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渡り蟹シーズン到来で「南北海戦」の可能性は?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

朝鮮半島がキナ臭い。黄海(西海)で渡り蟹のシーズンが到来したせいかもしれない。

海の38度線と称される西海(黄海)のNLL(北方限界線)一帯は、5月下旬から渡り蟹の漁場と化している。南北の漁船だけでなく、中国の漁船まで群がってくる。自国の漁船が越境、あるいは拿捕されないよう、また中国漁船の不法操業を取り締まるため南北の警備艦が巡回するが、やっかいなことに北朝鮮は陸の三十八度線(軍事境界線)と違い、NLLを認めず、自国の領海であると主張している。そのため南北艦船による衝突がこれまでに何度も起きている。そのうち2回は6月に発生し、「海戦」にまでエスカレートした。

一度目は、1999年6月15日。「NLLを侵犯した」として退去を求める韓国艦船に対して北朝鮮の警備艇が警告を無視し、発砲。これに韓国側が反撃した結果、北朝鮮側は魚雷艇1隻(40トン、15人乗り)沈没、警備艇2隻(420トン=75人と155トン=35人)大破、30人~70人の死傷者を出した。一方の韓国側は死者はゼロだったが、哨戒艇1隻(1,300トン=95人)エンジン破損、高速艇(150トン=30人)1隻被弾、負傷者7人という被害を出した。

二度目の衝突は、3年後の2002年6月29日。この交戦で北朝鮮側は警備艇(215トン=50人乗り)一隻炎上、死傷者30人前後、韓国側も高速艇(156人=28人)1隻沈没、死者6人、負傷者18人の被害を被った。

海上での軍事衝突は、小規模ながら2009年11月10日にも起きている。この時は、北朝鮮の警備艇から発射された50発のうち15発が韓国の高速艇に被弾したものの、いずれも14.5mmの小口径だったため韓国側の死傷者はゼロで、破損もなかった。これに対して北朝鮮側には4人以上の死傷者が出た。自力で基地に帰還できないほど警備艇は大破した。韓国側が40mm砲250発と20mmの機関砲を4千7百発も発射したためだ。

この一連の衝突の延長線上で起きたのが翌年(2010年)3月26日の韓国哨戒艦「天安艦」(全長88m、1200t、乗組員104人)の沈没である。死者・行方不明者46人を出すなど一大惨事となった。北朝鮮は犯行を否認しているが、韓国は「北朝鮮の潜水艦から発射された魚雷によるもの」と北朝鮮を非難。そして8か月後の11月23日には「延坪島砲撃事件」が発生した。

延坪島で韓国軍海兵隊延坪部隊第7砲中隊が6門の155mm自走榴弾砲のうち4門を動員して月に一度の陸海合同射撃訓練を行っていた最中に北朝鮮が対岸の島から延坪島に向け砲弾約170発を発射、そのうち80発が同島に着弾し、韓国の海兵隊員と民間人それぞれ2人が死亡、海兵隊員16人が重軽傷を負った。韓国の陸に北朝鮮が砲弾を撃ち込んだのは朝鮮戦争終結(1953年7月27日)以降初めてのことであった。

韓国の射撃訓練を「我々に対する露骨な軍事的侵攻行為である」とみなす北朝鮮は「不法、無法のNLLをあくまで固守しようとするなら強力な物理的対応打撃で鎮圧する」と警告していたが、韓国艦船への攻撃はあっても住民が暮らす島に砲撃を加えるとは想定していなかっただけに韓国にとっては大きな衝撃となった。

昨年も、5月20日から24日にかけて、二度撃ち合いがあった。

韓国軍が20日に中国漁船の不法操業を取り締まるためNLL越えた北朝鮮の警備艇に10発の威嚇射撃をやったことへの報復なのか、北朝鮮西南戦線司令部が翌21日に「NLL付近の韓国の艦艇は今後、予告なき攻撃の対象となる」と威嚇したうえで3日後に南側で哨戒活動中の韓国艦艇に向け砲弾を2発撃ち込んだ。幸い、当たらなかったが、韓国はお返しとばかりNLLの北側に展開中の北朝鮮艦艇に向け5発撃ち返した。

韓国軍は哨戒艦沈没事件後「一発撃ったら、10発、100発で報復する」と北朝鮮に警告を発している。金寛鎮(キム・グァンジン)国防長官(当時)は「北朝鮮が追加挑発すれば、自衛権の次元から航空機を利用し、(砲撃基地を)爆撃する」とまで公言。さらには現場の部隊に対して「北朝鮮が挑発すれば、自衛権の次元で断固対応し、挑発の原点だけでなく、そこを支援する勢力まで懲罰せよ」との訓令を出していた。

韓国のマニュアルに従えば、北朝鮮が韓国に向け発砲すれば、被害の発生に関係なく、爆撃機を動員して発射基地及び支援勢力に攻撃を加えることになっていたが、昨年の場合、大事にいたらなかったのは、北朝鮮が沿岸から撃ったのか、海上の艦艇から撃ってきたのかわからなかったため韓国軍が攻撃をエスカレートしなかったことによる。

韓国軍は西海に2艦隊所属の戦闘艦160余隻と潜水艦10余隻を保有している。さらにNLL海上での衝突に備え、5000トン級の韓国型駆逐艦を含め哨戒艦、護衛艦、高速艇を増強配置するなど戦力、装備面では圧倒的に優勢とされてきた。ところが、最近、北朝鮮が延坪島に近い無人島の葛島(カルド)に一砲で40発発射可能な122ミリロケット砲の陣地を築いていたことがわかり大騒ぎになっている。

地対艦ミサイルや艦対艦ミサイルの性能向上に加え、延坪島から4.5キロしか離れてない葛島に射程距離20kmのロケット砲の陣地が構築されれば、延坪島駐屯の韓国海兵部隊だけでなく、延坪島の南16キロまでの海上で哨戒活動を行う韓国艦艇にも大きな脅威となることが予想されるからだ。

一貫してNLLの無効を叫ぶ北朝鮮は人民軍西南前線軍司令部の名で5月8日、今後NLLで哨戒活動をする韓国艦艇を「予告なく照準打撃する」との通知文を韓国側に送り、13日から3日間ぶっ通しで夜間砲撃訓練を実施していた。NLL付近で夜間砲撃訓練は極めて異例で、過去に一度もなかったことだ。

NLLに向けた夜間訓練の中止を求めた韓国軍が「万が一、北朝鮮の砲弾がNLLの韓国側海域に着弾した場合、強力に対処する」と警告を発したが、北朝鮮は「一戦交える勇気があるなら挑んでみろ」と威嚇するなど、戦力を増強した北朝鮮は強気だ。

日米韓3か国の6か国首席代表者らの動きが俄かに慌ただしくなったのは5月9日の北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の成功だけでなく「渡り蟹合戦」と称される「南北海戦」の危惧も反映されているのかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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