繰り返す発熱お迎え、子どもとの時間減少… 職場復帰に不安を感じる保護者へ 小児科医のアドバイス
もうすぐ4月。新年度が始まりますね。
保護者の皆さんの中には、育休明けの職場復帰・保育園入園の方もいらっしゃるかと思います。そこで、今回は小児科医の立場から、保育園入園を迎えるにあたり、知っておいていただきたいことをいくつかお話ししたいと思います。
入園後は頻繁に風邪を引くと覚悟を でも悪いことばかりではありません
保育園や幼稚園は子どもたちの集団生活の場です。これまで集団生活をしていなかったお子さんが入園すると、多くの病原体にさらされ、毎週のように熱が出ます。せっかく入園したのに、最初の頃はほとんど通えないお子さんもいます。保護者も復職して、さあこれから仕事を頑張ろう、と思った矢先に「熱が出たのでお迎えに来てください」という園からの急な連絡が重なると、めげてしまいそうですよね。
保護者の中には「自分の復職が早すぎて子どもに負担がかかってしまったのかも」と悩まれたり、「こんなに何度も風邪を引いて、生まれ持って免疫が弱い病気が隠れていたりするのでは」と不安になったりする方もいるかもしれませんね。しかしこれは一般的によくあることです。
もともと乳幼児期は風邪を引く頻度は多く、成長につれて減っていきます(図1)(1)。
1-2歳のときには1年間に6-8回、就学前は4-5回引いていたのが小学校以降は2-3回と、成長に従って減っていくのがお分かりいただけるかと思います。
とはいえ、入園後に頻回に熱を出す我が子を前に、こういった状況がいつまで続くのか、途方に暮れる方もいらっしゃるかと思います。
1827名のお子さんを2年間フォローアップし、風邪症状や病欠日数と保育施設入所との関連を調べたフィンランドの研究では、月平均の病欠日数がピークとなったのは保育園入所2か月の時点で、その後減少し、9か月を過ぎるころには落ち着いたと報告しています(2)。(図2)
もちろん風邪を引かないに越したことはありません。ただ、こんなデータもあります。カナダの研究では、就学前(2歳半より前)にグループ保育を始めたこどもは、当初は気道感染症や中耳炎の発症頻度が上がるものの、小学校に入ってからの感染症罹患はむしろ下がることが報告されているのです(3)。
このような研究があり、就学前に風邪を引くことはデメリットばかりではないと分かれば、これから保育施設に預ける保護者の皆さんも少し安心できるかもしれません。
子どももいつかは子供も集団生活を経験しないといけません。保育園や幼稚園に入園し、風邪を引くのは、必要な免疫をつけるための通過儀礼とも言えます。決して保護者の判断が悪かったとご自身を責める必要はありませんし、通っているうちに回数も減ってきますのでご安心いただければと思います。
朝熱が下がっても登園はちょっと待って 午後から再び発熱の可能性も
「前の日に熱が出ていたけど、翌日解熱している、よし登園できそう!」
そう思いたくなる気持ち、よく分かります。仕事だってできるだけ休みたくないですよね。ただ、ここで知っておいていただきたいのは、前日に熱が出ていた場合、翌朝熱が下がっていても一時的な可能性が高いという点です。治っていなくても朝は一旦解熱していることが少なくないのです。結局園に行かせても、午後からまた発熱して再び呼び出し、という経験をお持ちの方も多いかと思います。それなら前日夜に熱があるときは翌日は休むと決めた方が、結局連日呼び出しというストレスも軽減でき、子どもも早く治りますのでお勧めです。
予防接種、忘れていませんか?
日本では生まれてからほとんどのお子さんが定期接種を受けます。生後2か月から始まるヒブや肺炎球菌、四種混合ワクチンの初回接種率(累積)はおおよそ97-98%と非常に高いです。ところが1歳を過ぎてから接種するこれらのワクチンの追加接種に関しては、ヒブや肺炎球菌の接種率は94%前後とまだ高いものの、4種混合の場合は86%と下がってしまいます。また1歳で接種する水痘の1回目接種率は94%と高めですが、それから3カ月以上の間隔をあけて接種する2回目は70%と大きく下がっています(4)。その要因として、1歳を過ぎて復職などでバタバタする中で接種の機会を逃してしまうケースもあるのではと考えています。そこで、あらかじめかかりつけ医でスケジュールを確認し、家族で分担して接種スケジュールを立てることをお勧めします。
日本小児科学会では、ワクチンについての情報を「知っておきたいわくちん情報」として分かりやすくまとめており、参考になります。
あらかじめファミリーサポートや病児保育登録を
発熱などで急なお迎えなどに備え、子どもをお願いできるルートをあらかじめ用意しておくことも大事です。急なお迎えは家族の一大事。これは片方の親だけでなく、家族全員で乗り越える案件です。あらかじめお迎えルールを決めておくことをお勧めしますが、夫婦で対応できないときに誰に頼むかを決めておくことも大事です。
こういったとき、祖父母に頼りたくなるかもしれません。実際に助けてくださる方も多いかと思います。ただ私は、祖父母に頼ることについて、一度立ち止まって考えるいい機会ではとも考えています。昔と違って仕事をしている祖父母世代は多いです。また昔より出産年齢が上がった分、祖父母の年齢も上がっていて体力も落ちています。世代間の子育ての価値観も思った以上に違うものです。意外とトラブルの原因にもなり、メリットばかりではないと知っておくことは有用です。
今は以前より様々な行政サービスもあります。ファミリーサポート制度や病児保育の利用登録など検討しておくことをお勧めします。
車内置き去りにご注意を、防止対策を確認して
もう一つ、お伝えしておきたいことがあります。
それは、近年毎年事故が発生する車内熱中症のお話です。昨年園バスが話題になりましたが、子どもが後部座席で眠っているのに気づかず出勤し、駐車場で置き去りにされてしまい亡くなってしまう事故が起きています。
2020年6月、茨城県で父親が2歳の女の子を保育所に預けたと思い込み、車に乗せたまま仕事に出てしまい、その間に女の子が熱中症で亡くなる事故が起きました。
「仕事考え、忘れた」 父親が話す 車内放置の女児死亡(朝日新聞 2020年6月18日)
大変痛ましい事故で記憶に新しい方もいらっしゃるかと思います。しかし、この事例は決してあり得ない話ではないのです。
これまでの研究で、ヒトの作業記憶はストレスに大きく影響を受けることが分かっています(5)。疲れがたまっているときや、睡眠不足の場合には注意が散漫になってしまいます。こうした条件は、復職で多忙を極める保護者の置かれた状況にもあてはまるのではないでしょうか。ストレスを抱えていたり日常生活が忙しいことは、親の記憶に影響を与え、結果として親が子どもを車内に置き去りにしてしまうことも十分にありうるのです。
これを防ぐために自動車のセンサー機能の開発なども進められています。
個人でできる取り組みとして、事故予防(傷害予防)啓発の活動に取り組む米国の非営利団体KidsSafeWorldwideの提案をご紹介します(6)。
・車から降りるときに必ず後部座席を確認する習慣をつける。
・後部座席助手席側にチャイルドシートを置き、運転席から確認しやすくする
・後部座席に財布や携帯電話、ハンドバッグなど大事なものを置く。
・駐車のたびに後部ドアを開ける習慣をつける
・夫婦で送迎の確認をする
帰宅後15分は「ハグ時間」 スケジュールに組み込む方法も
そして最後に、復職してから子どもとの時間が少なくなってしまうと寂しく思われる方もいるかもしれません。子どもといる時間が少ないと感じたら、帰宅後15分間を、何もしないで子どもをハグして話をする時間として、もともとのタイムスケジュールに入れるという方法があります。あらかじめスケジュールにあるので「夕飯が」「お風呂が」と気持ちもあせることなく、また必ず家族との時間があるので子供も安心できます。
4月からの復職や入園で色々と不安な保護者の皆さんも多いかと思います。子育てに奮闘する全ての保護者の皆さんに、心からエールを送りたいと思います。
<参考文献>
1.Heikkinen T, et al. The common cold. Lancet. 2003;361(9351):51-9.
2. Schuez-Havupalo L, et al. BMJ Open. 2017;7(9):e014635.
3. Côté SM, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2010;164(12):1132-7.
4.国立感染症研究所. 累積予防接種率調査. 2018.
5. Luethi M, et al. Front Behav Neurosci. 2009;2:5-.
6. SAFE KIDS. Heatstroke.