『シックス・センス』も超えねばならない天才監督の娘。M・ナイト・シャマランのDNAが描く世界線。
M・ナイト・シャマランの娘イシャナ・ナイト・シャマランが、父親が製作に名を連ねるホラー映画『ザ・ウォッチャーズ』で長編監督デビューした。
父シャマランといえば、『シックス・センス』を筆頭にミステリアスな設定や先の読めない展開がお約束だが、イシャナもシャマランという名に観客が期待する世界観を踏襲している。
主人公は、ペットショップで働くミナ(ダコタ・ファニング)。店のオウムを届ける途中に鬱蒼とした森で迷った彼女は、同じように森から抜け出せずにいる人々が暮らす不可思議なシェルター「鳥カゴ」で、彼らが「奴ら」と呼ぶ得体の知れない何かに、夜毎、監視される生活を送ることになる。
夜になると、壁一面の大きなガラスがマジックミラーへと変化するシェルター。「奴ら」とは何ものなのか。いったい、誰が何のためにこのシェルターを作ったのか。
この謎めいた世界へと、冒頭から一気に引き込むイシャナの語り口は、まさにM・ナイト・シャマランのDNAを感じさせるもの。
父シャマランは、『シックス・センス』の大ヒットによってどんでん返しや衝撃のラストばかりを期待されがちだ。だが、彼の魅力は、その衝撃の奥にある愛や悔恨といった人間のさまざまな感情にこそある。
イシャナもまた、ミステリアスな状況のみならず、そうした人間の愛や欲望を見つめているのも魅力。
実は、ミナはある問題を抱えている。それから逃げるように生きてきたミナは、この森に閉じ込められたことによって、彼女自身と向き合うことになるのだ。
イシャナはそんな彼女の変化をも描きつつ、この不可思議な物語の謎の向こうにさらなる物語を見せてくれる。
さらに、この謎めいた世界線の土台が、“謎めいた状況”は“謎めいた状況“でも、父シャマランとはまた違うところにある。その土台となった要素は、もしかしたら、今後のイシャナ監督作品において、彼女ならではの色になっていくのかも知れない。それが何なのかは、ここで明かすわけにはいかないのだけれど。
とはいえ、本作にはA・M・シャインの同名小説という原作がある。
父シャマランも、近年は『オールド』『ノック 終末の訪問者』など原作モノが続いているが、やはり映画ファンがシャマランという名に期待するのは、オリジナル脚本による衝撃だろう。
イシャナは、これまで父シャマランが製作総指揮のTVシリーズ『サーヴァント ターナー家の子守』で6エピソードの監督&10エピソードの脚本を担当し、本作の脚色も手がけている。
M・ナイト・シャマランという存在のみならず、『シックス・センス』という大傑作など、彼女が越えなければならないものは、もちろん大きい。けれども、この上々なデビュー作を観たら、イシャナのオリジナル脚本による監督作も期待せずにいられなくなる。
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『ザ・ウォッチャーズ』
6月21日(金)公開
配給:ワーナー・ブラザース映画