井岡一翔は比類なき王者になれるか。中谷潤人、エストラーダ…混戦の熱きS・フライ級戦線
挑戦者で臨むフランコ再戦
WBO世界スーパーフライ級王座を返上した井岡一翔(志成)が同級WBA王者ジョシュア・フランコ(米)とダイレクトリマッチを行う運びになった。スケジュールは6月24日、東京大田区体育館。井岡とフランコは昨年大みそかに同会場でグローブを交え、ドローで決着が付かなかった。ひとまずベルトは守った井岡だが、WBOから1位にランクされた前WBO世界フライ級王者中谷潤人(M.T)との指名試合を通達されていた。
4階級制覇王者の井岡(29勝15KO2敗1分)はスーパーフライ級で4団体統一王者を大義名分に掲げる。一度獲得し防衛していた王座を返上して挑戦者の立場になることは回り道となる。しかし目標は比類なきチャンピオンであることに変わりない。ファンもフランコとのすっきりしたエンディングを期待している。ただ中谷との日本人対決を見送ったのは、現時点でフランコの方が与しやすいと踏んだからではないだろうか。
だが初戦で井岡を終盤、大いに苦しめたフランコ(18勝8KO1敗3分1無効試合)は勝利が保証された相手ではない。井岡本人も「間違いなく楽な試合にはならない。むしろ前回よりも厳しい展開だったり、きつい攻防になると思うので、覚悟を持って挑まなくてはならない」と気持ちを奮い立たせる。
ビッグステージで2階級制覇ねらう
一方、井岡からリスペクトされたかたちの中谷(24勝18KO無敗)は井岡が返上したタイトルをWBO2位アンドリュー・マロニー(豪州)と争う。この一戦は5月20日、ラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで開催されるデビン・ヘイニー(米)vsワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)のライト級4団体統一戦のセミファイナル格でゴングが鳴る。前バンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)に挑戦したジェイソン・マロニーの双生児兄弟の弟アンドリュー(25勝16KO2敗1無効試合)は、フランコと3度対戦し2敗1無効試合。第1戦でWBA王座を失い、再戦はフランコの右目の負傷が「ヘッドバットによるもの」と判断されて不運な無効試合。そして第3戦で明白な判定負けを喫した。
私は「ネクスト・モンスター」とも呼ばれる中谷が大舞台で力を発揮し、中差から小差の判定勝利を得ると予想する。同時にストップ勝ちやインパクト十分のパフォーマンスを披露することは今後のビッグマッチ実現につながる。2階級制覇に成功すれば、中谷の目標も4団体統一王者に違いない。
帝王エストラーダはどう動く?
現在、スーパーフライ級の第一人者は“ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との三部作に勝ち越した、WBC王者フアン・フランシスコ“ガジョ”エストラーダ(メキシコ)だと見なされる。エストラーダ(44勝28KO3敗)は来日して井岡vsフランコをリングサイドで観戦。彼も目標は「スーパーフライ級の比類なきチャンピオンに就くこと」と宣言しているだけに、6月の再戦の勝者と対戦する可能性は少なくない。
井岡は常々、「エストラーダを引き出せれば……」と将来の展望を語っている。ファンの願いも同様だろう。そのためにフランコにはどうしても勝たねばならない。2020年の大みそかに対戦し、大きな注目を集めた田中恒成(畑中)戦のようなパフォーマンスを期待したくなる。
その田中(18勝10KO1敗)は4団体すべてで上位にランキングされ、現在WBCでは3位。彼も重要なキャストの一人だ。WBC1位はロマゴン、2位が日本で八重樫東、木村悠と対戦したペドロ・ゲバラ(メキシコ)。ニカラグアのメディア「ラ・プレンサ」によると、WBCはロマゴンvsゲバラの挑戦者決定戦をオーダーしたと言われるが、ロマゴン(51勝41KO4敗)は応じるかどうか検討中だという。同メディアは「チョコラティート(ロマゴン)はあと2,3試合でグローブを脱ぐ用意がある。だからビッグファイトを熱望している」と伝える。
ロマゴンと激闘を繰り広げたエストラーダは、しばらくオフを満喫している様子だ。次戦に向けて始動した様子はうかがえない。今、売り手市場と言っていいだろう。こちらも多額のファイトマネーが見込めるビッグマッチ優先の姿勢を貫く。ロマゴン第2戦で100万ドル(約1億3000万円)稼いだといわれるエストラーダ。次にそれ以上稼げる相手は井岡、中谷、そしてフランコの実弟、WBO世界フライ級王者“バム”ことジェシー・ロドリゲス(米)の3人に絞られるのではないか。調整試合を行うことはあるかもしれないが、統一戦のような重要な試合は、それなりの時間を置くと推測される。
“バム”ロドリゲスの復帰も焦点に
そう、井岡がフランコに勝っても、エストラーダがすんなりと対戦に応じるかわからない。対戦交渉は難航するかもしれない。他方でWBO王者に就いた中谷がその後、防衛戦で卓越したパフォーマンスを披露してもエストラーダは体格で勝る中谷との対戦を拒否することもあり得る。以前からエストラーダには身長、リーチで有利な相手との対戦を苦手にする傾向が見られる。可能性としてエストラーダvs井岡の方がエストラーダvs中谷より大きいのではないだろうか。
そしてフライ級で逆2階級制覇を果たした“バム”ロドリゲス(18勝11KO無敗)がスーパーフライ級に戻ってくれば、マッチメイクのバラエティーさが増す。そしてロドリゲス絡みの試合は米国で開催されるだろう。今月上旬に行われたフライ級王座獲得戦で、アゴを骨折するアクシデントに見舞われたロドリゲスがいつ回復してリングに復帰するかも焦点となる。
もう一人、IBFスーパーフライ級王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)は、6月24日に指名挑戦者ジェイド・ボルネア(フィリピン)と防衛戦を行う予定。前王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)から王座を奪取、再戦で返り討ちにしたマルティネスは試合間隔が開き、やや気勢をそがれた印象もするが、ダークホース的な雰囲気を漂わせながら再度サプライズを目指す。
日本人対決の日は訪れるのか?
マルティネスにはロマゴンが食指を動かしているとも言われる。エストラーダとの第4戦もオプションにあると噂されるロマゴンだが、条件は「タイトルを保持すること」。王座統一戦でないとエストラーダ側はオーケーしない。マルティネスにしてもビッグネームのロマゴンを下せば広く名前を売ることができる。マルティネスが知名度を上げれば、締結する可能性が広がるだろう。
整理すると、WBAとWBC王座は統一に向かう期待が膨らむが、WBOとIBFの方はいまのところ未知数。4ベルトが統一されるまで紆余曲折が予想され、残念ながら実現しないこともあるだろう。
それでも井岡にしろエストラーダにしろ、このクラスのトップは「アンディスピューテッド」(比類なき)に強い憧れを持つ。そこに中谷が、ロドリゲスらが参戦しファンの胸を躍らせる戦いが繰り広げられる――そんな未来が待望される。いや、アッと驚くような新鋭が台頭してくることだって予測可能。いずれ井岡と中谷が雌雄を決する日が訪れるのか。それぞれのプロモーターの尽力に期待しながら待つことにしよう。