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アトピー性皮膚炎に植物由来成分は効くのか?エビデンスと限界を解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎に効果が期待される植物由来成分とその限界】

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下や免疫異常などが原因で起こる慢性の炎症性皮膚疾患です。かゆみを伴う湿疹が特徴的で、患者さんのQOLを大きく低下させます。ステロイド外用薬などが治療の中心ですが、長期使用による副作用が問題となっています。

最近、ブドウ種子エキスやオリーブ油、アロエベラなどの植物由来成分に注目が集まっています。これらの成分には抗炎症作用や抗酸化作用があるとの報告がありますが、エビデンスレベルはまだ十分とは言えません。また、アロエベラなどの一部の成分では、かぶれなどの副作用を引き起こすリスクもあります。

甘草やカモミールなどのハーブエキスにも、皮膚の炎症を抑える効果が期待されていますが、やはりエビデンスは限定的です。インド蓼(タデ)由来のインジルビンは皮膚のバリア機能を高める可能性が示唆されていますが、臨床試験のデータはまだ不足しています。

【ナノテクノロジーを応用した植物由来成分の新たな剤形の可能性と課題】

植物由来の有効成分を皮膚に浸透させるために、ナノテクノロジーを応用したリポソームやエトソーム、ナノエマルションなどの製剤が開発されています。これらの剤形は、有効成分を効率よく皮膚に届けることができる可能性がありますが、安全性や長期的な効果については更なる検証が必要です。

茶葉由来の成分を含むエトソームクリームやオリーブ油とアロエベラを組み合わせたナノエマルションの有効性を示唆する報告もありますが、まだ十分なエビデンスがあるとは言えません。また、ナノ製剤の安全性についても、長期的な影響を含めて慎重に評価する必要があります。

現時点では、植物由来成分を用いた治療法は、標準的な治療と比べてエビデンスが乏しく、効果を期待しにくいと言わざるを得ません。また、副作用のリスクもゼロではありません。ナノテクノロジーを応用した剤形についても、さらなる研究が必要です。

【まとめ:標準治療が依然として第一選択、植物療法は補完的な位置づけ】

アトピー性皮膚炎の治療において、植物由来の有効成分に一定の可能性が示唆されているものの、現時点ではエビデンスが不十分であり、標準的な治療法が依然として第一選択となります。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの既存の治療法は、効果が確立しており、副作用のマネジメントも比較的確立しています。

一方で、植物療法はあくまで補完的な位置づけにとどまるべきでしょう。効果が限定的である上に、副作用のリスクもゼロではありません。ナノテクノロジーを応用した新たな剤形についても、安全性と有効性のエビデンスを慎重に見極める必要があります。

アトピー性皮膚炎の患者さんは、標準的な治療を受けながら、医師との相談の上で植物療法を補完的に用いることを検討しても良いかもしれません。ただし、植物由来成分の効果と安全性について、過度な期待は禁物です。今後のさらなる研究の積み重ねが望まれます。

参考文献:

- Radhakrishnan, J., et al. (2024). Recent Advances in Phytochemical-Based Topical Applications for the Management of Eczema: A Review. Int. J. Mol. Sci., 25(10), 5375. https://doi.org/10.3390/ijms25105375

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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