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山本量子さんの言葉を振り返って感じること。そして、感じ取れなかったこと。

中西正男芸能記者
今年4月19日、拙連載取材時に撮影した山本量子さん

2022年4月22日午後3時35分。毎日放送社員食堂。

初めて放送で病気のことを明かされたタイミングで、ヤフー拙連載でお話をうかがいました。

今の思い、今の自分をストレートにぶつけるラジオというメディア。それが大好きで、それを大切に思っているからこそ、病気のことは話しておかないといけない。でも、話をしたくもない。

楽しく、バカバカしく、面白く聞いてもらいたいのに、病気のことを話すとそれがやりづらくなる。でも、何も言わずに休んでも「この人大丈夫なの?」という空気は必ず出てくる。どうしたものか。

拙連載取材当日は、インタビューというよりも相談に近い場となりました。何をどんな風に話すのが妥当なのか。僕も単なる聞き手ではなく、力いっぱい自分なりの答えを返す。そんな作戦会議のような時間となりました。

「話すだけ話して『やっぱり、これを世に出したくない』とか『言わないほうが正解だと思う』となったら、一ミリも遠慮なくおっしゃってくださいね。このような領域は、ご本人の思いだけが正解。そぐわないことをやる意味はそれこそ一ミリもありません。本当に、本当に、遠慮なく」

取材中、何度この言葉をご本人に渡したことか分かりません。それくらい、本当に難しい領域ですし、ご本人も迷いの中で言葉を紡いでらっしゃったように感じました。それだけ、ラジオという場を愛してらっしゃる。それを強く感じました。

通常の拙連載の取材時間を大きく超える約2時間お話をうかがいました。書く側として、状況を理解しておかないといけない部分もあるので、心苦しいことながら、リアルな病状もうかがいました。とにかく正味の話を聞きました。

あとは文章としてどう組み立てるか。それはこちらの仕事です。ご本人が全く口にしていない言葉、思ってもない言葉を書くことはありませんが、どこに何をどんなトーンで配置するのか。それはこちらの裁量です。

「関西AМラジオ随一の人気アシスタント・山本量子が病を明かした理由と今後への思い」というタイトルをつけ、原稿はご本人のこの言葉で締めくくりました。

ラジオほど何十年もしゃべることができる媒体はないと思いますし、なんとかこれからも末長くおしゃべりができたらなと。「このオバチャン、まだしゃべってんのかい!」と言われるくらい、ラジオ臭たっぷりの存在になっていけたらなと思っているんです。

実際におっしゃった言葉です。そして、僕なりの願掛けとして、僕なりの祈りとして、僕なりの言霊として、この言葉を選びました。

そこからまた休みの期間がありつつ、また復帰して迎えた今春。4月19日に同じく毎日放送社員食堂で拙連載用のインタビューをさせてもらいました。

仕事に復帰する。このワードは非常にポジティブな響きを持ちます。ただ、何もかもクリアして戻ってきたわけではない。まだ闘病中であり、不安も大きい。またしても、そんな中で何を話せばいいのか。再び、迷いの中で言葉を探していくような取材となりました。

その中で繰り返してらっしゃったのが「感謝しかない」ということでした。

言葉にすると、ものすごく平べったくなってしまうんですけど、本当に、本当に感謝しかないんです。心の底から思っていることなんですけど、言葉にすると普通になっちゃうんですよね(笑)。でも、それが本当の気持ちなんです。でも、でも、文字になると面白くないですよね(笑)。ごめんなさい

記事をアップすると、すぐにお礼のメールが届きました。私信なので詳らかにすべきではないのかもしれませんが、ニュアンスとして以下のような内容でした。

読んだら自分のことなのに涙が出ました。あんな話しかできなかったのに、ここまでくみ取っていただきありがとうございます。

自分のことなのに読んで涙が出る。書き手冥利に尽きる言葉です。実に、うれしい言葉です。

ただ、それと同時に、そこまで心のひだが深く繊細になっている。ということは、どういうことなのか。

そこが気になりもしましたが根っこまで思いをやることができず、そこについてしっかりとお話をうかがうタイミングも胆力もないまま再度お休みに入られ、今を迎えてしまいました。悔いてどうなるものでもないし、お話をうかがってどうなるものでもないが、なんとも言えぬやりきれなさもあります。

この原稿を書くためにメールのやり取りを振り返りました。私が山本さんの番組を聴いて感じたことをお送りした6月5日のやり取りが最後になっています。

内容はまさにアホみたいなことで、山本さんのポップな絵文字でやり取りが終わっています。

アホみたいでもなく、ポップでもない現実があったはずです。でも、アホみたいで、ただただ面白いだけのメールを相手に返す。

自分の思慮のなさを悔いるとともに、もっと、こんな人とラジオをしてみたかった。その思いがただただ、ただただ、わき上がってきます。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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