バルサが3トップに固執する理由。メッシ、スアレス、ネイマールの抜けた穴と「717億円」の代償。
スタイルを模索する日々が、続いている。
バルセロナは今季途中に監督交代を断行した。成績不振でロナルド・クーマン前監督を解任して、シャビ・エルナンデス監督を招聘。シャビ監督の就任後、チームを立て直してリーガエスパニョーラで9位から4位まで順位を上げている。
ジョアン・ラポルタ会長がシャビ監督を呼んだ理由のひとつは、哲学とプレースタイルの「奪還」にある。
シャビ監督は【4−3−3】と【3−4−3】を使い分けながら戦ってきた。一貫してきたのは、3トップで攻撃的にいくという点だ。
■バルセロナの3トップ
ロマーリオ、ミカエル・ラウドルップ、フリスト・ストイチコフ(ヨハン・クライフ監督時代)に始まり、ダビド・ビジャ、リオネル・メッシ、ペドロ・ロドリゲス(ペップ・グアルディオラ監督時代)まで、3トップはバルセロニスタに歓喜を届けてきた。
なかでも、強烈なインパクトを残したのが「MSN」である。メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの3選手は2014−15シーズンから2016−17シーズンまでバルセロナの攻撃を牽引した。14−15シーズンには、チャンピオンズリーグ、コパ・デル・レイ、リーガの3冠を達成している。
だが「MSN」の解体の日は突如として訪れた。
2017年夏、ネイマールがパリ・サンジェルマン移籍を決断した。メッシの2番手というポジションが嫌だった。より高額なサラリーを求めていた。様々な憶測が飛び交ったが、その真相は定かではない。しかしながら契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)という「置き土産」を残して、ネイマールの移籍が決まった。
そこから、バルセロナは迷走した。
4シーズンで、3トップ形成のために5億5200万ユーロ(約717億円)が投じられている。
ウスマン・デンベレ(移籍金1億4000万ユーロ)、フィリペ・コウチーニョ(1億3500万ユーロ)、ジェラール・デウロフェウ(1200万ユーロ)を皮切りに、前線の補強が次々に敢行された。
マウコム(4100万ユーロ)、ケヴィン・プリンス・ボアテング(レンタル)、アントワーヌ・グリーズマン(1億2000万ユーロ)、マルティン・ブライスワイト(1800万ユーロ)、フランシスコ・トリンカオ(3100万ユーロ)…。エルネスト・バルベルデ監督、キケ・セティエン監督、クーマン監督の下で新戦力が到着した。
■グアルディオラとルイス・エンリケの相違点
グアルディオラ監督の指揮下では、ファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)が発明された。
これは従来の3トップと異なる点だった。CFの位置にメッシが入り、両ウィングの選手が斜めのランニングでゴール前に飛び込む。メッシに自由を与え、なおかつ効果的に得点を奪う形が出来上がった。
一方で、「MSN」は、よりカウンターに傾倒していた。
「我々はルイス・スアレスの獲得を決断した。3人のクラックを獲得することをね。かつて、クライフが『鶏は同じ敷地に1羽だけだ』という言葉を残していたと思う。だが我々は3人を同じチームに入れた。ネイマールやメッシの関係性が不安視されたが、彼らはうまくやっていた」とはルイス・エンリケ監督の言葉だ。
「獲得したタイトル以上に、どのように勝ち取ったかにフォーカスしたい。自分を擁護するような真似はしないよ。状況に応じて、その時のベストのフットボールを求めてきた。私はダイレクトなプレーを好み、アイデンティティーを見つけるためには攻撃が鍵になると考えている。最高のスタイルを確立したのはグアルディオラだ。グアルディオラのバルセロナを評価しないというのは、盲目的だ。あれはもはやアートだった」
ルイス・エンリケ監督は、ペップとは違うスタイルを探していたのだ。
バルセロナは今冬の移籍市場において移籍金5500万ユーロでフェラン・トーレスを、買い取りオプション付きのレンタルでアダマ・トラオレを、フリートランスファーでピエール=エメリク・オーバメヤンを獲得している。
シャビ監督の計画が狂ったのは、アンス・ファティが負傷離脱した辺りだろう。技術、突破力、インテリジェント、決定力を兼ね備えるファティの存在は、指揮官に大きなプラスになるはずだった。“新たなメッシ”になる可能性を秘めた選手だが、度重なる負傷に苦しめられている。
先の試合で見せたように、フェラン・トーレスを偽9番的に、アダマを純粋なウィングで使うという起用法からは、シャビ監督の思考、ひいてはバルセロナのフィロソフィーが見て取れる。さらに、ガビを左ウィングに据えるのは、ペップがアンドレス・イニエスタをそのポジションで起用していたのと似ている。
無論、シャビ監督は自身の答えを見つけなければいけない。ルイス・エンリケが、ペップの踏襲を好まなかったように。「MSN」の抜けた穴を埋める鍵は、そこにあるのかもしれない。