異常、心の病とは何か:同性愛は異常?
■同性愛は異常?
同氏は、「差別的意識でなく、同性愛を認めれば少子化が進み、国も地方も成り立たなくなるという趣旨だった」と語っています。確かに、もしも人間みんなが同性愛になってしまえば、少子化はすごい勢いで進んでしまうでしょう。
しかしそれでも、「異常」という発言には、多くの人から批判の声が上がっています。
■心理学、精神医学から見た同性愛
人間の心や行動の何が正常で、何が異常、病気なのかは、文化により時代により変化してきました。同性愛は、かつては異常であり治療の対象である精神疾患とみなされてきました。
しかし現在では、WHOもアメリカ精神医学界も、同性愛を異常な精神疾患とは見なしていません。
■異常、心の病とは何か
体の病気であれば、レントゲンを撮ったり、血液検査をしたりすることで、病気がどうかの判断ができるでしょう。ところが、心の病の判断は複雑で微妙です。私たちは、一般にどのような人を「異常」「心の病」と見なすのでしょうか。
1、平均からの大きなズレ、少数派であること
私たちのほとんどは、目が二つ、鼻が一つです。だから、目が一つとか鼻が2つの人は、異常であり、病気と見なされるでしょう。身長が150センチの人は小柄な人ですが、異常や病気ではないでしょう。でも、大人になっても身長50センチとなれば、診断名がつくことでしょう。
平均からお大きくずれていて、数が少ないと、それは異常とか病気とか呼ばれます。多少怒りっぽかったり、気が弱かったりするのは、個性です。でも、あまりに極端に怒りっぽくて毎日人を殴っている人や、まったく外出できず誰とも話ができないほど気が弱いとなると、個性ではなく、心の異常、心の病とされることもあるでしょう。
2、価値があるかどうか
生まれてから一回も虫歯になったことがない人は、少数派です。でも、だからと言って異常な病気とは見られません。100メートルを10秒で走る人は、大きく平均からずれている人ですが、やはり病気とか異常とは言われません。
虫歯がないことも、早く走れることも、価値があると考えられるからです。少数でも、平均から大きくずれていても、価値があるとみんなが思えば、異常、病気とは言われず、逆に素晴らしいと称賛されるでしょう。
とても変わった形の木を見れば、人々は異常な木と考えるかもしれません。でも、その種類の木はみんなその形だとわかれば、人々は異常とは言いません。あるいは、その木一本だけが変わっていたとしても、とても芸術的な形だとされれば、異常どころか高い価値が出ることもあるでしょう。
3、許容範囲かどうか
世の中には、ずいぶん変わった人がいます。ハローウィンでなくても、渋谷の街をびっくりするような格好で歩いている人がいます。けれでも、それでもその人たちは病気や異常とは言われないでしょう。
平均からずれている少数派であり、それに一般の人は価値を認めるわけでもはなくても、まあその程度なら許容範囲であると見なされれば、病気や異常とはされないわけです。
何に価値があるのかどうか、それは許容範囲なのかどうか。それは、時代により社会によって変化します。だから、ある人の人間の心や行動が異常な病気なのかどうかは、時代により社会により変化していくのです。
■平均から離れている少数派をどう見るか
平均から大きくずれていて、大きい方の1%、小さい方の1%となると、統計学的な異常値とみなされます。ただし、統計的な異常値でも、心や体の病気なのかどうかは、診断が必要とされます。
また、専門家が「病気」「異常」と言うときには、本来的にはその人自身に関する価値観を含みません。たとえば、心臓に異常があるという場合には、治療が必要な病気であるという意味であり、その人自身の人間としての価値には無関係です。
しかし一般に私たちが誰かに向かって「お前は異常だ」とか「異常者!」と語るときには、相手の人格を否定する思いを込めて言うことが多いでしょう。性的マイノリティに対する考えも、様々です。いろいろな場面で、平均とは異なる人もいます。けれども、いずれにせよ相手の人格を否定するような態度は許されないことだと思います。