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大宮アルディージャがレッドブル傘下となって、気になる「マスコットの去就」

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
大宮アルディージャのマスコット、アルディ(右)とミーヤはサポーターの人気者。

 8月6日、大宮アルディージャ(J3)と大宮アルディージャVENTUS(WEリーグ)を運営するエヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社の株式譲渡が発表された。

 同社の全株式を買い取ったのは、オーストリアが本社のレッドブル・ゲーエムベーハー(Red Bull GmbH=以下、レッドブル社)。かねてから噂はあり、先週には「決定的」という報道があったものの、いざ外資系企業のJリーグ参入が実現するとなると、やはり感慨深いものがある。

 なぜレッドブル社がJリーグに参入するのか? そして外資参入がJリーグや大宮にどんな影響を与えるかについては、こちらの有料ウェブマガジンで詳しく述べている。本稿では、ここで多くを語らなかった「マスコット」について、言及することにしたい。

 レッドブル社は現在、5つのプロサッカークラブを保有、もしくはメインスポンサーとなっている。すなわち、FCレッドブル・ザルツブルク(オーストリア)、ニューヨーク・レッドブルズ(米・MLS)、RBライプツィヒ(ドイツ)、FCリーフェリング(オーストリア2部)、レッドブル・ブラガンチーノ(ブラジル)。

 これら5クラブは基本的に、クラブカラーもエンブレムもクラブ名も統一されているが、いくつか例外はある。たとえばRBライプツィヒの場合、ドイツでは企業名を入れることができないので「RB(RasenBallsport=芝生球技)」を採用。また、ザルツブルクのセカンドクラブ的な位置づけにあるリーフェリングは、エンブレムが異なっている。

NACK5スタジアムでの大宮のホームゲーム。スタンドは毎試合、クラブカラーのオレンジで満たされる。
NACK5スタジアムでの大宮のホームゲーム。スタンドは毎試合、クラブカラーのオレンジで満たされる。

■何もかも自社カラーに染め上げるレッドブル

 それでもレッドブル社は傘下に置くクラブに対して、クラブ名やエンブレム、さらにはクラブカラーの変更を徹底して求めてきた。

 サッカーファンには言わずもがなだが、クラブカラーはサポーターにとってアイデンティティそのもの。にもかかわわらず、ザルツブルクの紫もブラガンチーノの白黒も、レッドブル社のコーポレートカラーを想起させる、白と赤に替えられた。大宮のオレンジも、そうなる可能性が高い。

 今はカテゴリーが異なるが、ダービー関係にある浦和レッズの赤は、大宮のサポーターが最も忌避すべきカラーである。レッドブル・グループのユニフォームは、白地に赤のデザインで、赤の比率はそれほど大きくはない。それでも、慣れ親しんだオレンジを放棄することに、抵抗を感じるサポーターも一定数いるはずだ。

 レッドブル社の傘下になってことで、新しいクラブ名は「RB大宮アルディージャ」となることが濃厚とされている(参照)。そして莫大な資本投下の見返りに、エンブレムも2頭の赤い牛が向き合うものに変更され、思い出深いオレンジを差し出すことになるのかもしれない。では、マスコットはどうだろうか?

 大宮のマスコットは、アルディとミーヤというリスのカップル。相思相愛でありながら、ミーヤのコケティッシュな行動にアルディがヤキモキする展開は「お約束」となっている。それに対し、レッドブル系列のクラブのマスコットは、筋骨隆々の赤い牛。これを受け入れるのは、さすがに厳しいように思えてならない。

キックオフ前の集合写真には、アルディとミーヤも必ず参加。マスコットもまたチームと共に戦っている。
キックオフ前の集合写真には、アルディとミーヤも必ず参加。マスコットもまたチームと共に戦っている。

■責任企業が変わっても日本のマスコットは不変だった

 32シーズンに及ぶJリーグの歴史で、責任企業が変わったことでクラブ名やエンブレム、そしてクラブカラーが変更になったことは、これまで何度かあった。

 最もドラスティックだったのが、2004年のヴィッセル神戸。楽天グループとなったことで、クラブカラーは白黒ストライプからクリムゾンレッドとなり、エンブレムも現行のものに変更された。ただし、これは極めてレアなケース。FC町田ゼルビアがサイバーエージェントに、鹿島アントラーズがメルカリに、それぞれ株式譲渡されて以降も、クラブカラーやエンブレムの変更が求められることはなかった。

 もっとも町田の場合、クラブ名を「FC町田トウキョウ」に、そしてエンブレムとマスコットも変更する案もあった。しかし結果としてサイバーエージェントは、クラブ名もエンブレムもマスコットも、現状のままとすることを決断。非常に賢明な判断であったと思うのは、私だけではないだろう。

 日本のスポーツクラブにおける、マスコットの存在意義は、世界的に見ても特殊である。一番は「不変の存在」であること。選手や監督やクラブ社長は変わるし、時代に合わせてエンブレムがリニューアルされることもある。変わらないのはマスコットだけ。たまにマイナーチェンジすることはあっても、いきなり犬が鳥に替わることはない。

 アルディは1998年、そしてミーヤは10年後の2008年にデビュー。以来、2匹はNACK5スタジアムにて、ファン・サポーターとのふれあい、そして選手たちと共に戦い続けてきた。そんなアルディとミーヤが、いきなりいなくなってしまったら、親は子供に何と説明すればいいのだろうか?

 おそらくレッドブル社の人間は、日本のマスコット事情をよく知らないと思われる。大宮のファン・サポーターが、アルディとミーヤの残留を心から願うのであれば、今から平和的かつ説得力のあるアピールの方法を考え、実行に移していくべきであろう。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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