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グッドマンの井上尚弥挑戦に待ったをかけるか?タイの岩男が今夜、番狂わせ目指す

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
サム・グッドマンvs.チャイノイ・ウォラワット(写真:フェイスブック)

「イノウエにはいつでも挑戦できる」とグッドマン

 IBF・WBOスーパーバンタム級1位サム・グッドマン(豪州)が10日、豪州ウロンゴンのWINエンターテインメント・センターでWBC同級8位チャイノイ・ウォラワット(タイ)とノンタイトル12回戦を行う。9日に行われた計量でグッドマンは55.26キロ、チャイノイは55.08キロをマーク。スーパーバンタム級リミット122ポンド(55.34キロ)に合格した。

 グッドマン(18勝8KO無敗=25歳)はスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が5月、WBCの指名挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)を下した後リングに上がり挑戦をアピール。9月に井上に挑戦するのが既定路線だった。しかし対戦交渉はうまくはかどらず、グッドマンと陣営はひとまずスルーする態度を見せた。現状ではグッドマンがモンスターに挑むのは12月頃ではないかといわれる。同時にチャイノイとのノンタイトル戦(豪州では挑戦者決定戦とうたわれている)が組まれた。

 最新情報でグッドマン陣営は10日に試合を行っても9月に井上に挑戦する可能性をほのめかしている。それは試合の後に判明するだろうが、もし9月挑戦ならばチャイノイ戦はいっそうリスクを伴う。前哨戦、調整試合と考えて臨み思わぬ結末が待ち受けているかもしれない。「ザ・リング」のインタビューで「(井上挑戦は)いつでも実現できる。おそらくチャンスは次に訪れるはずだ。それが(ノンタイトル戦を行う)理由だ」と明かすグッドマン。それでも勝利をモノにして井上へ挑戦を目指すチャイノイは相当、骨のある相手と思っていいのではないだろうか。

最新戦でマーク・シェリーブス(豪州=右)にストップ勝ちしたグッドマン(写真:No Limit Boxing)
最新戦でマーク・シェリーブス(豪州=右)にストップ勝ちしたグッドマン(写真:No Limit Boxing)

世界常連ランカー

 チャイノイ(25勝15KO1分無敗=27歳)は1997年6月24日バンコク出身。本名タッチッタナ・ルアンポーン。タイといえばムエタイ(キックボクシング)。父のチャルチャイノイ・チャオライオイはムエタイの黄金時代の名選手で、サウスポースタイルからの強烈な右フックを武器にした。チャイノイも家族が運営するジムで7歳から父の指導を受け、ムエタイのアマチュア選手として世界選手権優勝の実績がある。

 国際式でプロデビューするまでムエタイで250戦のキャリアを残したチャイノイは9戦目でWBC傘下のアジア・ボクシング評議会(通称ABCО)スーパーバンタム級王者に就き、9度の防衛に成功。それによりWBCランキングの常連となる。それから4年近くが経過しているのに一度も世界挑戦の話が持ち上がらない。スティーブン・フルトン(米)へ挑戦を目指した時期があったが具体化することはなかった。それだけに今回グッドマンを食って一気に浮上したい願望が強い。タイ国外初の試合ながら願ったり叶ったりといったところだろう、

 スタイルは、ややアップライトの構えからスリ足で相手に迫り、右をノーモーションで叩き込む。左フック、ボディー攻撃も武器で、執拗な連打を浴びせるアグレッシブな選手。ニックネームは“ザ・ロックマン”(岩男)。素早いフットワークを踏み、上体を小刻みに動かしカウンターを狙うグッドマンとは噛み合うスタイルの持ち主だと思われる。

WBC地域タイトル9度防衛のチャイノイ(写真:ボクシング・ビート)
WBC地域タイトル9度防衛のチャイノイ(写真:ボクシング・ビート)

夢は井上挑戦

 グッドマン戦に備えてチャイノイはバンコクから北へ2時間半ほど行ったサナブリーでキャンプを敢行した。毎週、月、水、金曜日に行ったスパーリングでは1ラウンド、倍の6分ぶっ通しの特訓も行ったという。ミット打ちも入念にこなしたチャイノイは「いつもこういうトレーニングをしたかった。それぞれのメニューを毎日150パーセントこなした。私のゴールと夢はイノウエ挑戦だ。そのためにまずグッドマンに勝たなければならない」と現地記者に語っている。

 今夜、グッドマンがリングに登場するのは彼がコンスタントに試合を消化しながら向上を図る方針があることも影響していると推測される。彼のレコードをチェックすると確かに“ビジー”である。最新戦(3月)で4回KO勝ちを飾ったグッドマンのポリシーの一つがアクティビティーだ。「だから世界ランカーといっても通常の相手と変わらない」とグッドマンは広言するのだが……。

 米国のオッズは18―1でグッドマン、チャイノイは8.5倍と大きくグッドマン有利と出ている。それでも高温多湿の環境で特訓を実行したチャイノイがアップセットを起こし一躍、井上の挑戦者に名乗りを上げる結末も想像可能。アジアのボクシング王国タイも現役世界王者はWBA世界ミニマム級スーパー王者ノックアウト・CPフレッシュマートのみ。サプライズが起これば復活の狼煙が上がるに違いない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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