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コロナ禍の居酒屋が「ランチラーメン」で売上をつくる営業支援の仕組みとは?

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
ランチラーメンのプロデュースを行うテイクユーの「貝出汁」直営店。(筆者撮影)

コロナ禍で居酒屋がこれまでクローズしていたランチタイムを有効活用している。テイクアウト・デリバリーはその大きなトレンドであるが、これまで居酒屋営業の商品になかったラーメンを提供して売上をつくる事例が散見されるようなった。このトレンドは名付けて「ランチラーメン」である。

この立役者となっている会社は株式会社テイクユー(本社/東京都港区、代表/大澤武)。同社は東京都内にラーメン店15店舗、居酒屋5店舗を展開しているほか、「ステルスFC」によって全国に約100店舗のラーメン店を展開している。ステルスFCとは、決められた屋号ではなくオーナーが自由に店名を決めることができ、原材料の仕入れを本部から行うといった仕組みのFCである。

同社ではこのコロナ禍で、ランチタイムを有効活用するためのランチラーメンをプロデュースしてほしいという依頼が増えるようになり、この仕組みを応用してこれまで十数店舗の実績をつくった。現在の顧客の中には、立ち飲み居酒屋がランチラーメンを行いたいと考えていてテイクユーの仕組みを採用したという事例や、路面にある小さな物件で居酒屋を営んでいるがラーメン店としての可能性をテストするため、という事例もある。

テイクユープロデュースの貝出汁ランチラーメンのパターンは「チャーシュー2種類」「あさりご販」を提供している。麺の種類を選ぶこともできる。(「魚匠」提供)
テイクユープロデュースの貝出汁ランチラーメンのパターンは「チャーシュー2種類」「あさりご販」を提供している。麺の種類を選ぶこともできる。(「魚匠」提供)

「設備投資不要」「職人不要」の業態

同社がラーメン店を手掛けたのは2012年7月のこと。「鶏白湯」から始まり、「煮干し」が加わり、昨年の3月に「貝出汁」の直営店を出店した。また、ランチラーメンを導入した店が増えてきていることから、ステルスFCの各店舗とバッティングしないように、「担々麺」「二郎系」「濃厚豚骨」「博多豚骨」という具合にスープのレシピをストックするようになった。

同社がランチラーメンのプロデュースを初めて手掛けたのは5年程前、ランチ営業をしたいという居酒屋から相談を受けたことがきっかけであった。条件は「設備投資がない」ことだった。そこから「設備投資不要」「職人不要」という現在のラーメンプロデュースの仕組みが整っていった。基本的にはコンロが2台あれば十分という。テイクユーがメーカーにオーダーしたラーメンの麺、スープ、かえし、油は、メーカーが一括して加盟先にデリバリーを行っている。ランチラーメンを導入する店舗はラーメン職人が不在だが、メーカーではスープを大量につくるラーメン職人が存在する。

居酒屋がランチラーメンを手掛けるためのポイントについて大澤氏はこう語る。

「本来の居酒屋営業とのストーリー性が重要です。鮮魚の居酒屋を営んでいるところが担々麺を売っても売れません。当社が新しく考えて貝出汁がふさわしい。これは本来の営業と『魚介類』ということで一貫性があるからです。担々麺を出すのであれば、小籠包の店がふさわしい。大衆食堂には煮干しラーメンが向いています」

ランチラーメンの魅力は「提供時間が短い」「回転率が速い」「老若男女とターゲットが広い」「客単価が950円前後と比較的に高い」ことが挙げられるが、これまで「茹で麺機などの設備投資が必要」「スープを仕込むことに時間がかかる」「売るためのノウハウを持っていない」「ラーメン専門店に勝つ自信がない」ということが課題となっていた。テイクユーではこれらの要素を一つ一つ解決していくことによって、自店の売上オンや業態転換の可能性を模索する経営者から注目されるようになった。

以下に、テイクユーのラーメンプロデュースによって新たな売上をつくっている二つの事例を紹介しよう。

立ち飲み居酒屋でランチに定番化

東京メトロ東西線・神楽坂駅から徒歩2分、出版社の新潮社ビルの斜め向かいで、立ち飲み居酒屋「魚匠」では1月5日からテイクユーのラーメンプロデュースを導入している。導入前までは16時から22時営業としていたが、1月5日からは11時45分から14時までランチラーメンを営業、16時から22時まで立ち飲み営業としていたが、緊急事態宣言の1月8日からは20時終了として継続している。

「魚匠」ではランチラーメン用の暖簾と立て看板によって「専門店」であることをアピールしている。(「魚匠」提供)
「魚匠」ではランチラーメン用の暖簾と立て看板によって「専門店」であることをアピールしている。(「魚匠」提供)

同店を経営する株式会社ロスジェネ・マネジメント代表の長谷川勉氏は、これまで飲食店のコンサルタントとして活動、また17年前のつけ麺ブームの際には1日に700杯を売るつけ麺業態を営むなど実績を積んできた。「魚匠」をオープンしたのは2020年7月のこと、10坪強、立ち飲みはマックスで25人収容とういう規模、長谷川氏はかねがねランチラーメンを導入したいと考えていたところ、12月にテイクユー代表の大澤武氏と知り合った。ラーメンビジネスのことを話し合うにつれて意気投合、ラーメンの食材すべてワンストップで供給するテイクユーに依頼した。

長谷川氏はテイクユーの商品をいろいろと試食した結果、スープは貝出汁、麺は平打ち麺とした。同社料理長の笠原章太氏と研究を重ね、かえしとチャーシューの一部は同店でつくるようにしてオリジナルな貝出汁ラーメンをつくり上げた。

ランチラーメンの告知は現状SNSのみで1日20食以上(客単価950円)となっている。一人で来店する女性客も定着してきていて、これからは販促を拡大して二毛作を定番化していくという。

「魚匠」のランチラーメンのメニュー表。スープはテイクユーから納品されるものに自店でつくったものを合わせてオリジナリティをつくるパターンが多い。(筆者撮影)
「魚匠」のランチラーメンのメニュー表。スープはテイクユーから納品されるものに自店でつくったものを合わせてオリジナリティをつくるパターンが多い。(筆者撮影)

ドミナント4店舗のうち1店舗を転換

有限会社珈琲新鮮館(本社/神奈川県相模原市、代表/沼田慎一郎)では、東京の飲食店街である新宿三丁目に居酒屋を4店舗擁しているが、そのうちの1店舗をテイクユーのラーメンプロデュースによってラーメン店に業態転換を行った。こちらはランチラーメンではなく、11時30分~20時までの全時間帯でラーメン店を営んでいる。

同社の新宿三丁目の旗艦店は「もつ煮込み専門店 沼田」、その隣に2017年に6.5坪、9席の物件を取得して「もつ煮込み専門店沼田 はなれ」(以下、はなれ)として営業してきた。

コロナ禍の1回目の緊急事態宣言では新宿三丁目はゴーストタウンとなり、その後少しずつ顧客の数は回復してきたもののコロナ第三波で再び町は沈むようになった。

同社では本拠地となる神奈川・相模原地区にカフェや食事中心の店舗を展開していて、これらはコロナ禍による売上の落ち込みが一様に軽微で、中でもラーメン店の「麵屋沼田」では平常時の売上に対し8割、9割で推移していた。

1月8日から二回目の緊急事態宣言が発出され、新宿三丁目の4店舗の居酒屋は20時まで営業することになった。そこで、新宿三丁目の4店舗のうちラーメン店のオペレーションに向いている「はなれ」を「貝出汁中華そば 貝香屋」(かいかや)という店名に切り替え、看板も新しくつくり、1月16日よりラーメン店の営業を開始した。商品は「醤油そば」「塩そば」「味噌そば」「辛味噌そば」「まぜそば」(850~900円、税込)で、それぞれ「味玉」「特製」も用意。「あさりの炊き込みご飯」(200円、小150円)の他に各種トッピングもある。同社では前述の通りラーメン店を擁していることから従業員はジョブローテーションでラーメンのオペレーションを経験していて、居酒屋からの転換はスムーズに行われた。

「貝香屋」の「塩そば」850円。貝出汁はお酒を飲んだ後の〆のラーメンにもふさわしく、これから人気が高まる気配がある。(筆者撮影)
「貝香屋」の「塩そば」850円。貝出汁はお酒を飲んだ後の〆のラーメンにもふさわしく、これから人気が高まる気配がある。(筆者撮影)

SNSでバズり注目される

そして、開店5日を経過して突然バズった。

そのポイントは、店頭にテイクユーの直営店である「貝出汁らぁ麺 虎武」から贈呈された花を飾り、同店と関連性があることをラーメンファンに向けてそこはかとなくアピールしたこと。これによってSNSでこれに関連した書き込みがにわかに増えていった。また、同店が「もつ煮込み専門店 沼田」の姉妹店であることも知られるようになり、「煮込みがおいしい沼田のラーメンだから、おいしいに決まっている」といった好意的な書き込みがあった。

こうして前述の営業体制で日商10万円を超えたこともあり、現在も7万円を下回ることなく営業を継続している。

「貝香屋」は「貝出汁」でラーメンファンに注目を浴びた「虎武」と関連がある店ということをそこはかとなくアピールしたことが、バズるきっかけとなった。(筆者撮影)
「貝香屋」は「貝出汁」でラーメンファンに注目を浴びた「虎武」と関連がある店ということをそこはかとなくアピールしたことが、バズるきっかけとなった。(筆者撮影)

同社ではこの2月3月にも新規出店を行っている。またこの「貝香屋」を店舗展開できる業態に育てていきたいと考えている。コロナ禍にあっても前向きな経営姿勢で確実に地場を固めている。

さて現在、テイクユーでは居酒屋からのランチラーメンの相談案件が増えて来ていているという。コロナ禍は飲食業界に「テイクアウト」「デリバリー」「ゴーストレストラン」という新しいキャッシュポイントをもたらしているが、ランチラーメンもこれらと同様の可能性を生み出している。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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