安倍元総理の国葬への賛否をツイートしているのは誰か
2022年7月8日に,安倍晋三元首相が参議院選挙の応援演説中に銃撃され亡くなりました.そして,安倍元総理の葬儀を「国葬」として実施することが7月14日に岸田総理から発表されました.
しかし,安倍元総理を国葬にすることに関しては,賛否両論あるようで,ネット上でも大きく意見が割れているようです.そこで,ツイッター上で安倍元総理の国葬についてどのような言及があったのか分析してみました.
ツイートの分類とクラスタ分析
ここでは,7月8日から7月17日までに「国葬」を含むツイートを収集し分析を行いました.
まずは,リツイートユーザに基づくクラスタリング手法を使ってツイートの分類を行い,「国葬」を含むツイートのクラスタを取り出せるか確認してみました.
その結果がこちらの図になります.
これより,大きく3つのクラスタ抽出できることが分かりました.ここで,それぞれのクラスタに含まれるツイートを確認してみましょう.
1番大きな(ツイート数が多い)クラスタAが安倍元総理の国葬に反対するクラスタです.
この中には,以下のようなれいわ新選組の国葬に反対する声明ツイートなどが含まれています.
次に,2番目が国葬にポジティブな賛成クラスタBでした.ここには,以下のようなツイートが含まれています.
そして,3番目のクラスタCは国葬の実施や国葬とは何か,ということについてツイートしているクラスタでした.ロジカルに国葬の意義を説明するなど,どちらかといえばポジティブなツイートも多く含まれていました.
時系列変化
次に,これらのクラスタに所属するツイートがどのようなタイミングでリツイートされていたのかを見てみました.その結果が以下の図です.
これを観る限り,もともと国葬にポジティブなクラスタのツイートが多かったのですが,岸田総理から国葬を行うという発表があった直後から反対意見が多くツイートされていたことが分かります.
この結果は,13日ごろまでは「国葬にしてほしい」という要望系のツイートが多く,実際に国葬になると決まった段階から反対意見が多くなったのだと考えられます.まあ,国葬にすることが決まっていない段階から反対するというのもおかしな話なので納得いく結果でしょう.
クラスタの詳細分析
次に,それぞれのクラスタの特徴を詳細分析しました.その結果が以下の通り.
クラスタA:安倍元総理の国葬反対
総リツイート数:747,705
総アカウント数:109,284
偏り度:2.40
クラスタB:安倍元総理の国葬賛成
総リツイート数:489,882
総アカウント数:103,688
偏り度:2.28
クラスタC:国葬一般
総リツイート数:63,390
総アカウント数:37,381
偏り度:2.01
ここで,偏り度は特定のコミュニティのアカウントのみによって拡散がされている度合いを示します.参考までに2022年1月から6月までのTwitter上の全日本語ユーザの偏り度は平均で0.4程度です.
これを観る限り,ツイート数は反対派が大きいように見えますが,賛成反対ともアカウント数自体にはそれほど大きく違いはないようです.なお,クラスタA,Bの双方のツイートを拡散したアカウントは7,878しかなかったため,クラスタA,Bのどちらかを拡散したアカウントは基本的にそちらのツイートしか拡散していなかったと言えそうです.
一方,1アカウント当たりの拡散数はクラスタAは6.8回,クラスタBは4.7回と大きく異なっています.つまり,1つのアカウントが何度もツイートを拡散していることを意味します.
このように反対派が一アカウント当たり多くツイートする現象は,オリンピック反対やワクチン接種反対時にも見られた傾向です.決定された事項についてポジティブな人々は特に意見を言う必要はないが,反対する人たちは反対の意見が採用されるまでツイートする傾向があるためだと思われます.
また,偏り度について見ると,クラスタCが若干低い以外は基本的に偏りが高いことが分かります.
これは,国葬について議論しているアカウントは基本的に偏ったコミュニティのメンバーであるという事を意味します.実はそもそも「国葬」を含むツイートを投稿したり拡散したアカウント全体で見ても偏り度は1.61とかなり高いことが分かっています.ちなみに,6月に新型コロナに関してツイートしたアカウントの偏り度は0.54なので国葬について語っているアカウントであるということ自体特定のコミュニティに所属していることを意味している可能性があります.
国葬への賛否と新型コロナワクチンへの態度の関係
最後に,各クラスタの情報を拡散しているアカウントがどのようなアカウントなのかを分析するため,他のどのような情報を拡散しているのかを確認しました.
例えば,政治的な文脈でいえば,クラスタAのツイートばかりをリツイートしているアカウントの70%以上が参議院選挙の期間中に反自民党的なツイートを拡散していたことなどが分かります.
その中で,特徴的だったのが,新型コロナワクチン政策に対する拡散率です.新型コロナワクチン政策に関するツイートは,2022年を通して主に3つのクラスタが存在し,それぞれワクチンに関する一般的な情報群である「ワクチン一般」,ワクチン接種に反対するツイート群である「ワクチン懐疑」,ワクチン関連政策を批判するツイート群である「ワクチン政策批判」に分かれます.
今回分析したクラスタA~Cを拡散したクラスタに所属するアカウントの中で,ワクチン関係の3つの各クラスタのツイートを主に拡散していたアカウントがどの程度いたのかを示したものが下の図です.なお,「主に拡散していた」というのは,他のクラスタのツイートの2倍以上当該クラスタのツイートを拡散していた場合としています.
まず,ワクチン政策批判ツイートに注目すると,国葬反対のクラスタAでのみ拡散しているアカウントに多いことが分かります.おおよそ20%強のアカウントが拡散しています.クラスタAを拡散したアカウントは政府への批判が強いアカウントであると考えれば当然の結果ともいえるでしょう.
一方で,正反対に見えるこの二つのクラスタA,Bが共通してワクチンに懐疑的な情報について拡散しているアカウントが多い点が興味深い点です.クラスタAをリツイートしたアカウントの19.5%,クラスタBをリツイートしたアカウントの34.7%がワクチンに懐疑的なツイートを主に拡散していました.
この傾向は,国葬への態度を示したハッシュタグ「#安倍晋三の国葬に反対します」「#安倍晋三の国葬に賛成します」を利用したアカウントではより顕著になります.「#安倍晋三の国葬に反対します」タグを利用したアカウントのうち22.4%,「#安倍晋三の国葬に賛成します」タグを利用したアカウントの43.2%がコロナワクチンについては主に懐疑的なツイートを拡散していることが分かりました.20~40%が多いのかという点については,この期間にワクチン懐疑ツイートを拡散したアカウントが全体に占める割合は3.22%程度なので,国葬反対派で6倍程度,国葬賛成派で10倍程度ワクチン懐疑アカウントが含まれていると考えられます.なお,クラスタCは3.8%とほぼ平均くらいです.
以上から,賛否双方で積極的に意見を表明しているアカウントの中にワクチン懐疑アカウントが含まれる割合が多いというのは間違いなさそうです.
なお,ワクチン一般についてはどのクラスタとも重複がありますが,特に国葬関連一般と関係性が高いことが示されました.
まとめ
以前「ツイッター上でウクライナ政府をネオナチ政権だと拡散しているのは誰か」という記事の中で,ウクライナ政府をネオナチ政権だと言っているクラスタとワクチン懐疑クラスタの間に強い関係があることを示しましたが,今回も同様に全く無関係に思えるクラスタ群に一定の関係性がある可能性が浮かび上がってきました.
もちろん,特定のコミュニティを構成する人々の中に,別のコミュニティに所属している人々が含まれるということ自体は良くあることですので,それ自体は不思議なことではありませんが,特定のコミュニティのメンバーが相対する二つのコミュニティ内でそれなりの人数になっていることは興味深い点ではないでしょうか.
なお今回の結果はあくまでもデータを分析した結果このような結果が出てきたというだけであり,特定の活動についての結論を与えるものではありません.仮説はいくつか立てられるとは思いますが,その検証を行う前に結論は出すべきではないでしょう.