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散歩中に民家の敷地で犬が「ふん」をしたのに放置して逮捕 どのような罪になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 昨年12月と今年1月に旭川市の住宅街を散歩中、民家の敷地で犬が「ふん」をしたのに放置して立ち去ったとして、57歳の男が逮捕された。容疑を否認しているが、警察は常習犯とみて捜査を進めている。

条例で規制されているが…

 では、こうしたケースの場合、どのような罪に問われるだろうか。全国の多くの自治体が条例で飼い主らに犬のふんの放置を禁止し、回収などの処理を義務付けている。そこで、まずはこの条例を使うことが考えられる。

 しかし、規制の内容は自治体によってバラバラだ。違反に対して罰金刑を科す自治体も一部にはあるものの、前科の付かない「過料」という金銭的な行政罰にとどまる自治体や、そうした罰則すらない自治体のほうが多い。北海道でも、札幌市だと5万円以下の罰金だが、事件の舞台となった旭川市には罰則がない。

 一方、全国一律の規制ということになると、軽犯罪法違反の成立が考えられる。「公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者」を処罰の対象としているからだ。犬のふんは「汚物」にあたる。

 ただ、刑罰は拘留(刑事施設での1日以上30日未満の身柄拘束)または科料(千円以上1万円未満の金銭罰)と極めて軽い。住居不定など特殊なケースでもない限り、これで逮捕されることはまずない。

廃棄物処理法違反がある

 そこで、より罪が重い犯罪として、廃棄物処理法違反に問うことになる。「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定しているし、「廃棄物」には犬のふんも含まれるからだ。これだと刑罰は最高で懲役5年、罰金でも1000万円以下と重い。5月16日に逮捕された男の容疑も、廃棄物処理法違反だ。

 こうした検挙例は多い。昨年8月にも、東京都荒川区で犬の散歩中、空き地や排水溝に3回にわたってふんを捨てたとして、飼い主の女が廃棄物処理法違反で書類送検されている。臭いので持ち帰らずに捨てていたという。

 このように、散歩中の犬のふんを回収せず、放置した場合、単なるマナー違反の問題では済まず、罪に問われることもあり得る。誰も見ていないだろうと思っていても、迷惑を受けている住民らが監視している。今回の男の場合も、周辺の防犯カメラにその犯行が撮影されていたという。

 「みだりに」という要件に該当する必要があるものの、法的には「社会通念上正当な理由があるとは認められない場合」を意味するから、回数は問わない。それでも、何度も繰り返していれば、それだけ悪質ということになり、警察が住民からの相談を刑事事件として取り上げ、検挙される可能性も高まるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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