厚労省新型コロナQ&Aの疑問~37.5度の発熱は出社すべきなのか?~
厚生労働省が「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 令和2年2月21日時点版」として、企業の主に人事労務管理に関するQ&Aを作成しています。
今回問題にするのは、コロナウィルス罹患の疑いがある場合に労基法26条の休業手当の支払が必要かという点です。厚生労働省の回答を見ると、37.5度程度の発熱では出社できるという前時代的な価値観に基づいていると思わざるを得ない箇所があります。
前提として労基法26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」旨を定めています。
つまり、病気などによる欠勤について
「使用者の責めに帰すべき事由」があれば給与60%相当の休業手当の支払が必要。
「使用者の責めに帰すべき事由」がなければ休業手当の支払は不要。
ということになります。
まず、争いがない点として、「コロナウィルスに罹患した」ことが確定した場合や、確定していなくとも「39度の高熱が出ており動けない」場合には、そもそも労務提供が不能であることが明らかですから労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」に該当しませんので、休業手当を支払う必要はありません(厚生労働省 「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 令和2年2月21日時点版」「3」、「問2」)。
では、37.5度程度の発熱がある場合についてはどう考えるべきでしょうか。
この点、厚生労働省は
としています。
しかし、本稿執筆時点の状況下において「37.5度以上の発熱が4日以上続く」ことが新型コロナウィルスの相談目安とされている中で37.5度の発熱があるというのは感染発症初日である可能性があります。
その状況下においては単に使用者の自主的判断で休むレベルの話なのでしょうか。仮に、37.5度の発熱が使用者の自主的判断レベルであるとすれば、それは自主的判断が無ければ「出勤せよ」ということを意味します。この社会情勢でこれは正しい判断と言えるでしょうか。
そもそも、37.5度の発熱というのは使用者の自主的判断がなければ出社せよというレベルの話なのでしょうか?
平熱がそもそも低い人にとっては、37.5度は相当高熱の場合もあり、労務提供がそもそも不能といえる場合の方が多くみられます。
労務提供が不能な場合は「使用者の責」がある場合とは解されません。
そして根本は、労務提供が不能か否かの判断として、ベットの上から起き上がれないレベルの話を言うのか、通常時のパフォーマンスと比べて発熱により明らかに劣る場合も該当するのか、ということです。37.5度の発熱があっても【気合と根性】があればパフォーマンスが変わらないということを前提に考えているとすれば、あまりにも現代と価値観がかけ離れています。法解釈の前提となる「社会通念」をアップデートすべきでしょう。
昭和の時代であれば「そのような微熱で何を甘えたことを」となるのでしょう。
しかし、現在の新型コロナウィルス不安が蔓延する社会情勢における社会通念としては、37.5度の発熱は出社をすべきでないというのが大半の認識(=労務提供不能)ではないでしょうか。
また、周囲への感染可能性を考えれば、新型コロナだろうが、インフルエンザだろうが、風邪だろうが、出社することにより周囲の労働者へ感染する可能性は変わりません。そのような場合は「使用者の責」任がある休業なのでしょうか。
もちろん、法的な休業手当が支給されないケースでも、労働者保護を図ることは必要です。そのために健保組合による傷病手当金制度や就業規則の福利厚生的支給があるのです。今回のような特殊なケースでは、特別の手当を考えるべき場面もあるでしょう。人事として、労働者保護は考えなければなりません。
だからといって、休業手当の法的解釈は別の話です。「とりあえず労働者に休業手当がでるようにしておけば良い」ではないのです。むしろ、休業手当が支給されるという結論を導くために、「37.5度程度の発熱は使用者の自主的判断による欠勤である」
(前提として)→「37.5度程度の発熱は労務提供可能である」
(前提として)→「37.5度程度の発熱があっても出社すべき」
というなんとも根性論的な価値観が根底にあるとしか思えません。
以上から、厚生労働所省の上記QAは、休業手当の支給を促進したいが故に、却って「37.5度の熱程度では出社すべし」という昭和時代の価値観を推しているように読めるため、筆者としては大反対です。
一方、法的な議論は別として、実務的に休業手当が必要な線引きをどうするかは企業内の労使で検討すべきですが、基本的には37.5度というのが一つのラインにはなるでしょう。
念のため繰り返しますが、法的に休業手当の支払が要らないからと言って、企業として何もする必要がないという意味ではありません。
まず、4日以上の欠勤となる場合は傷病手当金の支給があり得ますので、そちらの手続案内も行うべきでしょう。
また、労基法上の休業手当が支払われない場合でも、これに準じて本年限りの特別休業手当(6割や健保との差額支給)を検討したり、就業規則上の(法律以上の)休業手当支給の検討、有給休暇の利用、時効に係って失効した有給の特例利用など企業人事が打てる手はあります。
このような非常時は、企業人事の労働者に対する向き合い方が問われる時です。法律上の義務に拘泥するのではなく、何が必要かを真摯に検討すべきことは当然です。
ですが、厚労省QAにいう、37.5度の記載はその前提となる価値観が危ういので筆を執りました。