったアン・シネも「ルーキーになった気分」と興奮ぶりを隠さなかった。

 ただ、一方で注目されればされるほど、試合で結果を残さなければという思いが重くのしかかっていたのも事実。

 1年目は主催者推薦も含め、14試合に出場したが、賞金シードを獲得するまでにはいかなかった。

 同年のファイナルクオリファイングトーナメント(QT)にも挑戦したが、ツアー出場権獲得に失敗。初めてのコース、環境、言葉の壁など、あらゆる面での適応がそう簡単でないことを思い知らされたに違いない。

プレーは派手なタイプではない

 決してアン・シネに実力がなかったわけではない。2008年に韓国でプロデビューしてからツアー通算3勝。

 そのうち、2015年には韓国メジャーのKLPGAチャンピオンシップで優勝し、2019年まで国内ツアーのシード権を獲得している。

 プレーを見ると派手さはなく、むしろ堅実なゴルフでスコアを伸ばすタイプだ。

 ドライバーで飛距離が出る選手ではないので、極力ミスを少なくし、ボギーを打たず、チャンスでバーディーを奪ってスコアをまとめる。外見とは真逆で、堅実なゴルフが彼女の特徴かもしれない。

 とはいえ、デビュー当時の話題作りには成功した。週刊誌の巻頭グラビアを飾り、今年5月には自身初の写真集も発売されるなど、認知度も抜群。

 ただ、目の肥えた日本のゴルファーを納得させるには、結果が必要だった。それは、どのプロゴルファーにも共通して言えることだが、実力と人気は比例する。

 2018年シーズン、アン・シネは日本ツアーへの出場が6試合にとどまり、ファンの前に姿を現す機会が少なくなった。

 もちろん、シード権獲得は難しく、意を決して出場を表明したQTもファイナルまで進んだが、51位に終わり、2019年のツアー出場は5~10試合前後になるというのが現状だ。

 それに、韓国ツアーのシードを持つアン・シネは、実戦感覚を失わないためにも、今年は母国での試合をメインに戦わざるを得なかったのだが、来年はどのような計画を立てているのだろうか。

 今月中旬、アン・シネが都内から韓国へ戻る道中、インタビューすることに成功した。今シーズンを振り返ってもらった。

今年は日本に来る喜びが高まった

「自分にとってはすごく悔しいシーズンでした。8試合の推薦がもらえるなか、6試合しか出られませんでした。それが心残りです。一方で、少ない試合数の中で、応援してくれた多くの日本のファンの方にはとても感謝しています。幸せな気持ちにさせてくれることがすごく嬉しいです」

 ファンへの感謝を忘れないのは、日本で大きくブレイクしたアン・シネだからこその想いでもある。

「ファンの声援を受けながら、いいプレーが出来る時には特に幸せを感じます。自分が狙った場所に打つことができたり、アプローチやパットが噛み合ったりした時により嬉しさを感じるものです。それに、去年と大きく変わったことは、今年の方がより日本に来る喜びが高まったことです」

 去年よりも今年のほうが、日本に来る楽しみが増えたとアン・シネは言った。それは具体的にどのような部分なのだろうか。

「2017年に来日したばかりの頃は、日本ツアーの右も左も分かりませんでしたし、日本語も中々理解できず、寂しい思いをしていました。もちろん知り合いも少なく、知らない場所で、いろんなところで気を張らないといけませんでした。でも、今ではある程度の日本語も理解できるようになりましたし、顔見知りもたくさんできました。環境に慣れてきたので、気持ちがすごく楽になりましたよ」

 1年目と比べて、2年目になると声をかけてくれる人も増え、ゴルフ場やツアーの環境にも慣れた。気を張らずにいられることで心境面に大きな変化があったのだろう。

日本ツアーとファンの大切さ

 今、アン・シネにとって一番大事なものは何なのかを聞いた。3つをあげて欲しいと言うと、少し考えてこう答えた。

「両親、日本ツアー、ファンとスポンサーですね」

 その理由についてこう語る。

「私には両親、家族が一番大事です。2つ目は日本ツアー。私のことを知ってもらった場所なので、すごく大切な部分ではあります。3つ目は日本のファンとスポンサーです。私が日本ツアーで生活できるのは、これらのおかげだと強く感じています」

 アン・シネが特に気遣っているのはガンを患った父の健康状態だ。

「今でも近くにいたい気持ちに変わりない」と言うように、韓国を拠点に家族の近くにいるほうが、心境的に楽というのは本音だろう。

「心配事は尽きませんが、アボジ(父親)の体は今とても良好で、『来年も日本の試合に出て欲しい』と言うので、その気持ちでがんばります」

「ゴルフ人生はまだ12ホール目」

 最後にアン・シネに聞いた。自分のゴルフ人生が18ホールに例えると今は何ホール目なのか、と。

「とても面白い質問ですね。そんなこと考えたことなかったですよ(笑)」と話を続ける。

「日本に来たのが私にとってのターニングポイントでした。もちろん9ホールは過ぎたでしょう。ハーフターンで10番からスタートして、今は12番ホールくらいだと思います。逆にどう思いますか?」

 てっきり16番ホールくらいにいると思ったのだが、アン・シネの答えは、残り6ホールも残していた。まだ28歳。やり残したことが多いということだろう。

「プロゴルファーとして、まだやるべきことはたくさん残っていると感じます。それこそ、日本ツアーでの優勝を今も考えていますし、大きな目標としています。もちろん、来年は優勝を目標に一生懸命頑張りたい」

 まだやり残していること。それは、ブレイクのきっかけを作ってくれた日本ツアーでの優勝なのだろう。自分の実力を示せないまま、終われないという気持ちが彼女にはあった。

「ゴルフと恋愛を同時にはこなせない」

 そしてアン・シネが言葉をつなげた。

「ゴルフは私にとって“同伴者”です。私を喜ばせたり、疲れさせたり、怒ったり、笑ったり。そんな感情を起こしてくれるのがゴルフ。恋人の駆け引きにも、押したり引いたりがありますが、ゴルフはそれとも似ていますね。だから難しいしおもしろい」

 その流れで恋愛や結婚観についても聞いたが、「ゴルフと恋愛・結婚の両方を同時にこなすのは難しいです」と苦笑い。

「今はゴルフにもっと集中したいという気持ちが勝っているので、結婚はまだ先の話です。それよりも、そんな理想の人と出会っていないっていうことなんでしょうけれど(笑)」

 一時のフィーバーは去ったように思う。それでも日本の試合に出場すれば、また必ず彼女の言動がニュースになるだろう。ただ、日本3年目となる2019年は、それだけでは物足りない。

 今、アン・シネに必要なのは、“セクシー”な話題だけではなく結果だ。

※韓国女子プロゴルフ協会が先月、2019年から韓国ツアーのシード権を持つ選手の海外ツアー出場試合を3試合に限定するなど、いくつかの規定を改定すると発表。これはアン・シネにも適用されるという。日本ツアーに多く出場したい彼女にとっては寝耳に水の話。結論から言うと、アン・シネは来季日本ツアーに3試合しか出られないということになるのだが、今後の動向を注視したい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

金明昱の最近の記事