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MVP大谷翔平が書き残していた「2度目の達成」

佐々木亨スポーツライター
高校時代の大谷翔平選手。(著者撮影)

 また一つ、野球人生に大きな灯火が加わった。

 日本時間11月17日、全米野球記者協会(BBWAA)に所属する30人の記者投票で、大谷翔平の2021年以来となるア・リーグMVP(最優秀選手)が決まった。

 大谷とともに最終候補に残っていたのは、マーカス・セミエンとコーリー・シーガー。球団史上初となるワールドシリーズ制覇に貢献したレンジャーズの二遊間コンビだ。MVPは、レギュラーシーズンの成績が評価対象となるため、ポストシーズンでの活躍は選出に加味されない。レギュラーシーズンでのセミエンは162試合に出場して打率.276、29本塁打、100打点、ア・リーグ最多安打となる185安打を記録。シーガーは119試合に出場して打率.327、33本塁打、96打点、OPS(出塁率と長打率を足し合わせた値)は1.013とハイレベルな数字を残した。

 その両者を押しのけて、大谷はMVPに輝いたのだ。大谷の2023年シーズンを振り返ると、投手では23試合に先発、132イニングを投げて10勝5敗、防御率3.14、奪三振は167を数えた。打者では打率.304、95打点、OPSはリーグトップの1.066、そして、44本塁打を放って日本選手初となるメジャーリーグでの本塁打王に輝いた。投打それぞれに残した成績はどれも高水準だ。それを同一シーズンでいっぺんに記録するのだから、ハイクオリティなパフォーマンスだったことは言うまでもない。現代野球における大谷の二刀流は異次元そのもので、その価値の大きさはMVP獲得で改めて示されたと言えるだろう。

18歳の大谷が書いた人生のスケジュール表によれば……

 大谷にとってのア・リーグMVPは「2度目の達成」となるわけだが、それは日本選手初の快挙である。しかも、2021年に続く満票での選出。長い歴史を誇るメジャーリーグにおいても2度目の満票選出は史上初で、またしても歴史の扉をこじ開けたのだ。数十年前なら想像し得なかった世界、まさに新たな風景を大谷は我々に見せ続けてくれるのだが、思えば花巻東高校時代、18歳の彼には大きな光を放つ未来がすでに見えていただろうか。

 高校3年生当時、大谷が書き残した「人生のスケジュール表」。その29歳の欄にはこう記されている。

「ノーヒットノーラン 2度目の達成」

 高校時代の大谷は、投手としての未来を見つめていた。

 たとえば、24歳の欄に「ノーヒットノーラン達成 25勝」、30歳の欄に「日本人最多勝利」、36歳の欄に「奪三振数記録達成」と書いたように、彼は「ピッチャー・大谷」としての歩みを想像して、その可能性を追い求めようとしていた。

 もちろん、今でもその思考は変わらないのだろう。バッターでありながら、ピッチャーとしての進化も追求する。かつて大谷が残した言葉を思い出す。

「ピッチングとバッティングをしていたら、楽しいことがいっぱいありますからね。そこは両方をやっていてプラスですよね。ピッチャーだけをしていたら、ピッチングでしか経験できない発見があるわけですけど、ピッチングをやってバッティングもしていれば『楽しい瞬間』はいっぱいあるんです。そういう瞬間が訪れるたびに、投打両方をやっていて『よかったなあ』と思うんじゃないですか」

 純粋に野球を楽しむ。11年前に思い描いた青写真とは異なるが、二刀流として歴史を塗り替えていく大谷は、29歳の今シーズン、かつてイメージしていたノーヒットノーランをMVPという形に変えて「2度目の達成」を実現した。メジャー6年目、20代最後のシーズンに手にした称号は、二刀流として挑み続ける大谷の価値、そこにある歴史的な歩みを再認識させてくれるものだったと言える。

スポーツライター

1974年岩手県生まれ。雑誌編集者を経て独立。著書に『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(扶桑社)、『あきらめない街、石巻 その力に俺たちはなる』(ベースボール・マガジン社)など、共著に『横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)などがある。主に野球をフィールドに活動するなかで、大谷翔平選手の取材を花巻東高校時代の15歳から続ける。

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