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道路の有料化、いい加減にして!市民は我慢の限界、ノルウェー選挙に激震

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オスロ市庁舎前を走る車 Photo: Asaki Abumi

北欧ノルウェーでは9月に統一地方選挙がある。選挙の争点が、意外な方向に走っている。

「道路の有料化」に、「いい加減にしろ」と市民が怒り始めた。

ノルウェーには各地に有料区間があり、車はここを通過する度に課金される。高速道路かは関係ない。

例えば、首都オスロ内でディーゼル・ガソリン普通車で有料スポットを1度通過すると、通常は21ノルウェークローネ(264円)、ラッシュアワーは28ノルウェークローネ(352円)ほど。

隣街のシーとオスロを、ラッシュアワーにディーゼル普通車で往復すると80NOK(1007円)ほど。

大きなトラックなどは、さらに高額の請求書が届く。

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車の数が多すぎると、渋滞や大気汚染問題が悪化する。出入りを規制するために、ラッシュアワーにはさらに料金が高くなる。

大気を汚染しない電気自動車EVであれば免除対象か、少額の支払いで済む。大気を汚染するガソリンやディーゼル車ほど、請求額は高い。

制度は地域ごとに違っており、自治体議員たちが議会で決める。

お金は交通機関の改善など、市民の生活がより便利になるような制度にまわる。

大気汚染がひどくなると、ぜん息持ちの子どもたちが増え、市民の健康に影響を及ぼす。

環境や気候変動対策ともなるため、「緑の税」ともいわれる。

一方で、「不平等な税」と、いらだちを隠せない人も多い。

誰もが好んで、ガソリン車に乗っているわけではない。

誰もが好んで、車に依存した生活をしているわけではない。

金銭的に余裕があれば、さまざまな優遇サービスがあるEVに、すでに買い替えていた人もいるだろう。

EVは田舎での長距離に必ずしも得策とはいえない。地方であればあるほど、バスなどの移動手段には限りがあり、子どもの送迎がある家族ほど、車があったほうが便利だ。

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日本とノルウェーで大きく違うことがある。

日本では車を生産している国でもあるため、ノルウェーのように車を問題視する議論が多くはない。

ノルウェーでは、こう言われることがある。

「車の運転手は自分勝手だ。車は道路の面積をとりすぎる。何人もの歩行者や自転車乗りが使えるはずのスペースを、大きな1台の車が占領する」

「自分たちの普段の便利性だけを考えて、未来・環境・社会に与えるマイナス面を考えていない」など。

この議論は、大都市以外の場所に住んでいる人ほど、イライラする。

「わかっていないのは、そっちだ。地方には首都ほどバスや電車が通っていない」

「お金に余裕のない家族の財布に打撃を与える。EVを買えるのは金持ちのエリートだ。これほど不公平な政策はない」

何年も続いていた議論だが、中道右派・左派限らず、未来のために、政治家たちは道路有料化をゆるめることはなかった。

ノルウェーの極右、右翼ポピュリスト政党の「進歩党」は、「車の運転手の味方」の立場をとっていた。

しかし、政権入りし、連立する他党との妥協もあり、極右がいる現政権下でも、道路有料化は止まらなかった。

車の運転手たちは、我慢の限界に達する。

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各地で、「道路有料化に反対する」政党が立ち上がり、世論調査で異常に高い支持率をたたき出しているのだ。

右派・左派の既存政党は、真っ青になり、あわてふためいている。

この政党に、移民背景のある人、金銭的に余裕がない人、極右支持者だった人など、両派の支持者が流れているからだ。

同じく、首都オスロの現象として、とある政党の支持率も急上昇。道路有料化が「大好きな」、「緑の環境党」だ。

「道路有料化の利点が分からずに、急に現れた新政党。しかも有料道路に関する政策しかない持たない、政策がこれほど中途半端な不真面目な政党を支持する人が、こんなにもいるなんて!」。

ショックを受けた人々が、正反対の緑の党を、「お前たち、がんばれ」と意思表示で応援しているのだ。

結果、有料道路制度に対して賛成か反対か、最も極端な政党に人々が流れる。全体的な政治のバランスを保つ既存政党から、支持者が減っているのだ。

第二の規模の街ベルゲンでは、「有料道路に反対」政党は、現地メディアの世論調査で25%という驚異の支持率を出し、首都オスロでは9%。全国レベルでは6%を記録(VG紙)。

4年前の選挙で存在していなかった政党が、これほどの支持を得るのは異常だ。

もし選挙結果がこのような形になると、各地の議会の構図が大きく変わることになる。

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自治体のコミュニケーション不足

ノルウェーの人々は、本来は「高い税金」には納得して成り立っている。

福祉制度などで、税金がどう使われているか、利点を身に染みて感じながら生活しているからだ。

しかし、道路有料化の「緑の税」が不公平だと人々が叫ぶ背景には、自治体のコミュニケーション不足もあったのだろう。

国政レベルはともかく、地方政治となると、人々の関心は低くなり、自分が住む地域の政治をよくわかっていない人は多い。

この議論が表面化してから、オスロ市議会はFacebookの有料広告で、「道路料金は、このように使われているのですよ!」と急に宣伝し始めた。

私のFacebookページにも、もう何回もぴょこぴょこ出てくる(前からしていればよかったのに……)。

人を感情的にさせるテーマは、選挙に嵐を起こす

ノルウェーの環境政策は猛スピードで進むが、時に議論カルチャーが極端すぎることもある。

特定のライフスタイルの人を、「エゴイスト」として攻撃するような傾向が、日本よりも強い。

「そんな言い方をしたら、日本では嫌われるぞ、失礼だぞ」と、私は心の中で思うことがよくある。

有料道路制度は、人々を特に感情的にさせるテーマのひとつだ。

「気候変動対策のために、赤肉を食べる量を減らそう、車に乗る日を減らそう」というのと同じように。

冷静さを失うテーマほど、議論は難しくなる。

残り2か月、道路有料化に納得いかない人々を、既存政党はどう説得していくのだろうか。

「ほかの政策の議論が、影に追いやられないといいのだけど」、と私は思いながら観察中だ。

国会前で政治家に抗議デモをしている方々の写真は、こちらの記事にて

「値上がりが続く有料道路に車の運転者が怒り爆発 ノルウェーでの車増加・環境対策」

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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