新公式球導入で極端な“投高打低”傾向に!シーズン打率はMLB史上最低レベルで推移
【開幕から1ヶ月が経過したMLB】
MLBの2022年シーズンが開幕してから、ほぼ1ヶ月が経過しようとしている。
新型コロナウイルスの影響で数試合が延期になるケースが発生しているが、開幕から有観客試合で実施される中、大きな混乱もなく連日ファンを盛り上げている。
中でも投打にわたる大谷翔平選手の活躍は、日本のみならず米国でも大きな関心事になっており、今後も彼が圧倒的なプレーを披露し続けるようならば、大谷フィーバーが巻き起こっても不思議ではないだろう。
【新公式球の影響で極端な投高打低に】
そうした大谷選手ら活躍が日々話題になる中で、実は今シーズンのMLBがかなり深刻な状況に陥っているのをご存じだろうか。
あくまでこの1ヶ月間のデータではあるのだが、ここまでMLB史上でも稀に見るレベルで“投高打低”傾向が続いているのだ。
本欄でも今年2月の時点で報告しているのだが、今シーズンからMLBが公式球を低反発球に切り替えている。ここ数年は本塁打量産傾向が続き、現場の選手たちから“飛ぶボール”疑惑が浮上していたが、MLBは各チームに送付した内部文書でその事実を認め、今シーズンから反発係数を下げた公式球の反発係数を下げたのだ。
すでにオープン戦から本塁打率が下がっており、新公式球の効果は顕著に表れていた。だがシーズンが開幕してみると、本塁打率ばかりでなく、ほとんどの打撃成績が一緒に下降してしまっているのだ。
【シーズン打率2割3分台は1968年以来】
まず今シーズンのリーグ全体の打撃成績を確認してみよう(資料元はすべて『BASEBALL REFERENCE.COM』)。
まず新公式球導入の経緯となった本塁打率だが、4月28日時点で1.15となっている。これは最多年間本塁打数を記録した2019年(1.39)から大幅に低下している。
ただし2010~2015年は1.00前後で推移していたので、極端に下がったというわけでもない。
参考までに紹介しておくと、本塁打1.15は、マーク・マグワイア選手やバリー・ボンズ選手の年間本塁打記録が注目され、本塁打量産傾向にあった2000年前後の本塁打率とほぼ同レベルだ。つまり本塁打率に関しては、ほぼMLBの狙い通りの低下だったはずだ。
ところが本塁打率ばかりでなく、打率まで低下してしまっているのだ。それも深刻なレベルにまでだ。
同じく4月28日時点の成績を見てみると、シーズン打率は.232となっている。
今回引用しているデータ専門サイトによれば、1872年から現在に至るため、シーズン打率が2割3分台だったシーズンは、1888年、1908年、1968年の3回しか存在していない。具体的にみると、1888年と1908年は.299で1968年は.237だった。今シーズンの.232がどれほど深刻なのか、一目瞭然だろう。
多少補足しておくと、ここ数年は飛ぶボール疑惑ばかりではなく、MLB内で“フライボール革命”が浸透し、本塁打量産傾向のみならず打率降下傾向にあったのは確かだ。それでも2019年は.252だったし、1972年(.244)以来の最低打率を記録した昨年でも.245だった。
やはり今シーズンの打率低下は、深刻なレベルだと考えていいだろう。
【低反発球に直接関係のない奪三振率も急上昇】
打率が低下するということは、他の打撃成績も連動して低下してしまう。
ここまでの出塁率.309は1968年(.299)以来の低さだし、長打率.390も2014年(.386)以来4割台を割り込んでいる。
さらに注目すべきことは、反発係数の変化による影響が出てこないはずの奪三振率が急上昇していることだ。
先日本欄でジェイコブ・デグロム投手に関する記事を公開し、今シーズンの奪三振率がMLB史上最高レベルで推移していると報告している。改めて説明させてもらうと、現時点での奪三振率は9.10となっており、MLB史上初めて9.00を超えてしまっている状況だ。
これについては新公式球との関連性は定かではないが、明白な投高打低傾向を示す指標の1つであることに変わりはない。
繰り返すが、これらのデータは開幕1ヶ月間のものでしかない。これから温かい季節を迎える中で、こうした傾向に変化が出てくるかもしれない。
だがこのまま極端な投高打低傾向が続くようなことになれば、MLBがマイナーリーグで試験導入予定のバッテリー間の距離延長が、決して夢物語で片づけられなくなりそうだ。