「世界標準」IGアリーナが動き出す。NTTドコモが目指すイノベーションとエンタメ・スポーツの新時代
世界標準のIGアリーナが切り拓く新たな市場、NTT docomoが実現するエンタメ・スポーツの未来
NTT docomo(以下、ドコモ)は来年2025年7月13日の開業を目指し、愛知県と共同で大規模エンターテイメントアリーナを現在建設中である。
グランドオープンは日本の国技である大相撲の名古屋場所が予定されている。立地も名城公園内という最高のロケーションだ。
「IGアリーナ」ー株式会社 愛知国際アリーナ(代表取締役社長 鷺徳次)が今年2月8日、2025年に開業する愛知県新体育館のネーミングライツ取得企業と名称を発表した。
世界最先端のエンターテイメント企業であるAEGが進めている日本初の「世界標準」のアリーナだ。ネーミングライツを取得したのはロンドンを本社とした世界的なフィンテック企業、IGグループである。10年間のネーミングライツの権利獲得とアリーナにおいてアジアおよび日本で最大規模とされる契約金額は先日の記者会見でも話題となり、大きなニュースとして国内外で配信された。
IGアリーナはIOWNをはじめとする最先端テクノロジーを駆使、これまでにないアリーナ体験の創出を目指していく。ドコモとAEGが描く、日本初のグローバルスタンダードアリーナが実現すれば、旧来の日本のエンターテイメントやスポーツビジネスが根本から変わることになる。まさに新時代の到来だ。
その全貌をNTTドコモ 執行役員 エンターテイメントプラットフォーム部長 櫻井 稚子氏に伺った。櫻井氏のIGアリーナにかける思い、ドコモの新時代の戦略、また新たなコンテンツ事業についての取り組みなどあますところなく語ってもらった。
(*記事中の画像は特に出典がないものは福田俊介氏の撮影)
日本初のグローバルスタンダードのアリーナが名古屋市に誕生
ー まず、IGアリーナの概要について教えてください。
櫻井 IGアリーナは最大収容人数1万7千人を誇る大規模な複合エンターテイメント施設です。コンサートやスポーツイベント、他地域イベントなど幅広い用途に対応できるよう、柔軟性の高い設計思想を採用しています。
さらに高品質の音響や照明システムに加えて場内各所にデジタルサイネージの設置を計画しております。リアルタイムの観客データに基づき、パーソナライズされた情報を配信。利便性の向上だけでなく、広告宣伝の高度化にも役立てていきたい考えです。こうした施策を通じて、競合施設にはない付加価値を提供していきます。
上質な空間とサービスを徹底的に追求したスイートルームやプレミアムシートなど、ホスピタリティ機能も今までの日本にないもので、ここは是非多くの方々に体験してもらいたいと心から思っています。
ビジネスシーンでスイートルームをご利用いただくことで、これまでにはないコミュニケーションが生まれるのではないかと考えています。今までの会食やゴルフを通じたビジネスコミュニケーションとは違い、エンタメはどなたでも楽しんでいただけるのに加え、一緒に飲食をしながらエンタメを楽しむ感動体験を通じて、商談に繋がることもあるのではないでしょうか。
さらに世界的建築家の隈研吾氏の手による、木材を多用した非常に温かみのあるデザインも大きな特徴なのです。第一に自然との調和を図りつつ、名城公園の周辺地域の新たなランドマークとなることを目指しています。
ー なぜドコモがIGアリーナのプロジェクトに参画されたのでしょうか。最も読者の関心がある部分です。
櫻井 今回のIGアリーナの構想が本格的にスタートしたのは2019年でした。当時、愛知県が2026年のアジア競技大会に利用できる国際水準の愛知・名古屋のシンボルとなるアリーナの整備を公表していたのです。ドコモとしても計画に強い関心を抱き、早期から参画の検討を開始していました。エンタメやスポーツは「5G時代」の新たなビジネスチャンスと位置付けており、ドコモの培ってきたアセットとリアルな場所を組み合わせることにより、IPの価値を高め、お客様に感動体験を提供できると考えていたからです。
諸々の入札プロセスを経て、ドコモと前田建設グループを中心とする企業連合が設計・建設・運営の全般を手掛けることが決定しました。以来、最先端技術とサービスノウハウを駆使して、世界に類を見ないスマートアリーナの実現に向け邁進しています。
全貌がわかっていただけると、IGアリーナが単なる旧来のハコモノではなく、エンタメ業界に革新をもたらすゲームチェンジャーになると考えています。そんな想いを胸に、現在プロジェクトを牽引しているところなのです。
没入感の追求と「スマートアリーナ」の未来価値
ー「没入感(イマーシブ)」という言葉が出ました。先日、お台場に誕生したイマーシブ・フォート東京のコンセプトはまさに没入感。過去にはまったくなかった顧客体験が特にZ世代を中心に話題となっています。IGアリーナでは、どのような顧客体験を提供したいとお考えでしょうか。
櫻井 アーティストとファンの一体感を追求した、かつてない熱狂体験の創出を目指しています。特に注力しているのがアリーナ特設のIOWNネットワークの構築です。
ー他のアリーナでは真似のできない部分で、御社の強みです。くわしくお聞かせ下さい。
櫻井 おっしゃる通りで、IOWNはNTTグループが多くのパートナーの皆様と共に2030年頃の実用化に向けて推進している、次世代コミュニケーション基盤の構想です。超高速・大容量、低遅延、低消費電力という特徴があり、8K映像も遅延なく送れるので、例えば、放送事業者さまには中継車の代わりに放送中継用のネットワークとしてご利用いただけます。パートナー様と色々な掛け算で用途が拡がっていくことを期待しています。
また、バーチャルとリアルの融合という点でも積極的に取り組んでいて、競技やコンサートの興奮を、そのままVR空間に転写するなど、現地とオンラインの垣根を越えて、等身大の選手やアーティストと触れ合えるようなサービス展開することも考えていきたいと思います。
ー正直、聞いているだけでワクワクしますね(笑) マーケティング面でのDXについても教えていただけますか。
櫻井 私もこのプランのことを考えているといつもワクワクしているんです(笑) 一日でも早くユーザーや顧客にお届けできないかと考えています。
デジタルマーケティングやCRMの高度化は、IGアリーナの重要なミッションの一つになります。ドコモが保有する約9,900万人の顧客データベースとの連携も大きな武器になります。dアカウントを共通IDとして、購買履歴や趣味嗜好など各種データを横断的に分析し、来場者一人ひとりに寄り添ったアプローチを展開していく予定です。
ー旧来のCRMを超えたイメージを持ちます。究極のパーソナライズですね。
櫻井 まさにそのパーソナライズに向けて、今までにない、ユーザーへの価値を新たなアリーナアプリを通してグローバルレベルで提供していきたいと考えています。例えばですが、事前のセグメントに基づくチケットの優先販売はもちろんですが、観戦中や事後のフォローまで手がけます。
また、デジタル基盤の構築と併せて場内の人流データの活用にも取り組みます。リアルタイムに混雑状況を可視化し、警備計画やアナウンス誘導に反映させていきます。渋滞の緩和や事故防止だけでなく、快適性の向上にも繋げてまいりたいと考えています。
他にもブロックチェーンを活用したNFTマーケットプレイスの開設など、web3.0時代のマネタイズ手法の導入も積極的に進めていきたいです。それが私たちの目指す「スマートアリーナ」のコンセプトです。
自社コンテンツの制作・発信も強化
ードコモはコンテンツ制作も手掛ける「NTTドコモ・スタジオ&ライブ」を設立しました。その狙いは何でしょうか。
櫻井 エンターテイメントの事業価値を最大化するには何が必要か? それはコンテンツホルダーとしての役割が欠かせないと考えました。これまでのコンテンツをアグリゲートするビジネスだけではなく、自らIPを創出し、360度で展開することで、アリーナも含めドコモのアセットとのシナジーを生み出していきたいのです。そんな考えからNTTドコモ・スタジオ&ライブを立ち上げたのです
アニメ、漫画、ドラマ、映画、XRコンテンツ…ジャンルは問わず、世界に通用する作品づくりにチャレンジしていきます。様々なエンターテインメント企業様とのコラボレーションも順次拡大していく方針です。アーティストにとって魅力的な二次利用の仕組みも整備していき、クリエイターエコシステムの形成を後押ししたいのです。
制作したIP作品は、IGアリーナを中心としたリアルの場で存分にプロモーションしていきたいと考えています。メタバースやデジタルツインへの展開も視野に入れ、バーチャル空間ともシームレスに連動させていきます。そうして、アリーナで創出された熱量や興奮を、そのままグローバルに拡張していく。リアルとバーチャル、オンラインとオフラインの垣根を越えて、ドコモ発IPを起点としたボーダーレスなエコシステムを形作っていくのです。
ー動画配信サービスの強化も図っているそうですね。
櫻井 現在、動画配信事業は「Lemino」ブランドを軸に展開しています。アニメや音楽、スポーツの映像コンテンツを拡充するほか、ライブストリーミング機能の拡張に注力しています。
その際に武器になるのが、ドコモの5Gネットワークなのです。高精細かつ低遅延の映像伝送を可能にする5Gの特性を存分に活かしたいです。将来的には「まるでその場にいる」ような没入感の高い視聴体験をIOWNを通じて提供したいと考えています。IGアリーナで開催されるイベントのVR視聴なども、サービスのフラッグシップコンテンツになるはずです。
ーコンテンツのグローバル展開についても教えてください。
櫻井 IGアリーナで培ったノウハウを元に、コンテンツのワールドワイドな展開も積極的に仕掛けていくつもりです。アニメ、ゲーム、音楽、ファッションではすでに一定の海外人気を獲得済みなのはご存知かと思います。これらの領域では、より戦略的なローカライズ施策の推進が鍵を握っています。
一方で、歌舞伎、落語、相撲など、日本特有の文化に根差したコンテンツにも注目しています。世界に類を見ない独自性は、新たな市場開拓のチャンスとなり得ます。最新のデジタル技術を駆使し、言語や文化の垣根を越えて魅力を伝えていきたいです。
ー今年の米・アカデミー賞でもジャパニーズコンテンツやIPのポテンシャルの高さをまざまざと見せつけました。
櫻井 先日行われた記者会見で株式会社愛知国際アリーナはIGアリーナのグランドオープンを大相撲名古屋場所で迎えることを発表しました。 我々ドコモとしてもダイナミックな取組の様子をIGアリーナから世界へリアルタイムで発信するチャンスだと捉えています。
将来的には、IGアリーナから誕生した新しいエンターテイメントそのものを、直接海外展開することも視野に入れています。現地のパートナーと組み、リアルイベントやバーチャルコンテンツの両面で多角展開を図る。マーケットインの発想を大切にしながら、共創型のビジネスモデルを追求していきたいですね。
こうした取り組みを通じ、IGアリーナから世界へジャパンオリジナルのエンタメカルチャーを発信し、国境を越えたファン同士の交流を促進していく。そんな壮大なビジョンの実現を目指します。
アリーナを起点とした愛知・名古屋の「地域活性化」構想
ープロジェクトは愛知県や名古屋市の地域社会にどのようなインパクトを与えるとお考えですか。
櫻井 IGアリーナは愛知・名古屋の経済成長を牽引する起爆剤になると考えています。年間200万人以上の集客を目指しており、国内外から多くの人々が訪れるエンタメツーリズムの一大拠点となります。それだけではなく、アリーナを核としたスマートシティ開発の青写真も描いています。
アリーナに訪れた人が、愛知・名古屋に宿泊し、周辺のまちにも立ち寄ってもらえるように、ドコモの顧客データを活用していきたいと考えています。
先端テクノロジーとエンタメ、スポーツが融合した未来都市のモデルケースとなることをビジョンとしています。
ーリアルとバーチャル、2つの視点から街づくりをしていくわけですね。
櫻井 近未来において歩いて楽しめるコンパクトな街づくりも重要なポイントです。回遊性を高めることで、地域全体に経済効果を波及させたいのです。
また、早期開通は延期とはなりましたが、リニア中央新幹線の開通も大きな追い風となります。東京から40分、大阪からは30分以下でアクセス可能に。ゲートウェイとなる駅周辺では、商業施設の開発も行われています。IGアリーナが呼び水となり、中部圏と関西圏、ひいては首都圏までを巻き込んだ広域連携が生まれる。そんな大きなうねりに繋げていけたらと構想しています。
ゆくゆくは、そこで育まれたノウハウを全国に展開してスポーツとエンタメを基軸とした地方創生のモデルケースにしたい。それこそがドコモの描く「ローカル5.0」の理想形だと考えています。こうした街づくりの構想を、愛知県とも連携しながら具体的に進めている最中です。
「ジャパンクオリティ」のエンタメを世界へ届ける
ー 最後に、読者の皆さまへメッセージをお願いします。
櫻井 「日本が誇る魅力を、テクノロジーの力で世界に」ー これは私のライフワークとも言えるテーマなのです。前職のABCクッキングスタジオでは、日本の食文化を海外に広める事業に携わってきました。ドコモに入ってからは、デジタルの力でエンタメ業界に新風を吹き込むことに、大きなやりがいを感じています。
日本にはアニメやゲーム、音楽をはじめ、優れたコンテンツが数多く眠っています。でもその魅力は、世界にまだ十分届いていない。IGアリーナを舞台に、そうしたジャパン・クリエイティビティを余すことなく引き出し、先端技術を使って磨き上げたいと考えているのです。
ー ドコモだからできる、という部分を強く感じます。
櫻井 ありがとうございます。没入感と感動に満ちたエンタメ体験を創出し、グローバルに発信する。そして、「ジャパンクオリティ」の価値を誰もが認めるブランドへと昇華させていきたい。それこそが、私たちドコモの果たすべき使命だと考えています。
もちろん、それらはすべて簡単な道のりではありません。多様なプレイヤーとの協業はもちろん、法規制への柔軟な対応、人材の確保と育成など、乗り越えるべきハードルは数知れません。それでも、イノベーションを諦めず、ユーザー視点を貫く。そのためには私自身がフロントに立って、仲間とともに突き進んでいく覚悟です。
IGアリーナは、まさにその挑戦の象徴です。エンタメの未来を切り拓く新たなムーブメントの火付け役として、ドコモの「挑戦心」を示す場所になると確信しています。
引き続き、皆さまの温かいご支援をよろしくお願い申し上げます。
インタビューイ
NTTドコモ 執行役員 エンターテイメントプラットフォーム部長
櫻井 稚子
2013年より株式会社ABC Cooking Studio代表取締役社長に就任し、中国・香港などアジア諸国への事業展開を推し進め、社長在任中は3期連続増収増益を果たす。
2017年に株式会社NTTドコモへ入社し、フードテック事業の立ち上げを行う。
オイシックス・ラ・大地株式会社や株式会社NTTドコモ・スタジオ&ライブの取締役も兼務。現在は、執行役員 エンターテイメントプラットフォーム部のDX推進を担う。
取材協力 IGアリーナ 広報渉外室 室長
上村 哲也
撮影 福田 俊介
取材・構成 上野 直彦
(了)