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発毛を促進する生活習慣とサプリメント - 男性型脱毛症の改善に効果的なアプローチとは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【男性型脱毛症(AGA)の症状と原因】

男性型脱毛症(AGA)は、男性ホルモンの影響により、額の生え際や頭頂部の毛髪が徐々に細くなり、抜け落ちていく症状を指します。AGAの主な原因は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロン(DHT)の過剰な作用によるものです。DHTは、男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼという酵素によって変換されたもので、毛包の成長を抑制し、発毛サイクルを短くする働きがあります。

AGAの発症には、遺伝的な要因が大きく関与していると考えられています。男性ホルモンに対する感受性の高い毛包を持つ人は、AGAを発症するリスクが高くなります。また、ストレスや不規則な生活習慣、喫煙、肥満などの環境要因も、AGAの発症や進行に影響を与えることが知られています。

AGAは、毛髪の変化だけでなく、頭皮の皮膚にも影響を及ぼします。毛包の萎縮が進むと、頭皮が硬くなり、皮脂の分泌が過剰になる傾向があります。これにより、脂漏性皮膚炎などの頭皮トラブルを併発することもあるため、注意が必要です。

【AGAの治療法と効果】

現在、AGAの治療薬としては、ミノキシジルとフィナステリドの2種類がFDA(米国食品医薬品局)に承認されています。ミノキシジルは外用薬で、頭皮の血行を促進し、毛包の成長期を延長する作用があります。ミノキシジルは、2%と5%の濃度で使用され、1日1~2回、脱毛部位に塗布します。臨床試験では、使用開始から6ヶ月後には発毛効果が認められています。

一方、フィナステリドは内服薬であり、5αリダクターゼの働きを阻害することで、テストステロンからDHTへの変換を抑制します。その結果、AGAの進行を遅らせ、発毛を促進する効果が期待できます。フィナステリドは、1日1mgを内服する用法・用量で使用されます。臨床試験では、服用開始から3ヶ月後から発毛効果が現れ、服用を継続することで、長期的な効果が得られることが報告されています。

これらの薬剤治療に加えて、低出力レーザー療法(LLLT)や多血小板血漿(PRP)療法、マイクロニードリングなどの非薬物療法も注目されています。LLLTは、特定の波長の光を頭皮に照射することで、毛包の成長を促進する治療法です。臨床試験では、LLLTを継続的に行うことで、発毛効果が認められています。

PRP療法は、自己血液から抽出した多血小板血漿を頭皮に注入する方法です。血小板には、毛髪の成長を促進する様々な成長因子が含まれており、これらを直接毛包に届けることで、発毛を促すというものです。PRP療法は、単独でも効果が期待できますが、ミノキシジルやフィナステリドとの併用でより高い効果が得られると報告されています。

マイクロニードリングは、極細の針を用いて頭皮に微小な傷をつける治療法です。これにより、皮膚の再生過程が活性化され、毛包の成長が促進されます。また、ミノキシジルなどの外用薬の浸透性を高める効果も期待できます。

ただし、これらの治療法の効果には個人差があり、AGAの進行度合いや年齢、全身の健康状態などによって、治療に対する反応は異なります。また、治療の副作用として、頭皮の赤み、かゆみ、乾燥などが生じることがあります。治療を始める前に、皮膚科医や毛髪専門医に相談し、自分に合った方法を選ぶことが重要です。

AGAの治療では、早期発見・早期治療が非常に重要だと考えます。薄毛が気になり始めたら、できるだけ早く専門医に相談し、適切な治療を開始することをおすすめします。AGAは進行性の疾患であり、毛包の萎縮が進むと発毛が難しくなるため、早い段階で治療を始めることが大切です。また、治療は長期的に継続することが必要であり、自分に合った方法を見つけ、モチベーションを維持しながら取り組むことが重要だと思います。

【AGA予防のための生活習慣とサプリメント】

AGAの予防には、生活習慣の改善が欠かせません。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、健康的な生活リズムを心がけることが大切です。また、過度のストレスは薄毛の原因となるため、ストレス管理にも注意が必要です。

頭皮の健康維持も、AGAの予防に役立ちます。頭皮の皮脂やフケによる毛穴の詰まりは、毛髪の成長を阻害する要因の一つです。こまめな洗髪を心がけ、頭皮を清潔に保つことが重要です。また、頭皮マッサージを行うことで、血行を促進し、毛髪に栄養を届けることができます。指の腹を使って、頭皮を優しく刺激するだけでも効果があります。

サプリメントの摂取も、AGAの予防に有効だと考えられています。ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、亜鉛、セレンなどは、毛髪の成長に関与する栄養素として知られています。これらの栄養素を含むサプリメントを取り入れることで、毛髪の健康維持に役立てることができるでしょう。ただし、サプリメントはあくまで補助的な役割であり、基本的な生活習慣の改善が何より大切です。

また、男性ホルモンの作用を抑制する成分を含むサプリメントも注目されています。代表的なものが、ノコギリヤシ由来のベータシトステロールや、緑茶由来のエピガロカテキンガレートです。これらの成分は、5αリダクターゼの働きを阻害し、AGAの進行を遅らせる効果が期待されています。

AGAは、単なる美容上の問題ではなく、自尊心やメンタルヘルスにも大きな影響を及ぼす症状です。薄毛に悩む男性は、早めに専門医に相談し、適切な治療と予防法を実践することが大切です。また、ストレスを溜め込まないよう、趣味や運動などでリフレッシュすることも重要です。自分に合った方法を見つけ、前向きに取り組むことで、AGAと上手に付き合っていけるはずです。

参考文献:

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- Rossi A, Anzalone A, et al. Multi-therapies in androgenetic alopecia: review and clinical experiences. Dermatol Ther. 2016;29(6):424-432.

- Gentile P, Cole JP, et al. Evaluation of Not-Activated and Activated PRP in Hair Loss Treatment: Role of Growth Factor and Cytokine Concentrations Obtained by Different Collection Systems. Int J Mol Sci. 2017;18(2):408.

- Ablon G. A 6-month, randomized, double-blind, placebo-controlled study evaluating the ability of a marine complex supplement to promote hair growth in men with thinning hair. J Cosmet Dermatol. 2016;15(4):358-366.

- Drugs. 2023 Jun;83(8):701-715. doi: 10.1007/s40265-023-01880-x. Epub 2023 May 11.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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