ポータブル・ロック40周年記念ライヴは、鈴木慶一、Kaedeも駆け付けた熱狂のニューウェイヴ・ナイト
「そういえば、私たちまだ解散してなかったよね」
1982年、野宮真貴、鈴木智文、中原信雄の3人で結成されたユニット、ポータブル・ロック。国内外に熱狂的なファンを持つニューウェイヴ・サウンドの伝説的存在だ。1990年代以降は実質、活動休止状態だった彼らが結成40周年を迎え「そういえば、私たちまだ解散してなかったよね」という、野宮のひと言をきっかけに活動を再開。まずは新曲「Lonely Girl, Dreaming Girl」を先行配信(5月11日~)し、同曲を含む結成40周年記念オールタイムベストアルバム『PAST & FUTURE ~My Favorite Portable Rock』を、5月25日にリリースした。
40周年記念ライヴは10年振りのライヴ
そして7月9日には、10年振りのライヴ『PAST & FUTURE ~My Favorite Portable Rock』を、新代田FEVERで行なった。中原(B)、鈴木(G)、そしてサポートメンバー金津ヒロシ(Syn&Per)に続いて、イノセントな雰囲気の白いワンピースを纏った野宮真貴が登場すると、ひと際大きな歓声があがる。ライヴハウスの雰囲気が一気に華やかになり、オープニングナンバーは「ピクニック」だ。太いベースと煌びやかなシンセサイザー、軽やかなギターと野宮のボーカルが、どこか夏の薫りがするこの曲をさらにキラキラさせる。
ギターのカッティングが印象的な「クリケット」を披露し、1stシングル「TuTu」はアコースティックバージョンで、野宮の柔らかでスウィーティなボーカルがより浮き上がってくる。さらにそのエバーグリーンなメロディは一聴くと忘れられない「グリーン・ブックス」など、前半はポータブル・ロック初期のナンバーを並べ、当時ニューウェイヴと呼ばれた斬新さ、そして懐かしさと共に、改めて新鮮さを強く感じさせてくれるナンバーばかりだ。
Kaede(Negicco)が登場。まっすぐな歌が客席を優しく包む
この日のスペシャルゲストの1組目、NegiccoのKaedeが登場。鈴木慶一、小西康陽、田島貴男、KIRINJIらのアーティストが楽曲提供をし、その音楽性の高さでも高い評価を得ているた新潟発のローカルアイドルユニットNegicco。Kaedeは2019年から並行してソロ活動をスタートさせている。今回は野宮の「ポータブル・ロックはみんな還暦を超えているし、(ゲストの)鈴木慶一さんに至っては古希。やっぱりKaedeさんのような若いシンガーに華を添えてほしい」という熱烈オファーを受け、このライヴに参加した。野宮はさらに「Negiccoという“オルタナティブなアイドル”という立ち位置が、“ニューウェイヴのアイドル”としてデビューした私と似ているし、Kaedeさんの声も曲も素敵」と自身のアイデンティティとKaedeを重ね、これまで自身が紡いできた音楽を、もっと若い世代に伝えたい、彼らと繋がりたいという強い思いを持っている。
サポートミュージシャンの佐藤優介も登場し「夏の十字路」から。Kaedeのまっすぐな歌が一瞬にして客席を包む。3月にリリースした「光の射すままに」は、春を感じさせてくれる爽やかなナンバーで、Kaedeの声がまさに光となって、温もりを届けてくれる。お客さんの前での「久々のライヴ」(Kaede)を、彼女自身も楽しんでいる。鈴木慶一作詞・佐藤優介作曲の、雰囲気のあるバラード「生きる爆弾」は、言葉一つひとつを丁寧に伝えていくように歌う。「ジュピター」でも親近感のあるメロディを優しいタッチで届けてくれ、聴き手の心を“和ませる”。
33年振りの新曲「Lonely Girl,Dreaming Girl」を披露
野宮のソロライヴでの60年代ファッションではなく、80年代ニューウェイヴを意識したイエロー×ブラックの鮮やかなワンピースに着替え、再び野宮がステージに登場。後半は33年振りの新曲の「Lonely Girl,Dreaming Girl」から。2000年代のエレクトロポップ感と80‘sの懐かしさが、抜群の塩梅で交差しているラブソングで、野宮が初めてポータブル・ロックの楽曲で作詞を手がけた。続く「チェルシーの午後」も新曲だ。かき鳴らすアコギとコーラスが印象的な、ネオアコ風の爽やかなサマーソングで、野宮のボーカルがさらに軽やかさを際立たせる。
鈴木慶一が登場「VIDEO BOY」でパワフルなギターとボーカルを披露
もう一人のスペシャルゲスト、“御大”鈴木慶一(ムーンライダーズ)が登場。鈴木が、ドラムレスでも打ち込みを流しながらライヴができる、3人で持ち運びできるロックという意味を込めてポータブル・ロックと命名したことは有名だが、この日は「ポータブル・ロック・ファイヴだな」と語っていたように、鈴木が加わり強いバンドサウンドを聴くことができた。
まずは、鈴木慶一がプロデュースした野宮真貴のデビューアルバムで、ポータブル・ロックにつながる音楽の成分が多分に含まれている『ピンクの心』(1981年)から、「うさぎと私」を披露。鈴木は「ニューミュージックでもなく、ニューウェイヴでもなく、“新歌謡”って名付けたアルバムだったけど売れなかった」と当時を振り返ったが、この曲は鈴木が他のアーティストに提供した曲の中でも「三本の指に入る」というお気に入りの一曲だ。そして1986年春にコーセー化粧品のCMソングになって「これで売れると思った」(鈴木)という「春して、恋して、見つめて、キスして」の一節を披露。野宮は「たくさん売れた方がよかったかもしれないけど、自由に好きなことができたから解散しなかったんだと思う」としみじみと語っていた。
ムーンライダーズのニューウェイヴ時代の名曲「VIDEO BOY」では鈴木のパワフルなギターとボーカルが炸裂した。
野宮の40周年記念アルバム『New Beautiful』に収録されている、ポータブル・ロックが提供したポップチューン「Portable Love」も、やはり懐かしさと新鮮さを感じさせてくれる、現在進行形のニューウェイヴナンバーだ。野宮はそのボーカル、佇まい、全てがクールでスタイリッシュで、40年間を軽やかに駆け抜けてきた。それはメインストリームではなく、先ほどの野宮の言葉の通り「好きなこと楽しんできた」キャリア、カウンター的な存在として“オルタナティブ・ポップスの女王”と呼ばれてきたからこその、軽やかさではないだろうか。小西康陽作詞の「イーディー」、続く「ダンス・ボランティア」では客席が体を揺らしながら楽しんでいた。キュートさとセクシーさ両方を感じさせ、演出できる野宮は、やはり永遠のポップアイコンだ。
野宮とKaedeのWボーカルで「アイドルばかり聴かないで」を披露
アンコールは再びKaedeが登場し、小西康陽がNegiccoに提供した「アイドルばかり聴かないで」をデュエット。ピチカート・ファイヴのフレーバーを持ったこの曲を野宮がKaedeと歌うこのシーンも、この日の大きなトピックスになった。そして鈴木慶一が登場し、「この曲を聴いていた小西君が嫉妬したという」(野宮)名曲「アイドル」を披露した。ラストはキラキラ感満載のポップチューン、小西康陽作詞の「スウィート・ルネッサンス」でしめた。
40周年記念ライヴは8/28京都・メトロでも開催
このライヴでも感じたが、ポータブル・ロックの新作『PAST&FUTURE』は、ニューウェイヴやテクノポップのコアファンはもちろん、新しい世代の若いリスナーにも新鮮な音楽として受け入れられるはずだ。このライヴは7月15日(金)までアーカイブ視聴可能で、8月28日(日)には京都・メトロ公演も決定した。
そして野宮真貴は、40周年イヤーの締め括りとして9月8日(木)にブルーノート東京で、矢舟テツロートリオとジャズライヴを行う予定。「還暦を過ぎて、40周年も迎えたけれど、まだまだ歌える気がしています。歌うことがまた楽しくなってきました」と語る野宮真貴のこれからに注目したい。