ウェブ漫画のベストセラー作家ユン・テホが明かす「作品作りの3つの鉄則」
手がけた数々の作品が映画化・ドラマ化され、韓国でも屈指の人気作家として知られるユン・テホ。
韓国の人気漫画『食客』を描いたホ・ヨンマンの門下生として漫画を学び、1993年に月刊漫画雑誌でデビューを飾った彼は、2008年頃に紙媒体からウェブ媒体に転身。映画『黒く濁る村』の原作となる『イキ』で一躍注目を浴びた。
その後『内部者たち』『未生 ミセン』『仁川上陸作戦』など、発表したすべての作品が大ヒット。まるで水を得た魚のようにウェブ漫画界の第一線で活躍し続けている。
紙媒体ではなくウェブに身を置く立場にある彼が感じるウェブ漫画の魅力は何か。
「韓国で漫画の仕事をしようとする場合、昔は門下生時代を10年以上経てデビューするというのが定番のコースでした。
漫画家の発表の場となったのは少年漫画誌です。読者である子供たちは、大人が考えたギャグやストーリーを面白いと受け入れていました。ただ、当然のように読者たちも歳を取る。漫画好きの30〜40代は年齢にそぐわない少年漫画をずっと読んでいたわけです。
しかし、今は違う。例えば、僕の『未生 ミセン』の場合、30〜50代といった僕の同年代の読者が多くて読者と作家、そして作品が一緒に歳をとっていく感じでした。
現在、韓国で公式的に集計されたウェブ漫画家は4000人以上と言われていますが、ウェブ漫画の登場で、読者たちの作品の選択の幅が広がり、作家と読者の距離が近くなった。これはウェブ漫画ならではの魅力だと思います」
韓国ではウェブ漫画が主流になるにつれ、ウェブ漫画家の人気も高まった。「もはや芸能人です」と、ユン・テホは言う。
「ウェブ漫画家の中には、タレントやユーチューバーとして活躍する人もいます。昔は“漫画家は漫画さえ上手く描けば良い”という雰囲気でしたが、今はやりたいことは全部やれる時代ですし、手がけた作品がヒットすると、それこそ紙媒体とはケタ違いのお金も手に入る。
ファンも好きな作家がいれば媒体を選ばずフォローするので、ウェブ漫画家の影響力はとても大きく、話題にあがることも増えてきました」
作品ではなく、ウェブ漫画家が話題の人物としてニュースになることは確かにある。今年3月にも、ウェブ漫画家ヤオンイが、自身の連載1周年を迎えて顔写真を公開しただけで、そのニュースがポータルサイトのリアルタイム検索ワードランキングの上位になったこともある。
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そんな人気ウェブ漫画家たちが生み出すコンテンツは、インターネット上で毎日更新され、消費されている。そのペースは紙媒体時代とは比べものにならないほどのハイペース。
ユン・テホによると、「毎週から隔週連載に変わった途端、読者から忘れ去られるほど」というが、そんなタイトな制作スケジュールの中で彼が最初に大事にしているものは何か。
「第一に、テーマです。作品テーマを明確にしないと、進めるうちに脇道にそれてしまうから。たとえ作品作りのきっかけが抽象的なものだとしても、テーマというのは文章化して机の前に貼れるほど具体的でなければいけません。
2つ目はタイトルですね。“僕は〇〇という名前の作品を準備している”と人に言えたときから、本当の作品作りが始まる気がします」
最も重要な3つ目は、「キャラクター」だという。
「漫画はやはり、人間の物語なんです。まったく人間が登場しない作品だとしても、そこで繰り広げられるのは人間に関する物語のはずです。
また、現実的にも作家は誰かに見せるために漫画を描いているわけですから、人間に対する研究がもっとも重要だと思っています」
そのため、ユン・テホは作品作りにあたって“キャラクターたちの年譜”を作成するという。
「キャラクターが何歳の時、韓国ではどんな事件が起きたのか、そんなことを書いていくとキャラクターの体格や性格、口癖、ジェスチャー、情緒などの輪郭が整って、その人物像が決まっていてきます。これは漫画作りの基本ですね。そしてキャラクターが表情や動作だけでは表現しきれないことを、セリフが担うわけです。
物語を進める中でキャラクターたちが行う言動のつじつまが合うためには、作家自身が誰よりもキャラクターについて詳しく知っていなければなりませんから」