英国で猛威を振るうオミクロン株、軽症ならインフレ低下早まる(下)
現在、英国では当面の経済問題は労働者不足による賃金上昇がインフレを加速し、緊急利上げが必要になるかどうか、または、オミクロン株の感染拡大により、景気リスクが高まり、インフレが低下し、利上げが必要でなくなるかに関心が集まっている。
英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスのロジャー・ブートル会長は昨年11月21付の英紙デイリー・テレグラフで、「企業利益を犠牲にし、賃金が上昇するのは、せいぜい短期的な解決策だ。これが永遠に続くわけではなく、企業は投資を削減する可能性が高い。将来の生産性の成長、ひいては実質賃金に悪影響を及ぼす」とし、現在の労働力不足が賃金を上昇させるのは一時的で、将来、賃金上昇を阻害する可能性があると指摘。
その上で、「急速に上昇する賃金は、単にインフレ上昇プロセスの一部である可能性はあるが、英国の生産性の伸びは年率1%と低いため、長期的には賃金上昇が抑制され、賃金上昇がコストプッシュ・インフレとして、物価上昇につながるとは限らない」と懐疑的だ。
また、テレグラフ紙のジェレミー・ワーナー経済部次長は昨年12月8日付で、「持続的なオミクロン株の感染拡大による経済活動の制限が現在のエネルギー価格の上昇によるインフレ加速を逆転させる可能性がある。(景気支援のための)一時帰休支援制度や企業向け特別融資制度がなくなったため、賃金上昇圧力が抑えられ、物価上昇は抑制される」という。
英国の労働者不足問題については、イングランド銀行(英中銀、BOE)のアンドリュー・ベイリー総裁は公共部門の雇用急増が原因で一過性だと分析する。
同総裁は英紙サンデー・タイムズの昨年11月20日のインタビューで、「国は事実上、労働者を追加雇用することにより、労働市場をタイト化し、パンデミックから回復しつつある民間部門と雇用で競争している」と述べている。
同総裁は、「(ワクチン接種やコロナ検査需要の急増による)公共部門の雇用増は約20万人から30万人だ、積極的な労働力を求めているサービス産業の雇用不足は、それとほぼ同数。従って、労働市場での競争を考えると、公共部門が競争を激化させている」とし、労働市場のタイト化は一過性と見ている。
しかし、それでもベイリー総裁は、「我々が懸念しているのは賃上げ交渉とタイトな労働市場からの『第2ラウンド効果』(賃金上昇によるインフレ加速)と呼んでいるものだ。労働者不足が賃金交渉の面で真の圧力に移行した場合、インフレを長引かせ、インフレ期待を高めることを懸念している。インフレが悪化した場合、利上げに踏み切る準備ができている」としている。
他方、OECD(経済協力開発機構)は昨年12月1日に発表した世界経済見通しで、英国での賃金の急上昇が国内のインフレを加速させ、先進国の中で最も高い成長率が予想されている英国の成長(2021年は6.9%増、2022年は4.7%増、2023年は2.1%増)を抑えると警告。
オミクロン株についてもOECDのチーフエコノミストのローレンス・ブーン氏は、「良好なシナリオでも、進行中のコロナウイルス(オミクロン株)の発生により、一部の地域や国境を越えた移動が制限され続け、労働市場や生産能力、物価に長期的な好ましくない結果が生じる恐れがある」としている。
その上で、OECDは、「加盟38カ国全体のインフレ率は2021—2022年にピークに達し、英国のインフレ率もエネルギー価格の上昇と継続的な供給不足のため、来年上半期に4.9%上昇でピークに達する。その後、2023年には3%上昇に減速する。景気回復の主なリスクは、インフレが引き続き上昇し、予想よりも長く留まり、その結果、主要中央銀行が金融引き締めを前倒しすることだ。各国中銀ができる最善策は供給サイドの緊張が緩和されるのを待ち、必要に応じて行動することだ」とし、利上げに対し、自制を求めている。(了)