ガーシー参議院議員を除名にするべきではない、たった1つの理由
国会に出席しないことで懲罰委員会にかけられる見込み
本日、通常国会が開会しました。NHK党のガーシー参議院議員は現在ドバイにいるとみられ、3月ごろまでは国会に登院しないと宣言をしています。参議院の議院運営委員会(石井準一委員長)は国会法の規定に基づき、「速やかに帰国の上、登院することを求める」との要求を行いましたが、当面は登院しないとされるガーシー参議院議員に対して、懲罰をかけるべきとの意見も出てきています。
懲罰委員会にかけられた場合には、公開議場における戒告、公開議場における陳謝、一定期間の登院停止、除名の懲罰を発することができ、世論的には「除名でもいいのではないか」との意見も出てきていますが、国会議員としての身分を剥奪する「除名」が果たしてベストシナリオなのでしょうか。
国会法の規定で、再選した時には除名することができない
懲罰の度合いはどのように決まるのか、考えてみたいと思います。参議院規則では「議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者」を除名の対象として定めています。過去に参議院では除名になった議員もいますが70年以上前の話であり、「除名」がいかに重たい処分であるかを物語っています。近年は議事妨害などで懲罰にかけられたケースでも「30日間の登院停止」がひとつの相場となっており、国会議員としての身分を剥奪する「除名」が重たいことを意味しています。
さらに、「除名」に慎重になる理由がもう一つあります。国会法では懲罰の章に、除名処分をした国会議員が再び当選した場合には、拒むことができないとの規定があります。
国会法 第百二十三条
両議院は、除名された議員で再び当選した者を拒むことができない。
このことから、仮に今通常国会でガーシー参議院議員を懲罰にかけて除名処分としたところで、2025年の参議院議員選挙にガーシー氏が再度立候補し、比例で当選した場合には、(今回と同様に登院をしなかったからといって)さらに懲罰にかけて除名にすることは難しいと考えられます。
再当選後に登院をしないことは(今回登院をしないこととは)別の事案と考えて懲罰にかけられるという考えもありますが、この国会法の規定は民意が最大限尊重されるべきとの立法趣旨に立っていることからも、今回「除名」の懲罰を加えることが、後々に「除名できないこと」の足枷になる可能性をも秘めていることになります。
参議院議員選挙は約100万票を獲得すれば1議席は獲得できる
ただここまでの話は、ガーシー参議院議員が再当選できれば、という前提によります。では、実際にNHK党は2025年の参議院議員選挙でも比例で1議席を取ることができるのでしょうか。前回の参院選において、比例最後(50番目)の議席を獲得したのは立憲民主党(当選人は石橋通宏参議院議員)でしたが、この時のドント方式における計算式は総得票数6,771,945.011(票)÷7(議席目)=967,420票と、約100万票であることがわかります。わずかな差はあれど、参議院比例区では「100万票で1議席」が目安といわれているのはこういうことからです。
NHK党は、2019年の第25回参議院議員選挙で987,885票(46位)、2022年の第26回参議院議員選挙では、1,253,872票(37位)とそれぞれ1議席を獲得しました。ガーシーの個人票が287,714票だったことを踏まえても、政党としての票は全国で約100万票近くあることは事実です。
従って、NHK党が再度ガーシー氏を立候補させれば、比例で当選させる可能性は高いでしょう。仮にガーシー氏以外にも著名候補を立候補させれば、比例の順位で下位に沈むことも考えられますが、「特定枠」を活用することでNHK党が意図的にガーシー氏を上位にし、再選を狙うことは可能ということに変わりありません。
現実的にガーシー参議院議員にどのような対応があるのか
ガーシー参議院議員を除名処分にしても、再度当選した場合には除名にできないことはここまで説明してきた通りです。では、ほかに打つ手はあるのでしょうか。国会議員を現行犯以外で国会会期中に逮捕することはできず(不逮捕特権)、その場合は所属する議院の許諾が必要(逮捕許諾請求)とされています。
逮捕許諾請求が通れば(逮捕されれば)、議員としての身分は剥奪されませんが、国会に出席することはできなくなります。関係先が家宅捜索を受けたことをガーシー参議院議員側は認めており、今後の状況に注目が集まっています。現時点では国内に戻ってきておらず、懲罰に際して弁明を行うのかどうかもわからないことから、懲罰は極めて慎重に行われるとみられるでしょう。