遊軍記者が独自に選出。武者修行先で輝くJ2前半戦の”レンタル組”ベスト11
J2も2020シーズンの折り返しに入りました。J2にはここからJ1さらには欧州の主要リーグにステップアップしていく可能性のあるタレントも多いですが、J1クラブから期限付き移籍で加入しているタレントも少なくありません。
いわゆる”武者修行先”で奮闘するタレントが多く目に付きます。今回はJ2を幅広くチェックしている筆者が独自の評価でJ2前半戦の”レンタル組”ベスト11を選びました。
そうは言っても多くの選手が活躍しているので、今回は特別に1ポジションに2人選んでいます。
また経験豊富な秋元陽太(湘南ベルマーレ→FC町田ゼルビア)、水本裕貴(サンフレッチェ広島→FC町田ゼルビア)、鈴木雄斗(川崎フロンターレ→松本山雅)、泉澤仁(横浜F・マリノス→ヴァンフォーレ甲府)など、外国籍選手のエミル・サロモンソン(サンフレッチェ広島→アビスパ福岡)、カイオ・セザール(川崎フロンターレ→V・ファーレン長崎)はリスペクトを込めて今回の対象から外しています。
FWは鹿島から期限付き移籍している二人で文句なし。垣田裕暉(徳島ヴォルティス)はここまで7得点と言う結果以上の存在感で、首位・徳島の前線に君臨しています。
深い位置を取りながら、シンプルで的確なポストプレーで味方の幅広い攻撃を引き出し、アクロバティックに飛び込んでゴールネットを揺らす。こうしたプレーにおいて、J2を見渡しても外国人FWと遜色ない働きをしている選手はなかなかいません。鹿島はFWの層が厚く競争は厳しいですが、割ってはいりうるだけの能力は見せています。しかし、まずは徳島を昇格に導くことが先決でしょう。
9得点の山口一真(水戸ホーリーホック)は鹿島では左サイドハーフで起用されることが多かったですが、水戸ではストライカーの才能が開花しており、鋭い飛び出しと突破力をよりゴールに近い位置で発揮しています。左サイドで起用された試合でもかなりの頻度で中に流れており、そうしたプレーが許容される環境の方が実力を出しやすそうです。
その二人に次ぐインパクトを見せているのはJFLのHonda.FCから川崎フロンターレに加入し、アビスパ福岡に期限付き移籍した遠野大弥です。ここまで7得点。開幕スタメンでゴールを決めて注目されましたが、大型FWファンマとのコンビは試合を重ねるほど良くなってきており、勝負強さとゴールを優先できるメンタリティが目を引きます。
セレッソ大阪から期限付き移籍した安藤瑞希(FC町田ゼルビア)は外国人FWも含めたかなり厳しい競争の中で出場チャンスを得て、勝利に直結するゴールを奪っていることが高く評価できます。ただ、ここまで3得点なので、シーズン二桁ぐらいは現実的な目標としてさらなる活躍に期待したいところです。
中盤はタレントが多く、メンバーを絞り込むのも苦労しました。特に右サイドハーフの活躍が目立っていたので、清水エスパルスから期限付き移籍し、躍進中のギラヴァンツ北九州で10 番を背負う高橋大悟(編集ソフトの表記の事情で新字体の”高”にしています)を左に回しました。左には横浜F・マリノスから同じく期限付きで北九州にレンタル中の椿直起がいて、柔らかくも鋭いドリブルで異彩を放っていますが、高橋が4得点3アシスト、椿が1得点1アシストと言う数字を素直に評価して、高橋をファーストチョイスにしています。
吉尾海夏(FC町田ゼルビア)は昨シーズン、マリノスから同じJ1のベガルタ仙台に期限付きで移籍し、序盤戦はかなりのインパクトを放ちましたが、長期の怪我で後半戦をほぼ棒に振る経験をしての町田移籍ということで、期するものがあったはず。若手選手が躍動するアタッキングフットボールのチャンスメイカーとして存在感を示しています。
ヴィッセル神戸からアビスパ福岡に期限付き移籍している増山朝陽は攻守両面のハードワークとボールを持ったら迷いなく仕掛けるスピリット、球際の強さなどで、特に最近は連勝記録を伸ばすアビスパの攻撃に迫力をもたらしています。現在3得点ですが、ここから大きく得点数を伸ばす可能性も十分ありそうです。
ボランチは最もタレントが豊富で、ここに選んだ4人の他にも、ガンバ大阪から期限付き移籍2年目のレノファ山口で主力を担う高宇洋、シーズン途中に同じくガンバ大阪から移籍したFC琉球で早速レギュラーに定着し、長短の正確なパスで攻撃的なサッカーを支える市丸瑞希などもやむなく外しました。
そうした中から選出した4人はいずれもスペシャルな存在感を見せている選手たち。松本泰志(アビスパ福岡)は8月20日にサンフレッチェ広島から加入しましたが、数試合で福岡のスタイルにフィットすると、復帰してきたキャプテン前寛之とJ1顔負けのインテンシティーを中盤にもたらして、7連勝中のアビスパ福岡を活性化しています。
大分から加入の國分伸太郎(ギラヴァンツ北九州)は北九州の心臓と言ってもいい存在であり、途中6試合離れた時期もありましたが、ハードワークとクオリティを兼ね備えた彼の奮闘なしに北九州の躍進は語れないレベルです。その二人に準じる位置づけにはなりますが、横浜F・マリノスから水戸ホーリーホックに移籍中の”プリンス”山田康太とガンバ大阪からFC町田ゼルビアに加入した高江麗央(編集ソフトの表記の事情で新字体の”高”にしています)は攻撃面で違いを生み出している選手たちです。
山田康太はマリノス時代はどちらかというと、複数のポジションをこなすマルチロールとして起用されており、昨年夏には成長の環境を求めて名古屋グランパスに期限付き移籍するも、監督交代と残留争いで出番を得られないままシーズンを終えるという苦い経験をしています。そこからU-20W杯でコーチとして山田の指導にあたった秋葉忠宏監督が就任した水戸で再チャレンジとなりました。ここまで再三にわたりインパクトのある活躍を見せていますが、パフォーマンスに波があり、守備のデュエルでも軽さが見られるシーンもあります。
高江にも共通する課題があるように思いますが、テクニック、視野の広さなどJ1の水準でも高い資質を持っているので、若いチームの中で仲間と刺激し合いながら本格的なブレイクにつなげることを期待します。
最終ラインは基本的に移籍先でポジションを掴んでいる選手を優先して選びました。鹿島から期限付きで町田に移籍している小田逸稀は出場停止となった大宮戦をのぞく全試合にスタメンで起用されており、サイドバックのポジションから3得点をあげています。攻撃参加のタイミングがよく、まるでインサイドハーフのような迫力を見せるシーンもある一方で、守備面も徐々に向上しているように思います。
柏レイソルからレノファ山口に移籍中の田中陸は再開当初なかなか出番がありませんでしたが、霜田正浩監督から”サッカーIQの高い選手”と評価されて、なかなか結果が出ないチームにあって限られた出場時間で決定的なシーンを演出するなど、序列を上げて行きました。3バック採用時には右ウィングバックのレギュラーに抜擢されてセンスの高さを見せましたが、4バックに戻してもそのまま右サイドバックの主力に定着しています。ボランチ経験者らしい視野の広さと状況判断が特徴で、効果的な攻撃参加が目に付きます。
センターバックは柏レイソルから加入したアビスパ福岡でディフェンスリーダーを担う上島拓巳、全く出番を得られなかった横浜F・マリノスからジュビロ磐田に移籍して、いきなり重用されている山本義道をファーストセットにしました。上島拓巳はJ2全体のベスト11に選ばれてもおかしくないインパクトを放っています。山本義道は対人戦に滅法強く、ハートもある選手なので、ジュビロのキャプテンである大井健太郎の怪我という事情もありますが、それが無かったとしても多くの試合で起用されているはずです。
森下怜哉はセレッソ大阪から、常田克人はベガルタ仙台から松本山雅に期限付き移籍している選手たち。二人とも途中怪我があり、下位に低迷したチームで十分に実力を発揮しているとは言い難いですが、常田は空中戦、森下はビルドアップという武器はここまでも見せています。あとは90分の安定感やイージーミスをゼロに近づけると言うところがテーマになりそうです。
左サイドバックの荻原拓也(アルビレックス新潟)は浦和レッズから今夏に加入しましたが、これまで限られた出場時間でとにかく縦に仕掛けるスタイルだったのが、左後方からビルドアップに関わり、J2屈指のファンタジスタである本間至恩の自由奔放なプレーを背後から支えるなど、新境地を開拓しています。もちろん機を見た攻め上がりや仕掛けも抜群のインパクトで、さらなる成長が期待されます。
横浜FCから移籍中の前嶋洋太(水戸ホーリーホック)は左右のサイドバック、サイドハーフをこなせる選手です。今シーズンはここまで右サイドバックの出場が多いですが、ポジションのバランスで左に回しました。運動量が豊富で、どのポジションでも多くの局面に関われることが最大の特徴ですが、秋葉監督のもとで判断力やボール周りの質も高めているように見えます。対人の守備能力がさらに上がってくると本当の意味でブレイクするかもしれません。
GKはパフォーマンスの安定感を基準に二人を選びましたが、たまたま昨シーズン共に大分トリニータで切磋琢磨した小島亨介とポープ・ウィリアムに。アルビレックス新潟に加入した小島は中断期間中に左脛骨疲労骨折という重傷を負いましたが、再開まで時間が延びたこともあり、第11節の山口戦で復帰すると攻撃的なチームの背後を守るカバーリングとビルドアップの両面で支えています。東京五輪世代でもありますが、守護神の最有力候補と目される大迫敬介(サンフレッチェ広島)を脅かす選手の一人になりそうです。
ポープ・ウィリアム(ファジアーノ岡山)は川崎フロンターレから大分へのレンタル期間が終わった後に、岡山に移籍となりましたが、192cmの長身とリーチを生かしたハイスケールなセービングに加えて、前線のターゲットマンをとらえるロングキックなどでも重要な役割を果たしています。
今月にはFC東京のMF鈴木喜丈が育成型期限付き移籍で水戸ホーリーホックに加入し、さっそく群馬戦の終盤にホームスタジアムのピッチを踏みました。横浜F・マリノスから栃木SCに期限付き移籍したGKオビ・パウエル・オビンナも2試合目の出場で町田を相手に無失点勝利を飾っており、後半戦でのブレイクが期待されます。後半戦もJ1からJ2クラブに期限付き移籍中のタレントには引き続き注目して、記事にまとめたいと思います。