【名乗りの途中で攻撃されたヒーローって誰?】日本産特撮ヒーロー番組が米国で受け入れられた背景とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満です。
特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて日々活動をさせて頂いております。
少しずつ秋の爽やかな風を感じるようになりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、本日のお話のテーマは「名乗り」です。
声高らかに、自分は何者でどういう役職(身分)なのか、そしてどこの出身なのか等を叫ぶ「名乗り」・・・。
この名乗りですが、私達が暮らす日本においてもその歴史は古く、例えば鎌倉時代に活躍した武将達にとって、敵を目の前にして声高らかに行なう名乗りは、戦場における作法のひとつでした。名乗りの最中は敵も味方も一時休戦し、敵であっても名乗る者を攻撃はしません。
「やあやあ!我こそは性は○○!名は○○!出身は○○!」といった具合に、正々堂々と展開する武将達の名乗りですが、これには戦場における兵士達の士気を高めたり、敵を威嚇したりする効果もあったようです。
このように国内史を概観しても、名乗りは非常に長い歴史を有してきたことが記録されていますが、自らが何者であるかを対外的に知らしめる名乗りの精神は、私達が娯楽として楽しんでいるアニメや漫画、特撮といった、いわゆる「サブカルチャー」にも反映されていました。特に、株式会社東映様が発信してきた人気アニメや特撮ヒーロー番組はその最たる例であり、当社が子ども達に送り出してきた仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズ、プリキュアシリーズといった超人的な能力を持つスーパーヒーローが活躍する物語では、「名乗り」が作品を象徴するアイデンティティとしても機能していました。
例えば、石ノ森章太郎先生原作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー(1971)』シリーズでは、敵との戦闘を開始する前に、名乗りまたは決め台詞を披露して戦いに挑む仮面ライダー達が度々登場していました。『天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ!聞け!悪人ども!俺は正義の戦士!仮面ライダーストロンガー!』と、まるで演歌の前口上のごとく高らかに名乗りを挙げた『仮面ライダーストロンガー(1975)』や、「俺は太陽の子!仮面ライダー!BLACK!アーールエックス!」と力強い決めポーズと共に王者の風格が漂っていた『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等が該当しますが、この両者は名乗りの甲斐あってか、本当に強い仮面ライダー達であり、時に理屈では説明できないような能力を発揮することさえありました。
一方で、現在も女の子達から高い支持を得ている東堂いづみ先生原作、東映アニメーション制作のテレビアニメ『プリキュア(2004)』シリーズでも、プリキュア達による名乗りや決め台詞の描写がシリーズ開始当初より継続されていました。プリキュアシリーズの名乗りや決め台詞も個性豊かなものに溢れており、名乗りの最中に視聴者に毎週じゃんけんを仕掛けた『スマイルプリキュア!(2012)』や、単に名乗るだけでなく、敵に奪われた物の返却を要求した『Go! プリンセスプリキュア(2015)』等、各作品の個性や世界観を象徴する上で、名乗りは非常に重要な役割を果たしていたのです。
このように、東映作品のアニメや特撮ヒーロー番組に登場するスーパーヒーロー達は共通して名乗りを行なっており、仮面ライダーやプリキュアシリーズはそれぞれ長い歴史を積み上げてきたのです。
しかしそんな長きに渡る東映作品の歴史において、「名乗っている最中は攻撃をしてはいけない」というお約束を「ダサい」と一蹴し、名乗りの最中に攻撃にかかるという掟破りの暴挙に出たスーパーヒーローがいました。
そこで今回は、そんな「名乗り」を否定した「とあるスーパーヒーロー」について焦点を当てつつ、名乗りを巡る米国でのスーパー戦隊シリーズの国際展開について少しお話をしたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
※本記事における原作者「八手三郎」及び「東堂いづみ」の表記ですが、それぞれ東映映像本部テレビプロデューサーの共同ペンネーム、東映アニメーション様による共同ペンネームであります。しかし本記事では両ペンネームに敬意を表し「先生」という呼称で統一をしております。本記事を通じてはじめてアニメ・特撮ヒーロー番組に触れる方もいらっしゃいますので、ご配慮を頂けますと幸いです。
【そういうのが"ダサい"つってんだよ!】ヒーロー番組のお約束を無視!敵組織の頂点まで登り詰めた最強戦士・アバレキラーの悲劇とは?
突然ですが、皆さまはスーパー戦隊シリーズをご覧になったことはありますでしょうか?
スーパー戦隊シリーズは、漫画家・石ノ森章太郎先生と八手三郎先生が原作の、カラフルなコスチュームを纏った5人のチームヒーローを主人公にした、東映製作の特撮ヒーロー番組のことです。1975年に第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』が放送されて以降、『太陽戦隊サンバルカン(1981)』、『忍者戦隊カクレンジャー(1994)』、『忍風戦隊ハリケンジャー(2002)』、『海賊戦隊ゴーカイジャー(2011)』等、シリーズが継続され、現在放送中の『王様戦隊キングオージャー(2023)』まで全47作品が製作されました。
スーパー戦隊シリーズは、それぞれの能力に長けた5人の戦士達が力を合わせ、お互いに足りないところを補い合いながら、友情とチームワークで敵を打ち倒すのが魅力ですが、それ以外にも、声高らかにヒーロー達が自らの名を叫ぶ「名乗り」もシリーズ共通の魅力のひとつでした。
つまり、「○○レッド!」「○○ブルー!」「○○イエロー!」「○○グリーン!」「○○ピンク!」と各メンバーが順に名乗っていき、最後に「○○戦隊!○○ジャー!」といった具合です。名乗っている間は、ヒーローと対峙する敵側もご丁寧に待ってくれる上、一切攻撃をしないのがお約束。名乗り終わって、ヒーローと敵がいざ戦闘開始・・・なのが通例です。
しかし、このお約束を思いっきり破った不届き者がスーパー戦隊シリーズに現れました。名乗りを上げる戦隊メンバーを攻撃した上、なんと「そういうのはダサい」と吐き捨ててしまったのです。
掟破りの当事件が発生したのは、スーパー戦隊シリーズ第27作『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』でした。本作は、太古の昔より継承されてきた力である「ダイノガッツ」を持つ4人の若者達が、地球侵攻を開始した悪の組織「エヴォリアン」から地球を守る物語。
恐竜という子ども達にとって不動の人気を誇る素材を基盤に起きつつも、物語は全体的にシリアスかつ、ブラックユーモアを含めて「攻めた」描写が多かったのが本作の特徴でした。例えば、ベッドシーンや出産シーンを彷彿とさせるイメージ描写や、破壊衝動に駆られ凶暴化する子ども達、そして私利私欲のために子ども達を利用する大人の醜い部分を描いたシリアスな展開の傍ら、敵の攻撃でアバレンジャーと彼らを支援する組織(恐竜や)のメンバー全員が、老若男女問わずビキニ姿にされた上、恐竜やの女性メンバー(後にブルーと結婚する今中笑里)はビキニ姿のままビーナス像へと石化してしまう異次元の水着描写を導入し、さらには他番組とコラボして『子連れ狼(1970) 』やアニメ版『釣りバカ日誌(2002)』の登場人物達と力を合わせる展開も描写されました。
これだけ列挙しても全然足りない程、強烈なインパクトに溢れる攻めた描写・・・即ち「アバレた」展開に溢れていたのが、タイトル通り『アバレンジャー(2003)』の特徴ですが、その物語の中盤あたり(第18話)において、番組視聴者に大きな衝撃を与えるスーパーヒーローが登場します。
その名は、アバレキラー。
「ヒーローにしちゃ随分物騒な名前だね」と言われそうですが・・・。彼のことを概説すると、アバレキラーは天才医師・仲代壬琴が変身する白いアバレンジャー。他のアバレンジャー達を凌駕する強力な力を秘めた反面、変身すると命の危険を伴うほか、彼のスーツは大爆発の危険性もはらんでおり、それは東京そのものを簡単に消し飛ばす威力でした。
「そんな危ないものを着用する奴にヒーローなんて務まるのか?」実はこのアバレキラー、アバレンジャーの敵として初登場しました。アバレキラーに変身する力を手にした仲代壬琴(なかだい みこと)は、アバレンジャーとの戦いをゲームと位置づけ、自らの「ときめき」のためにアバレンジャーに戦いを挑み、自分が面白いと感じるゲームのためには他者の犠牲を厭わない、極めて利己的な性格だったのです。
この性格は戦いにおいても反映されており、アバレキラーを説得するため、アバレンジャーのリーダー格であるアバレッドが彼と一騎打ちを行なった際、アバレッドが自らの名乗りを披露する最中に攻撃に出るという暴挙にも出てしまいました。
「元気莫大!アバレ・・・あぁぁぁぁぁ!ぁぁぁっ!」(アバレッド)
「そういうのが"ダサい"つってんだよ!」(アバレキラー)
名乗りの最中にアバレッドに瞬足で打撃攻撃を加えた上、アバレキラーの戦力は圧倒的。アバレンジャー達を完膚なきまでに叩きのめす実力と共に、爆竜・トップゲイラー(翼竜型ロボットのような生命体)といった新戦力も結集。時にはアバレンジャー達の相棒である爆竜達を奪い自らの戦力にしたほか、その強大な戦力でアバレンジャーの敵組織「エヴォリアン」の頂点(ボス)まで登り詰めました。その存在感は絶大で、当組織の女性幹部の一人(リジュエル)はアバレキラーに惚れてしまい、自分がキラーを独占したいために地球の全女性をラフレシアの花に変えるというぶっ飛んだ作戦を試みるほどでした。・・・地球侵攻というより、もはや個人的な理由で作戦を立案する程のぞっこんぶりだったのです。
そんなアバレたい放題だったアバレキラーこと仲代壬琴ですが、物語の進行につれて彼の過去も明らかになっていきます。なぜ仲代壬琴が命の駆け引きのような危険なゲームをしてまで自らの「ときめき」に拘るのか、これを明確にしていきながら『アバレンジャー(2003)』の物語はクライマックスに向けて動き出していくことになります。
仲代壬琴は医大を飛び級で卒業し、14歳で医師免許を取得した天才外科医であり、天才であるが故に何でも出来る少年時代を過ごしていました。また友達や仲間もおらず、手応えがなく虚しさを感じる人生をこれまで歩んできたことも明らかになります。それ故にアバレキラーの力を手にしたことで快感を感じ、刺激を求めてアバレンジャーとの戦いに身を投じていたのです。しかし、少年時代からの彼の優秀な才覚は、実はアバレンジャーと敵対するエヴォリアンの因子が体内に埋め込まれたことが原因であったことが判明しました。つまり、彼が天才だったのは他者の力による干渉が発端だったのです。
自らの人生が敵により歪められていたことを知った仲代壬琴はエヴォリアンを離れ、改心してアバレンジャーと共闘するようになります(アバレキラーの初登場は18話、そして共闘は47話。本当に長い道のりでした)。かつては邪魔をしていたアバレンジャー達の名乗りにも参加し、やっと5人揃っての名乗りが視聴者に向けて披露されたのです。
「元気莫大!アバレッド!」(アバレッド)
「本気爆発!アバレブルー!」(アバレブルー)
「勇気で爆進!アバレイエロー!」(アバレイエロー)
「無敵の竜人魂!アバレブラック!」(アバレブラック)
「ときめきの白眉!アバレキラー!」(アバレキラー)
「荒ぶるダイノガッツ!爆竜戦隊!アバレンジャー!」(アバレンジャー一同)
しかしやっと5人揃ったアバレンジャー達の勇猛果敢な戦いが展開されたのも束の間、戦いの中でアバレキラーは自らの力を制御できなくなってしまいました。
戦いを終えると、夕日の砂浜で仲代壬琴は大量出血して崩れます。彼のアイデンティティであった白いコートは、流血で真っ赤に染まっていました。彼の身を案ずる他のメンバーに対し、仲代壬琴はアバレンジャー達と距離を取ります。
「早くここから離れろ。ダイノマインダー(変身アイテム)が暴走し、爆発する。」(仲代壬琴)
もうじき爆発して命を散らすことになる瀕死状態の彼を、アバレンジャーから引き離して上空へと運んだのは、仲代壬琴の唯一無二の相棒である爆竜のトップゲイラーでした。
「きてくれたか・・・トップゲイラー。宇宙まで出たら、俺を放り出して・・・帰れ。」(仲代壬琴)
「人間。俺はお前と一緒だと言ったはずゲラ。」(トップゲイラー)
「・・・物好きな奴だ。皮肉なもんだ。生きたいと思った・・・この俺が・・・だが不思議と・・・悪い気分じゃない。」(仲代壬琴)
仲代壬琴は、静かに目を閉じ、頭を垂れます。
「お前は俺達を十分ときめかせたゲラ。お前はもう、ときめきを探す必要は無い。さらばだ。壬琴。」(トップゲイラー)
仲代壬琴を乗せ、宇宙空間まで飛び出したトップゲイラー。壬琴とトップゲイラーは青白い光となって宇宙で静かに爆発します。その様子を見守っていたアバレンジャーの仲間達。アバレキラー亡き後も、アバレンジャー達は力を結集して最後の戦いに挑み、エヴォリアンの首領(デズモゲヴァルス)を命からがら葬ります。熾烈な戦いを終えたアバレンジャー達は、それぞれの新たな道へと旅立っていったのでした。
『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』において衝撃の登場を果たしたアバレキラーですが、全てをゲームと称して命を弄ぶ利己的な戦いを行なった彼の背景には、敵に人生を弄ばれた悲しい過去を秘めており、最終的に彼はアバレンジャーとその仲間達を思いやる優しさと友情を手にします。しかし5人目のアバレンジャーとなった翌週、自らの人生を生きたいと思った矢先に死んでしまうという切ない結末を迎えており、初登場からその最期にかけて、視聴者に向けて強烈なインパクトを残した存在だったのです。
さてさて・・・本記事を読んで「アバレキラー(仲代壬琴)に興味を持った」、はたまた「アバレキラー(仲代壬琴)を観てみたくなった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
・・・実は、今年2023年は『爆竜戦隊アバレンジャー(2003)』放送20周年。それを記念して、現在全国の劇場にて新作映画『爆竜戦隊アバレンジャー20th 許されざるアバレ』(外部リンク)が公開中です。なんと本作、死亡したはずのアバレキラー(仲代壬琴)が登場します。その上、再びアバレンジャー達に牙をむくという展開になっており、死んだはずの彼がなぜ蘇ったのか?そして彼は本当にかつての仲間を忘れてしまったのか?ネタバレを控えるためこれ以上は言及しませんが、20年の時を超えた大変感慨深い作品となっております。期間限定上映ですので、是非お近くの映画館で、5人のアバレンジャー達の20年ぶりの大アバレをチェックしてみてくださいね♪
【銃社会のアメリカは日本の名乗りをどう見ていた?】アメリカ版スーパー戦隊シリーズの成功の裏で発生した文化の壁とは?
・・・ちょっとシリアスな話が続きましたので、ここからは少し明るくお話しをして参りたいと思います(ここまで根気強く読んでくださった皆さま、誠にありがとうございます)。
当記事の本題である日本のアニメ・特撮ヒーロー番組の「名乗り」ですが・・・
ふと考えたのは、これらの作品を異文化圏である海外へと輸出した際、現地の人々はこの「名乗り」についてどう捉えていたのでしょう?
今や「日本のアニメが世界中で大人気!」なんて報道されるのは日常茶飯事ですが、世界各国で日本のアニメ・特撮作品が高い国際的認知度を誇るようになったのは、やはり著作側である製作者達の尽力があってこそ。異なる文化圏の人達に作品を受け入れてもらうにはどうしたら良いか?試行錯誤の連続であったと推察致します。
やや個人的な話になりますが、私も米国・ハワイ州で幼少期からよくロングステイをしていたので、現地での生活を通じて風俗習慣の違いや治安面での危険性を経験することも時にありました。日本人観光客に人気かつ安全なイメージが強いハワイのオアフ島とはいえ、夜の10時以降の外出は大変危険であるほか(怖い人達が屯しているので、どうしてもの移動の際はタクシーを常に活用していました)、お部屋でいざ寝ようとしても外のパトカーのサイレン(「うぃーーん!ふぁんふぁんふぁん!」という高めの音)が深夜も鳴り止むことはなく、子ども時代は興奮してなかなか寝付けなかったほか、大人になった今も「窓の外では怖いことが起きている・・・」なんて物騒に感じることも日常茶飯事でした。
つまり、治安面での予断を許さず、犯罪者に向けて警察が銃を構えることの多いアメリカですが、この国に日本を代表するヒーローであるスーパー戦隊シリーズは進出し、大成功を収めました。しかしながら異なる文化圏の人達に「5人1組のヒーローチーム」や「5人それぞれが敵の前で名乗り、決め台詞を言う」等の日本のスーパー戦隊シリーズの魅力を浸透させるのは、作品の著作側である製作者達の尽力があってのことでした。
スーパー戦隊シリーズが米国へと進出したのは1993年のこと。シリーズ第16作『恐竜戦隊ジュウレンジャー(1992)』をベースに、“Mighty Morphin Power Rangers(マイティ・モーフィン・パワーレンジャー)”と題し、アメリカで放送されました。番組内容は、スーパー戦隊シリーズ第16作「恐竜戦隊ジュウレンジャー」をベースに、日本人の俳優さん達の出演シーンを現地俳優さん達の出演シーンに差し替え、着ぐるみやミニチュアを使った戦闘シーンは日本で撮影した映像を流用する形で、約30分の番組として編成したものでした。
当内容で放送された本作は、アメリカで爆発的なヒットを巻き起こします。ロサンゼルス地区のテレビ局では最高9.1%の視聴率をたたき出した上、1994年には1年間でフィギュアを1800万体販売して10億ドル売り上げたほか、あまりの人気にクリントン大統領夫妻は本作の出演俳優をホワイトハウスへ招待したほどでした。
このように、アメリカで爆発的なヒットを飛ばした「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」は「アメリカの歴史上、もっとも成功した子ども番組」と評されるまでに至りましたが、その成功の裏には、日米文化の違いによりいくつかの障壁が発生していたのです。
その1つが当記事の本題である「名乗り」の問題でした。つまり、「なぜ5人が敵の前でわざわざ名乗るんだ」というのを、アメリカ人に理解してもらう必要があったのです。先述したとおり、日本のスーパー戦隊シリーズは、敵を前にしてメンバーひとりひとりが名を名乗り、名乗り終えたら敵と戦う流れですが、アメリカは銃社会かつ西部劇の国。名乗っている暇があったらあっさり撃たれるわけです。
当時の東映のプロデューサーであった鈴木武幸氏によれば、名乗りとは東映のお家芸であり、名乗りのシーンは絶対に手をつけてほしくない上、もし外すつもりなら作品をアメリカに売るわけにはいかないと念を押す状態だったようです。名乗りとは歌舞伎のような日本の伝統芸能であり、名乗ることで敵側にも視聴者にもその名をしらしめることができるんだと力説し、説得に時間こそかかったものの、アメリカサイドに納得してもらったのだとか。
今年でパワーレンジャーシリーズは、米国での放送開始30周年を迎え、現在も日本のスーパー戦隊シリーズをベースとした新作が現地の子ども達に向けて発信され続けています。日本発のスーパー戦隊シリーズの名乗りは、現在のシリーズまで脈々と継承され続けており、現在はアメリカサイドの方が気に入ってしまい、オリジナルである日本のスーパー戦隊シリーズで名乗りを省略すると「なんでやらないんですか」と逆に注意されてしまうそうです。
日米間におけるヒーローの「名乗り」に対する認識の相違こそあったものの、結果的に日本の特撮ヒーローの名乗りはアメリカでも受け入れられ、その他諸外国でもパワーレンジャーシリーズの放送は続いています。私達が当たり前、日常的に感じているようなことでも、異国の地では逆に不思議に感じられるものだと考えさせられるエピソードですね・・・。
いかがでしたか?今回は日本の特撮ヒーローの名乗りを中心にご紹介をして参りました。
この記事を読んでくださっている皆さまも、宜しければ自分だけの名乗りと決め台詞を、オリジナルで考えてみてはいかがでしょうか?
「ヒーローごっこなんかもう卒業したよ」という方も一度童心に還って、力強い決めポーズと共に名乗ってみたら、普段は見えなかった新たな景色とインスピレーションが沸いてくるかもしれません。
最後までご覧頂きまして誠にありがとうございました。
(参考文献)
・「劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト×劇場版 爆竜戦隊アバレンジャー DELUXE アバレサマーはキンキン中!」パンフレット
・菅家洋也、「講談社シリーズMOOK スーパー戦隊シリーズMOOK スーパー戦隊 Official Mook 21世紀 vol.3 爆竜戦隊アバレンジャー」、株式会社講談社
・鈴木武幸、夢(スーパーヒーロー)を追い続ける男、株式会社講談社
・大下英治、仮面ライダーから牙狼へ 渡邊亮徳・日本のキャラクタービジネスを築き上げた男、株式会社竹書房
・大場吾郎、「テレビ番組海外展開60年史 文化交流とコンテンツビジネスの狭間で」、人文書院