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第二の「カメラを止めるな!」として注目。「侍タイムスリッパ―」に主演の山口馬木也が感じたヒットの予兆

中西正男芸能記者
主演作「侍タイムスリッパ―」が話題となっている山口馬木也さん(写真は事務所提供)

 8月17日に池袋シネマ・ロサだけで上映され、そこからSNSや口コミで話題となっている映画「侍タイムスリッパー」(安田淳一監督)。話題が話題を呼び、9月13日には全国50館以上で公開されました。カナダのファンタジア国際映画祭で観客賞金賞も受賞するなど、自主制作映画が大きなうねりを生み出す流れから第二の「カメラを止めるな!」とも言われていますが、主演の山口馬木也さん(51)が感じていたヒットの予兆。そして、背中を押した思いとは。

映画館で毎回拍手

 試写的な上映会で拍手が起こったとは聞いていたんです。

 ただ、関係者もたくさんいる中だし、誰かが意図的に拍手をして、それに乗せられての拍手ということも多分に考えられる。うれしいお話ではあるんですけど、話半分というか。疑り深いわけじゃないんですけど(笑)、それに安心してはいけないという思いもありました。

 でも、公開後も毎回映画館で拍手があると。自分の経験上、映画館で拍手が起きるなんてことは極めて珍しいことだと思っていたので「これは…」という気にもなってきたんです。

 さらに、カナダのファンタジア国際映画祭に出品され、僕も現地に行かせてもらったんですけど、上映中、常にお客さんが笑ってくださっているんです。すごく反応がいい。

 こちらがここで笑ってもらえたらと思っていたところで、しっかりと笑いが起こっている。海外でもこれだけ伝わっているんだったら、これは本当に皆さんに強く届いているのかもしれない。その思いがグッとわき上がってきました。

 宣伝広告費なしで、お客さんが作品を広めてくださり、大きなうねりも作っていただきました。9月13日以降、今決まっているだけで全国100館以上で順次上映していただくと聞いています。ただただ有難いという言葉しかありません。

虚と実

 オファーをいただいた時に監督からテーマとしていただいたのが「刀の重みを出す」ということで、そこに僕も感銘を受けましたし、何より、純粋に台本が面白かったんです。

 さらに、夜中の3時頃まで撮影をやって、4時、5時には監督がさっきまで撮影していた映像をササっと編集して送ってきてくださるんです。またそれが本当に映像としてきれいだし、よくできている。そんな熱が役者の側にも伝わり、みんなの気持ちがもう一つ上がったということはあったと思います。

 ただ、何ていうんでしょうね、仲良しこよしみたいな現場では全くなかったんです。これまでにないくらい、みんなが意見をぶつけ合う。ケンカと言っても言い過ぎじゃないくらいのトーンでぶつけ合う。そんな現場でした。正直な話。

 それだけみんながそれぞれの立場で「これは良い作品になる」と本気で感じていたからこそ「もっとこうするべきだ」が出てきたんだとも思います。もしそれが見てくださる方の面白さにつながっているならば、まさに幸いです。

 あと、これは僕個人の思いになるのかもしれませんが、この作品に自分のリアルなこれまでが込められていたという感覚もすごくあるんです。

 今も僕が役者を続けられているのは時代劇というものがあったから。これは確実に言えることです。

 京都の撮影所のプロ中のプロの方々から立ち回りを教わった。芝居というものはなかなか教われるものでないんですけど、立ち回りは学べる。プロに教えていただき、自分が鍛錬を重ねれば身につけることができる。

 そこがあったから、役者として声をかけてもらえた部分が大きかったですし、今回の撮影でもそういった先生たちが現場にいてくださったんです。

 役柄として立ち回りをしているんですけど、リアルな自分の背中をそういった方々に押していただいている。お芝居は虚というか、作ったものではあるんですけど、虚と実が行ったり来たりする空間だったなと今思うと感じますね。

 だからだったのか、これまでにないくらいナチュラルにその役として芝居の世界に入っていけた。皆さんと普通にしゃべって、普通にそこにいる。虚ではあるんだけど、実でもある。その感覚が知らず知らず、自分の中にあったのかもしれません。

 基本的に自分の作品はあまり見ない人間で、見たとしてもあくまでも客観的に芝居を確認するというほうなんですけど、この作品はいつも同じ場面で涙が出てくるんですよね。自分の芝居なのに。それだけ感情移入しているのか、そこに実があるからなのか。これは自分のことながら驚きました。

 作品がさらに話題になって忙しくなったらですか?少し前からゴルフに凝っていて、かなり通い詰めていて、そこの時間はなんとか守られていてほしい(笑)。そう思いはしますけど、作品が皆さんに愛される。これに勝ることはないですからね。

 映画を作るところまでこちら側の仕事ですけど、それを育てていただくのはお客さん。生まれた子がすくすくと育ってくれることを願うばかりです。

(撮影・中西正男)

■山口馬木也(やまぐち・まきや)

1973年2月14日生まれ。岡山県出身。京都精華大学洋画学科卒業。SHIN ENTERTAINMENT所属。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など多くの作品に出演。9月13日以降、全国100館以上で順次公開される話題の映画「侍タイムスリッパ―」(安田淳一監督)に主演している。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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