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大鶴義丹が語る母、そして、女優とは

中西正男芸能記者
母への思い、女優への思いを語る大鶴義丹さん

 俳優、作家、映画監督、タレントとあらゆる顔を持つ大鶴義丹さん(53)。1月26日には10年ぶりの長編小説「女優」を上梓しました。昨年亡くなった母で女優の李麗仙さんへの思いが作品の起点になったともいいますが、今思う母、そして、女優とは。

親子で同業者

 今回の小説を書き始めたのは新型コロナ禍の前、2019年の11月からでした。その年に母親が脳梗塞になって女優を引退したんですけど、その出来事にインスパイアされたというか、影響を受けた部分は大きかったと思います。

 母の半生を描いたとか、別にそういう作品ではないんですけど、女優として生きる人間の特殊性。そして、劇団というものについて。そこは書いておきたいと思ったんです。

 親子で同業者でもあるので、反発しあう部分もあるし、分かる部分もある。これは料理人さんの親子でも同じだと思うんですけど、同じ仕事をしているからこそ共鳴する部分はあると思うんですよね。

 その感覚からすると、病気という健康上のトラブルで、これまでそれ一本で表現して仕事をしてきた体というものがままならなくなる。

 もちろん、どんな仕事の人でも体を壊したら大変なんですけど、体一つで生きてきた役者の仕事において、そこが損なわれるのはより一層重たいというか、親子として、そして同業者として、近くで見ていてすごくショックを受けたことでもありました。

 プロレスラーの方が体を壊した時に近いかもしれませんけど、唯一の商売道具を失ってしまう。この感覚は本当につらいものだと思っています。その切なさと悲しさ。そんな思いがこの作品の根っこにあるのだとも思っています。

女優という存在

 あとね、男優と女優の違い、これもすごく感じてきたんです。それもこの作品を書く衝動になっていると思います。

 男はビジネスとか覇権のために芝居をする人間が多いんですよ。頑張る先に“覇”という文字が見えるんですよね。

 でも、女優さんは僕の感覚だとそうではないんです。お金とか権力じゃなく、損得でもなく、物語の中に居続けようとするというか。

 母はまさにそういうタイプだったんです。ほとんどの人は演じるということの膨大な作業や大変さを感じると思うんですけど、それを乗り越えてでも、ずっと向こうの世界にいたい。ずっと芝居をしていたい。自分が生きている現実の世界より芝居の世界にいたい。

 感覚的な部分なのでなかなか言語化が難しいんですけど、そういう要素が確実にあると僕は思っているんです。

 僕なんかは現場から早く帰って友達と酒が飲みたいと思うことがほとんどなんですけど(笑)、現実より芝居の中に自由を感じるというか。

 自分は男だから心の底から理解することは難しいのかもしれないけど、母親が生きた女優という存在。そこの感覚を物語にしておきたい。それは強く思いました。

死ぬということとは

 サラリーマンさんのご家庭だったら、例えば、お父さんが昼に会社でどんな顔をしているのかを子供は見ることがないと思うんです。ただ、ウチは父は劇団をやり、母も女優をやり、そしてそれを小さな頃から間近で見ていました。

 だからこそ、感じることがあったし、僕自身が仕事を選ぶことにも大きな影響を受けたと思いますし、そこは特殊な環境だったと思います。そして、母親は人間が死んでいくさまも見せてくれたと感じているんです。

 徐々に体が弱っていって、高齢者向けの施設から病院に移り、去年の4月から亡くなる6月までは看取ってくださる病院に移りました。

 この最後の病院に入る時、これは幸運としか言いようがないんですけど、家から歩いて3分くらいのところの病院に入ることができたんです。

 なかなか近所のそういう病院にうまく入れることはないみたいなんですけど、たまたま入ることができた。なので、仕事に出る前とか、少し時間ができたら母に会いに行って声をかける。様子を見る。それが本当に細やかにできたんです。

 日によっては「このまま治るんじゃないか」と思うくらい体調が良くなる日もありましたし、それが一気に悪くなったり、そこで昔の舞台の音源を聞かせたらまた持ち直したり。

 徐々に高度がきれいに下がっていって飛行機が着陸するように死ぬのではなく、上がったり、下がったりもある。でも、その中で少しずつ弱っていって命が尽きる。人ってこういうことなんだなと見せてもらいました。

親孝行

 僕が演じる仕事を始めた頃から「技術云々じゃなく、自分の全てを出し切れば、それはそれでお客さんは喜んでくださる」と言われてきました。さらに「自分で自分を見失うほどの芝居をする」ということも指針として言われました。

 正直、自分で自分を見失うほどの芝居というのは今の僕ではその境地にまで達しているとは言えないんですけど、その意識を持ちつつ、試行錯誤を続けて進んでいく。

 そして、母親が役者として「やりたかったけどできなかったこと」。そこを自分が塗りつぶすというか、やっていく。それがせめてもの親孝行になるのかなとは思っています。

 50歳も過ぎて、見てくれで言うと父親にどんどん似てきたといろいろな人に言われるんですけど(笑)、それと同時に、生き方とか性格は母親に似てるのかなと感じてきています。

 だからこそ、正解かどうかは分からないけど、自分が思う母親が得られなかったピースを集めていく。それが自分がやるべきことなのかなと思っているんです。

(撮影・中西正男)

■大鶴義丹(おおつる・ぎたん)

1968年4月24日生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部中退。ケイダッシュ所属。父は劇作家、芥川賞作家の唐十郎。母は女優・李麗仙。中学時代から映像の世界に足を踏み入れ、日本大学在学中に映画「首都高速トライアル」で本格的に俳優デビュー。90年に「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し、小説家デビューも果たす。95年には映画「となりのボブ・マーリィ」で監督デビュー。94年に歌手・女優のマルシアと結婚。長女が誕生するが、2004年に離婚。フジテレビ系「アウト×デラックス」などに出演中。10年ぶりの長編小説「女優」(集英社)を1月26日に上梓した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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