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明かせない悩みを抱えた高校生を演じて。「わたしは高校3年の12月ぐらいに学校を辞めました(苦笑)」

水上賢治映画ライター
「ミューズは溺れない」より

 大九明子監督らの元で助監督を務めてきた淺雄望監督の長編デビュー作「ミューズは溺れない」は、まだ何者でもない自分に思い悩むすべての高校生に「大丈夫」とそっと手を差しのべてくれるような1作だ。

 絵の道へ進む自信を失ってしまい、目標を見失いかけている美術部部員の朔子、同じく美術部員でいつもクールで周囲を寄せ付けない雰囲気がありながら実は他人には明かせない深い悩みを抱えている西原、ちょっと厚かましいけど人一倍友達想いの朔子の親友、栄美ら。「進路」というひとつ答えを出さないといけない時期を前にした彼らの心が揺らぐ「高校三年の夏」が鮮やかに描き出される。

 その中で、キーパーソンとして存在するといっていいのが西原だ。

 はたから見ると大人びて我が道をいっているようにみえる彼女。だが、実は誰よりも臆病で自分の「性」について深く思い悩んでいる。

 表面上では澄ました顔でいながら、内面はぐちゃぐちゃで沈痛な表情を浮かべている、そんな難役の彼女を演じ切っているのが、「アイスと雨音」「MINAMATA―ミナマター」などに出演している新進俳優の若杉凩。俳優としてはもとよりモデル、アーティストとしても活動する彼女に訊く。(全三回)

高校3年の12月ぐらいに学校を辞めたんです(苦笑)

 はじめに、若杉は朔子を演じた上原実矩と同じ 1998 年生まれ。高校時代はまだまだ記憶に新しいところだと思うが、実は高三はひとつの大きな転機だったと若杉は明かす。

「実は、高校3年の12月ぐらいに学校を辞めたんです(苦笑)。

 学校にもヒエラルキーみたいなものが存在していると思うんですけど、わたしはそこにうまくはまることができなかったんです。

 西原はその状況を受け容れているところがありますけど、わたしは、これ以上は無理だと思ってしまって。みんなからは『今辞めるともったいないじゃん』って言われましたが…。

 その後、東京にいる方に声をかけてもらって、お芝居を始めることになりました。

 上京後は通信の学校に通って卒業はしたのですが、これがわたしの高校三年生でしたね (笑)」

自分に負荷のかからない生き方や生きることができる場所がある

 振り返ると、このことでひとつ大きなことに気づけたという。

「学校のコミュニティって部活にしてもクラスにしてもすごく狭い。その狭い世界で、たとえば自分が乗り気じゃないことも周囲に配慮してうまく順応しなければいけなかったりする。

 わたしはそういうことが苦手で適応することができなかった。

 学生のときはその世界がすべてだから、逃げ出せないんですよね。逃げ場は探せばいっぱいある、自分に負荷のかからない生き方や生きることができる場所がある。

 すこし遅かったかもしれないですけど、環境がそのことに気づかせてくれました。狭い世界なら、そこに籠る必要はない。その世界の外側に向かって世界を広げればいいんじゃないかと思いました。

 コミュニティの中で生きようとするからしんどいのであって。 『高校生』という肩書を捨てて、ひとりの人間になれば、周りは、『若杉』として見てくれるということがわかったんです。

 そして、学校を辞めて東京に出てきてお芝居の道を歩み始めました。

 このとき、これから自分がどうやって生きていくのかを真剣に考えました。自分に負荷がかからずに、楽しく生きていける生き方をみつけようと。

 なので振り返ると、自分でひとつ進むべき道を選んで歩み始めた時期でもあったなと今思います」

(※第二回に続く)

「ミューズは溺れない 」より
「ミューズは溺れない 」より

「ミューズは溺れない 」

監督・脚本・編集: 淺雄望

出演:上原実矩 若杉凩 森田想

広澤草 新海ひろ子 渚まな美 桐島コルグ 佐久間祥朗 奥田智美

菊池正和 河野孝則 川瀬 陽太

テアトル新宿ほか全国順次公開中

公式サイト →  https://mikata-ent.com/movie/1205/

写真はすべて(C)カブフィルム

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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