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台湾プロ野球CPBL新球団・台鋼ホークスの今

阿佐智ベースボールジャーナリスト
陳宇宏投手(台鋼ホークス)

ファームから参加の新球団・台鋼ホークス

 台湾プロ野球CPBLは昨年、新球団の設立を発表した。

 1990年に4球団体制で出発したCPBLは、当初国民の人気を博し、1996年には7球団にまで拡大した。翌97年にはCPBLに対抗してスタートした台湾大連盟(TML)が4球団制でスタート。台湾プロ野球のチーム数は、この時点で11球団まで膨れ上がった。しかし、この後、両リーグの選手の引き抜き合いや八百長事件などにより野球人気は急速に低下、CPBLからは撤退する球団が続出する。

 分裂状態は2003年にTMLがCPBLに吸収されるかたちで解消されるが、このとき6球団に整理された球団数は、再び起こった八百長騒動のため、2008年、ついにプロリーグ発足時の4球団に縮小してしまった。

 そんな台湾プロ野球が拡大に転じるのは2020年のことである。CPBL発足時の「オリジナル4」のひとつで、4度の年間総合優勝を誇りながらも1999年に解散した味全ドラゴンズがこの年復活。初年度はファームリーグのみの加入だったが、翌2021年から一軍リーグに参戦した。しかしこのことにより、リーグの構成球団数は奇数の5となり、リーグ戦を円滑に行うため、もう1チーム増が期待されることとなった。

 そこに手を挙げたのがすでにプロバスケットボールチームを保有していた南部に拠点を置く台湾鉄鋼(台鋼)グループだった。台鋼は2022年6月、CPBLから正式に球団設立が認められ、グループの拠点都市のひとつである高雄市にある、義大ライノスが富邦ガーディアンズとなって台北郊外の新荘へ去った後、「空き家」になっていた澄清湖球場をホームグラウンドと定めた。2023年シーズンは参入初年度ということで二軍のみの参加となったが、澄清湖球場は翌シーズンからの一軍参入に備えて改装工事を行うこともあり、公式戦を4試合行うにとどまり、市中心から地下鉄(MRT)で30分ほどの郊外にある青埔球場を通常の活動拠点とした。ただし、ここでは公式戦は行わず、試合はもっぱら他球団の二軍ホーム球場を間借りするかたちで消化した。

青埔球場
青埔球場

 青埔球場は韓国資本によって建設されたもので、韓国プロリーグ(KBO)の春季キャンプで使用されてきた。近年はソウルに本拠を置くキウム・ヒーローズ二軍のキャンプ地として使用されている。

 この球場はアクセスしやすい。紅線と呼ばれる高雄市を南北に縦走するMRTは市街地を除くとほとんどが高架区間となるのだが、市の中心部に位置する高雄駅から10数分もすれば、田園風景と新しいビルが混在する郊外となる。この路線はさらに延伸の予定だが、現在の終点の3駅手前が青埔駅である。ホームに立つと目の前に数棟の高層マンションが見えるが、球場はこの裏にある。駅から歩いて10分もかからず到着する。施設の名は、正式には「高雄市國慶青埔棒球場」といい、敷地は高雄市の所有となっている。

 球場には観客席はない。あくまでトレーニングに特化した施設なのだろう。メイン球場横に屋根付きのブルペンとバッティング練習場だけがあるプロ野球のキャンプ施設としては小規模な施設と言える。

台湾プロ野球「マイナーリーグ」の実像

円陣を組む台鋼ナイン(中信園區球場)
円陣を組む台鋼ナイン(中信園區球場)

 台鋼ホークスは2023年現在、二軍リーグである「マイナーリーグ」に参戦している。選手数は54人。背番号3ケタの「育成選手」も数人いるが、そもそも二軍しかないので、他の選手との扱いの差はない。このメンバーの内、ファーム公式戦に出場するメンバーが適宜選ばれ、試合会場へ出向き、残りの者は青埔球場に残って練習に励む。

「居残り組」の朝は早い。朝7時に集合し、午後1時ころまで練習するらしい。台湾の暑さを考えてのことだろう。とくに北回帰線より南に位置する高雄は熱帯気候に属し、夏の蒸し暑さは尋常ではない。午前中に練習時間を設定するのは合理的な選択である。

 一方で、「マイナーリーグ」公式戦の開始時間は、午後2時に統一されている。観戦者への配慮ということだろうが、暑さのピーク時間に始まる台湾でのファーム観戦はなかなかハードなものになる。

 今回の取材では、中信兄弟のファーム本拠、園區球場ともう1か所、富邦ガーディアンズのファームがホーム球場として使用する嘉義市営球場で台鋼の試合を観戦した。

嘉義市営球場でのマイナーリーグ公式戦
嘉義市営球場でのマイナーリーグ公式戦

 北回帰線が走る嘉義市は、日本の支配を受けていた植民地時代の1931(昭和6)年、第17回全国中等学校優勝野球大会(夏の甲子園)に出場し、準優勝に輝いた嘉義農林学校で知られた「台湾野球の都」とでもいうべき町である。市街地の中心にあるロータリーには、かつての嘉義農林のエース、呉明捷の像を頂いた噴水があり、その先、町の中心から2キロほど東にある嘉義公園には、1918(大正7)年開場という嘉義市営球場がある。1998年に行われた改装工事以降にプロ野球が実施されるようになり、翌年以降和信(2002年から中信)ホエールズが、本拠地球場として使用するようになった。しかし、和信改め中信が2005年に事実上この球場から撤退した後は、一地方球場として年間数試合のプロ野球一軍公式戦が行われるのみとなった。

 2017年シーズンを前に義大ライノスを買収した富邦ガーディアンズは、一軍本拠を高雄清澄湖球場から台北近郊の新北市にある新荘球場に移し、二軍本拠を嘉義市営球場とした。

 この日の試合だが、WBCイタリア代表のメンバーでもあったスティーブン・ウッズ(伍茲)が富邦の先発とあって、「一軍未満」の選手の集まりである台鋼打線は歯が立たず、6安打を放ちながらも無得点に終わった。

スティーブン・ウッズ(富邦ガーディアンズ)
スティーブン・ウッズ(富邦ガーディアンズ)

 現在のところ、台鋼の陣容は、他球団から戦力外通告を受けた者か分配ドラフトで他球団から獲得した者で、言葉は悪いが「余りもの」の寄せ集めである。これにこの7月に行われたドラフトで指名した高卒左腕、王柏傑(ワン・ボージェ)以下の新戦力が加わっているが、戦力補強のための「助っ人」外国人選手はいない。取材した2試合を見た限りでは、二軍でもなかなか勝つのは難しい陣容なのかと思ったが、9月22日現在で台鋼は、「マイナーリーグ」で首位と3.5ゲーム差の3位と健闘している。球団としては、願わくば、ファームリーグで優勝を飾り、来年のトップリーグ参入といきたいところだ。

 台鋼はまた、この夏のドラフトで新球団の優先権を生かしてメジャー5シーズンの経験のあるこの春のWBC代表メンバー、林子偉(リン・ズーウェイ/ロングアイランドダックス・米独立)を獲得したが、8月に契約後、すぐに元DeNAの王溢正(ワン・イージェン)ら3人との交換で楽天にトレード。さらに楽天に台湾での「契約所有権」がある「大王」こと王柏融(ワン・ボーロン/現日本ハム)の保有権を獲得している。王の去就はまだ日本のプロ野球がシーズン中ということで明らかではないが、仮に彼が台湾球界復帰となれば、新球団の目玉になることは間違いない。

 台湾のファームリーグ、「マイナーリーグ」は10月14日までレギュラーシーズンを戦う。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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