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女性のバストの大きさは、運動習慣にどのような影響を及ぼすのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 健康のためには、バランスの取れた食事と適度な運動をするほうが良い。これまでの多くの研究によって明らかになっている。

 だから、研究者たちは運動習慣の妨げとなる要因を調べてきた。安全に歩いたり、走ったりできる場所が少ない、車社会で歩行量が少ないなどの環境との関係や、日常のスケジュールとの関係を探ってきた。

 女性の場合は、バストの大きさが運動習慣に影響していることも明らかになってきた。

 バストは重く、体の他の部分よりも揺れやすい。過去の研究では、もしも、ブラジャーをつけずに走った場合、女性の乳房は上下に7インチ(約18センチ)揺れ、左右にも揺れていることが発表されている。スポーツブラは、揺れを軽減する機能があるが、完全になくすことはできない。運動すると胸は揺れる。

 先日、胸の大きい女性ほど、運動から遠ざかってしまうという論文が発表された。

 今年3月に発行された「ジャーナル・オブ・サイエンス・アンド・メディシン・イン・スポーツ」に掲載された、オーストラリアのウロンゴ大バイオメカニクス研究所の論文だ。(詳細はこちら

 

 この論文は、健康に問題のない18歳から75歳までの355人の女性を対象に、運動習慣とバストサイズを調べたもの。

 3月6日付のニューヨーク・タイムズ紙電子版に、調査の内容が詳しく取り上げられている。

 先週、運動をしたか。

 散歩をしたか。

 息が上がるような運動だったか。

 汗をかいたか。

 ジョギング、水泳、自転車、ダンスのクラスに参加するなどしたか、庭で作業をしたか。

 上記のような質問と同時に、3D計測によって調査対象者の胸のサイズを正確に測り、小さい、中、大きい、とても大きいの4種類に分類した。

 バストサイズの大きな女性ほど、運動する頻度が低いことが分かった。

 バストの大小よりも、肥満であるために運動から遠ざかっているのではないか。そのような疑問もあるかもしれない。確かに痩せている女性のほうが、バストのサイズも小さいという傾向はある。

 そのような疑問に答えるため、この調査では、肥満度を示すBMI指数が同じ人たちも比較している。BMI指数が同じ場合でも、バストの大きい人は、バストの小さい人よりも、運動する頻度が少なかった。

 バストのサイズが「とても大きい」のグループでは、ジョギングをしている人がとても少ないことも分かった。「とても大きい」の人は、胸のサイズが小さいか、中くらいの人に比べて強度の高い運動もしていなかった。

 バストが大きいために、無意識に運動から遠ざかっているのではない。運動しにくいことの原因のひとつが胸の大きさであるという自覚もある。サイズが「とても大きい」のグループの多くの人が、胸の大きさが気軽に運動できない要因になっている、と答えたそうだ。

 解決策のひとつとしては、自分の胸や運動強度に合ったスポーツブラジャーを選ぶことだろう。また、水泳や水中エクササイズは、ジョギングほど胸が揺れないし、ビルトイン・ブラのついた水着も役に立つ。

 また、この論文はバイオメカニクスの観点から調査されたものだが、走るときに胸が揺れ、それを人に見られているのではないかと気になるという意見もあるようだ。

 それに、この調査は18歳から75歳までを対象にしているが、中学生や高校生の女子も同じ問題に直面していると思われる。乳房が成長してくる中学生や高校生は多感な年ごろであるし、適切なスポーツブラを自分で選ぶことも難しい。胸が揺れて走りにくいだけでなく、周囲から胸の揺れを見られているのではないかと気になる。からかわれることもあるだろう。

 日本では、体操着の下にブラジャーの着用を認めない小学校もあるという。透ける、透けないの問題だけでない。むしろ、女子児童や女子生徒には、スポーツブラジャーの選び方やつけ方を学ぶ機会があっても良いくらいではないだろうか。

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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