コロナ禍の自然災害 避難所における新型コロナ対策の現実と限界
大雨警報と土砂災害警戒情報が発表されていた静岡県熱海市で、大規模な土石流が発生し、ニュースになりました。多くの住民の方が避難されました。
2020年7月にも、熊本県で豪雨災害がありました。球磨川が氾濫・決壊し、八代市、人吉市、球磨村などの流域で多数の死者が出て、避難所にもたくさんの人が入所しました。
密を避けて、マスクをつけて・・・と、わパンデミックから1年以上を経てようやく新型コロナにも慣れてきたとはいえ、「避難所における新型コロナ対策」では様々なことに注意する必要があります。
日本医師会による「避難所マニュアル」
2020年6月に日本医師会から「新型コロナウイルス感染症時代の避難所マニュアル」(1)が出ていますので、これを参考にして避難所でのコロナ対策を講じる必要があります。各自治体でも避難所マニュアルが作成されているので参考にしてください。
ワクチン接種会場と避難場所が重複していることもあるので、避難所設営において求められるのは、密にならないよう周囲の人との動線をできるだけ分離するということです。しかし、ただでさえ狭い避難所でソーシャルディスタンスをおこなうのは容易なことではありません。密にならないベストな感染対策を講じるのか、可能な範囲で受け入れ人数を増やすのか、どちらを優先するかは自治体にゆだねられているのが現状です。
政府が2021年6月に閣議決定した防災白書では、「分散避難」を呼びかけています。これは、避難所の密を避ける狙いで、安全な場所であれば親戚や知人の家も避難先の候補としています。
マニュアルには、「避難所に入所する前に、すべての避難者に対して発熱や呼吸器症状などの新型コロナウイルス感染症を疑う症状の有無をスクリーニングする必要がある」と記載されています。ただし、有事にこれを全員に行うには、マンパワーが足りないだけでなく、避難する側にもそういう余裕がありませんので、可能な範囲でやらざるを得ないというのが現実的なところかと思います。
また、可能であれば1日2回避難者の健康状態を確認します。運営スタッフも連日健康観察をおこないます。避難所から発熱者が出た場合、新型コロナの可能性を疑って、すみやかに対応する必要があります。
さらに、マニュアルには「マスクのみに頼るのではなく、手指衛生を徹底する方が感染予防効果は高い」と記載されており、避難所にユニバーサルに使用できる消毒剤を設置する必要があります。避難者が持参することが推奨されているものの中に、「手洗い洗剤/石鹸、マスク、アルコール消毒」が入っておりますので、余裕があるならこれら手指衛生に必要な物品は持っていきたいところです。とくに、マスクについては避難所生活が長引くようなら、複数枚持っていく必要があるでしょう。
気を付けたい二次的健康被害
食事の配給が少ない避難所生活の場合、食事を「取り置き」する人が出てきます。そうなると懸念されるのが食中毒です。避難所は、衛生状態や温度管理がベストとは言えませんので、安易に古い食べ物を口にしないよう注意する必要があります。
また、去年の熊本でも発生しましたが、避難所の受け入れ人数が制限されてしまうと、車中泊や廊下泊が増えてしまいます。これにより体の静脈がうっ滞してしまいます。また、ライフライン途絶によって水・食料が不足して慢性的な脱水に陥ったり、災害の恐怖による交感神経刺激亢進による血液凝固亢進が起こったりして、相加相乗的に作用して血栓が作られやすくなります。特に下半身に血栓ができやすくなりますので、下肢深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症のリスクが上昇します。避難所において、こまめに運動するなどの工夫が必要です。
重要なことは、新型コロナに感染するリスクを過度におそれて避難せず危険な場所にとどまってはいけないということです。密を避けることよりも、命を守ることを最優先に考えて行動する必要があります。
(参考)
(1) 公益社団法人日本医師会. 新型コロナウイルス感染症時代の避難所マニュアル. (URL: https://www.med.or.jp/dl-med/kansen/novel_corona/saigai_shelter_manual.pdf)