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【なぜ仮面ライダーはみんなの夢を守るのか?】放送20周年仮面ライダー555で描かれた夢の物語とは?

二重作昌満博士(文学)/PhD(literature)

みなさま、こんにちは!

文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。

ゴールデンウィークまっただ中ですが、皆さまいかがお過ごしですか?

さて、今回のテーマは「555(ファイズ)」です。

「5月だから『5』?」

・・・と言われますと、そのとおりです(図星)。

というのも、せっかく5月に入ったのだから、「5」に縁のある特撮ヒーローのお話をしたいなと思って、本記事を書くことと致しました。

今回焦点を当てるのは、『仮面ライダー555(ファイズ)』。

東映制作の国民的特撮ヒーロー番組である「仮面ライダーシリーズ」の1作品であり、『仮面ライダークウガ(2000)』を起点とする平成仮面ライダーシリーズの第4作でした。

2023年にテレビ放送20周年を迎え、今年(2024年)2月には、20周年を記念した新作映画が公開される等、放送当時のファンだけでなく、新世代のファンにも高い支持を誇る平成仮面ライダーシリーズの名作。

今回はそんな魅力いっぱいの『仮面ライダー555(2003)』で描かれた、夢の物語に焦点を当てていきたいと思います。

※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたら幸いです。

【少し振り返る仮面ライダーシリーズの歴史】お約束からの脱却!新ヒーロー像を確立した平成仮面ライダーシリーズの魅力とは?

さてさて、本記事ではこれより仮面ライダー555のお話に入っていきますが・・・少しだけ、仮面ライダーシリーズについてご紹介をさせてください。

『仮面ライダー(1971)』より仮面ライダー1号(写真左)と仮面ライダー2号(写真右)。彼らは元々敵対する悪の組織「ショッカー」の科学力で生まれた存在で、人間でなくなってしまった悲劇性を抱えていた。
『仮面ライダー(1971)』より仮面ライダー1号(写真左)と仮面ライダー2号(写真右)。彼らは元々敵対する悪の組織「ショッカー」の科学力で生まれた存在で、人間でなくなってしまった悲劇性を抱えていた。

仮面ライダーは、漫画家・石ノ森章太郎先生の原作で生み出された特撮ヒーローのことです。1971年にシリーズ第1作『仮面ライダー(1971)』の放送が開始され、主人公が悪の秘密結社ショッカーによって改造手術を施されて、バッタの能力を持った大自然の使者・仮面ライダーとなり、人間の自由と世界の平和を守るため、毎週ショッカーが送り込む恐ろしい怪人と戦う物語が展開されました。

その結果、『仮面ライダー(1971)』は国内で社会現象的な大ヒットを巻き起こすことになりました。その後、次回作『仮面ライダーV3(1973)』や『仮面ライダーBLACK RX(1988)』等の派生作品が次々に放送され、昭和の仮面ライダーシリーズとして定着していくことになります。

昭和にテレビ放送された仮面ライダーシリーズとしては実質最後の作品となったのが、『仮面ライダーBLACK RX(1988)』。本作では歴代の仮面ライダーが全員集合する集大成的な作品であった。
昭和にテレビ放送された仮面ライダーシリーズとしては実質最後の作品となったのが、『仮面ライダーBLACK RX(1988)』。本作では歴代の仮面ライダーが全員集合する集大成的な作品であった。

そして時代が昭和から「平成」に変わると、平成仮面ライダーシリーズの放送が開始されました。その第1作となったのが『仮面ライダークウガ(2000)』であり、本作で試みられたのが、仮面ライダーシリーズにおける「既成概念の破壊」でした。

平成という新たな時代に蘇った仮面ライダーは、超古代の力を宿した戦士だった。仮面ライダークウガは世界の平和ではなく、みんなの笑顔を守るという強い意志で、殺戮を楽しむ集団グロンギと戦った。
平成という新たな時代に蘇った仮面ライダーは、超古代の力を宿した戦士だった。仮面ライダークウガは世界の平和ではなく、みんなの笑顔を守るという強い意志で、殺戮を楽しむ集団グロンギと戦った。

つまり「仮面ライダー=改造人間」、「仮面ライダー対悪の秘密結社」、「奇声を放つ戦闘員の集団と、それを率いる悪の怪人」といった、昭和の仮面ライダーシリーズで定着していた概念、いわば「お約束」を破壊し、平成という時代に適合した新たな仮面ライダーを創造しようとしていたのです。

『仮面ライダークウガ(2000)』において、クウガと敵対する戦闘民族「グロンギ」。古代に封印されたが現代に蘇った。殺害した人間の数で位を競い合う階級性であり、ショッカーのような戦闘員は存在しない。
『仮面ライダークウガ(2000)』において、クウガと敵対する戦闘民族「グロンギ」。古代に封印されたが現代に蘇った。殺害した人間の数で位を競い合う階級性であり、ショッカーのような戦闘員は存在しない。

その結果、『仮面ライダークウガ(2000)』は、主人公(五代雄介)が古代遺跡から発掘されたアークル(変身ベルト)を身に宿して変身する仮面ライダークウガが、警察組織と共に、古代の封印から解かれた戦闘民族(グロンギ怪人)相手に「みんなの笑顔を守る」ために戦う物語が描かれました。

これまでの仮面ライダーシリーズの既成概念を破壊する、全く新しい世界観で好評を得た『仮面ライダークウガ(2000)』に続き、シリーズのバトンは次回作『仮面ライダーアギト(2001)』、さらに『仮面ライダー龍騎(2002)』と継承されました。

『アギト』において、仮面ライダーG3(写真右2体)は警部補の人間がアーマーを装着して戦う。「ただの人間」が戦う姿が魅力である彼の他に、自衛隊で完成されたG4も存在するが装着者を蝕む危険なシステムだった
『アギト』において、仮面ライダーG3(写真右2体)は警部補の人間がアーマーを装着して戦う。「ただの人間」が戦う姿が魅力である彼の他に、自衛隊で完成されたG4も存在するが装着者を蝕む危険なシステムだった

平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』では、「戦わなければ生き残れない」を作品のテーマに、自身の願いを叶えるための13人の仮面ライダー同士の殺し合いが描かれた(筆者撮影)。
平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎(2002)』では、「戦わなければ生き残れない」を作品のテーマに、自身の願いを叶えるための13人の仮面ライダー同士の殺し合いが描かれた(筆者撮影)。

前述した3作品において共通して描かれたのは、「仮面ライダー=改造人間」ではなく、特別な力のない一般人でも何かしらの必要な手続き(ベルトの入手、アーマーの装着等)を踏めば、「誰でも仮面ライダーになり得る」という可能性でした。

そこで、次なる平成仮面ライダーシリーズにおいて描かれたのは、仮面ライダーへの変身に必要な「ベルトの奪い合い」でした。

つまり、たくさんの怪人をやっつける強力な力を持ったスーパーヒーロー・仮面ライダーになるために、敵味方入り乱れてのベルトの奪い合いに物語の重きが置かれ、人間と怪人双方における濃密なドラマを描いていたのが、本記事で取り上げる平成仮面ライダーシリーズ第4作『仮面ライダー555(2003)』でした。

『555(2003)』は敵味方入り乱れての変身ベルトの奪い合いに物語の重点が置かれた。複数の仮面ライダー達が登場するも、変身者によって善にも悪の力にもなり得る危うさも描かれた。
『555(2003)』は敵味方入り乱れての変身ベルトの奪い合いに物語の重点が置かれた。複数の仮面ライダー達が登場するも、変身者によって善にも悪の力にもなり得る危うさも描かれた。

次章からは、そんな平成仮面ライダーシリーズの歴史を継いだ『仮面ライダー555(2003)』の物語を見つめてみたいと思います。

【俺には夢がない。でもな、夢を守ることはできる!】その男、仮面ライダーであり怪人!唯一無二の猫舌の男、乾巧とは何者か?

さて、ここからは本記事のメインである『仮面ライダー555(2003)』の物語についてお話をしていきたいと思います。

『仮面ライダー555(2003)』は、自分の夢を見つけるためにバイクで全国を旅する猫舌の青年、乾巧が旅の途中でファイズギア(変身ベルト)を託され、仮面ライダー555となって、人間を襲う怪人(オルフェノク)から皆の夢を守る物語。

『仮面ライダー555』は2003年1月26日から2004年1月18日まで、全50話(各話30分)が放送された。写真は東映ビデオより発売されたBlu-ray Box 全3巻と劇場版Blu-ray。
『仮面ライダー555』は2003年1月26日から2004年1月18日まで、全50話(各話30分)が放送された。写真は東映ビデオより発売されたBlu-ray Box 全3巻と劇場版Blu-ray。

旅をしている青年が突然ベルトを入手して仮面ライダーとなり、怪人と戦う物語が展開された『仮面ライダー555(2003)』。本作の主人公・乾巧(いぬい たくみ)はベルトを突然入手したことで仮面ライダーとして戦う宿命を背負うことになり、人を襲ったりベルトを手に入れるために迫ってくる怪人(オルフェノク)を相手に日々戦うことになります。

『555』では仮面ライダーに変身するための「ベルト(ファイズギア)」の争奪戦が描かれ、時に敵怪人がベルトを奪って変身することもあった。携帯電話(ガラケー)をベルトに差し込んで変身する。
『555』では仮面ライダーに変身するための「ベルト(ファイズギア)」の争奪戦が描かれ、時に敵怪人がベルトを奪って変身することもあった。携帯電話(ガラケー)をベルトに差し込んで変身する。

主人公である巧ですが、本人はかなり無愛想な性格の猫舌男。実は繊細で、思いやりと正義感に溢れた人物ではあります。しかし口が悪く、思ったことをストレートに伝える歯に衣着せぬ言い方から、他人に誤解されたり、悪意のある人物(しかも他の仮面ライダー)に罠にかけられたりと、苦労人な姿も描かれました。

555に続き現れた仮面ライダーカイザ。善人として振る舞うも、「自分を好きにならない人間は邪魔」と考える利己的な性格で、巧をも罠にかける。しかし愛する者(真理)を守ろうとする強い意志はあった。
555に続き現れた仮面ライダーカイザ。善人として振る舞うも、「自分を好きにならない人間は邪魔」と考える利己的な性格で、巧をも罠にかける。しかし愛する者(真理)を守ろうとする強い意志はあった。

その根底には「とある理由」から他人を裏切ってしまうことへの恐れがあり、他者を拒絶している上に、好奇心も欠落していることから、巧は自分の「夢」を持てずにいたのです。

しかしそんな彼は仮面ライダー555となり、「とある理由」を抱える自分自身を否定するために怪人達(オルフェノク)と日々戦い続けていました。

仮面ライダー555(乾巧)の戦闘スタイルは、格闘技に加え、パンチを炸裂させた後に右手を軽く振るのが特徴。「ライダーキック」前にエネルギーを補充する待機ポーズ後、上空から強力な蹴り技をお見舞いする。
仮面ライダー555(乾巧)の戦闘スタイルは、格闘技に加え、パンチを炸裂させた後に右手を軽く振るのが特徴。「ライダーキック」前にエネルギーを補充する待機ポーズ後、上空から強力な蹴り技をお見舞いする。

そんな555と敵対する怪人達。彼らの名は「オルフェノク」。一度「死」を経験した者達が、地球上の動植物や昆虫の特質を備えた新たな怪人としてよみがえった、正に人類の進化形とも呼べる存在でした。

仮面ライダー555が敵対するオルフェノクは一度死を経験した人間が蘇生し、怪人となった姿。人間を襲って適合者をオルフェノクに変える力を持つが、全員が悪い存在ではなく、人間と共存を望む者達もいた。
仮面ライダー555が敵対するオルフェノクは一度死を経験した人間が蘇生し、怪人となった姿。人間を襲って適合者をオルフェノクに変える力を持つが、全員が悪い存在ではなく、人間と共存を望む者達もいた。

つまり彼らはもとは人間であり、その個体数は極めて限定的。そんな彼らは人間をオルフェノクに変える能力(使徒再生能力)を持っており、仲間を増やそうと人を襲います。さらに彼らは自分達の繁栄のために巨大複合企業「スマートブレイン」を組織し、「オルフェノクによる世界制覇」を真の目的に暗躍します。

『555』では、仮面ライダー側だけでなく、怪人側(オルフェノク)にも重厚なドラマが描かれたのが特徴。怪人になってしまった苦悩や悲しき背景、怪人として生きる覚悟が物語において描かれた。
『555』では、仮面ライダー側だけでなく、怪人側(オルフェノク)にも重厚なドラマが描かれたのが特徴。怪人になってしまった苦悩や悲しき背景、怪人として生きる覚悟が物語において描かれた。

しかしそんな人類の進化形である「オルフェノク」には、生物として致命的な欠陥がありました。それは、人間からあまりにも急激な進化を遂げてしまったため、長く肉体を保つことが出来ず、短い寿命で肉体崩壊(灰化)を起こし死んでしまうという儚い存在だったのです。

個体数を増やしたところで、長くない命を閉じてしまう悲しい存在でもあるオルフェノク。『仮面ライダー555(2003)』では、これまでの仮面ライダーシリーズでは「倒される悪役」である怪人に対しても、生命の尊厳や人権を問いかける重厚なドラマが展開されていたのも特徴でした。

そんな仮面ライダー555とオルフェノクの戦いが描かれた本作。物語も終盤に近づくにつれて、衝撃の事実が明かされることになります。

それは、「主人公・乾巧も、実はオルフェノクだった」ということでした。

人々の夢を守るために、仮面ライダー555として戦ってきた巧。しかし、実は子どもの頃に事故に遭ったことを契機に、オルフェノク(ウルフオルフェノク)として覚醒していたのです。

しかし彼はその事実を仲間達に隠し続けました。それは、怪人(オルフェノク)である自分が自分でなくなり、いつか仲間達を裏切ってしまうのではないかという恐怖が根底にあり、故にそんな自分を否定するために仮面ライダーとなって怪人達と戦い(殺し合い)を重ねてきたのです。

苦悩に苦悩を重ねてきた巧ですが、彼が導き出した答えは、人間として戦うということでした。

「俺は戦う!人間として・・・ファイズとして!!」(乾巧)

オルフェノクであっても、人間として生きることを選んだ巧。彼は他のオルフェノクにも「人間として生きる」ことを掲げ、人間に絶望したオルフェノクを救おうと尽力します。

ホースオルフェノクは突然怪人になってしまった青年(木場勇治)。人間との共存を願っていた優しい彼も、「とある事件」をきっかけに豹変。巧と対立する。本作の劇場版では、双方ライダーに変身し激しく戦った。
ホースオルフェノクは突然怪人になってしまった青年(木場勇治)。人間との共存を願っていた優しい彼も、「とある事件」をきっかけに豹変。巧と対立する。本作の劇場版では、双方ライダーに変身し激しく戦った。

そして物語の終幕。

巧は仮面ライダー555として、オルフェノクの王とも呼べる最後の敵(アークオルフェノク)に戦いを挑み、倒すことに成功します。

残された日々・・・オルフェノクである巧の生命は長くはありません。

戦いを終えた巧は、仲間達と丘で寝転がりながら雲が漂う青空を見上げます。

彼が歩んできた仮面ライダー555としての戦いの中で、これまで「夢」を持てなかった巧に、ようやく唯一無二の夢が芽生えます。

「世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、みんなが・・・幸せになれますように・・・」(乾巧)

巧は、静かに目を閉じたのでした。

上述してきた『仮面ライダー555(2003)』放送終了後も、仮面ライダー555の戦いは続いていきました。ある時は、世界征服を企む悪の秘密結社「大ショッカー」の野望を歴代仮面ライダー達と共に叩き潰し、またある時は昭和の仮面ライダー(仮面ライダーX)と交流し、彼に叱咤激励され悩みを振り切ったこともありました。

2014年公開の映画『仮面ライダー大戦』では、乾巧(555)は昭和仮面ライダー第5号である仮面ライダーXこと神啓介と出会う。Xは555に厳しく接し仲間(カイザ)の死に苦悩する巧を奮い立たせようとした。
2014年公開の映画『仮面ライダー大戦』では、乾巧(555)は昭和仮面ライダー第5号である仮面ライダーXこと神啓介と出会う。Xは555に厳しく接し仲間(カイザ)の死に苦悩する巧を奮い立たせようとした。

そんな激動の仮面ライダー555のその後の物語ですが、2024年に放送20周年を迎え、映画『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド(2024)』と題して、令和の世に『仮面ライダー555』は復活しました。

2024年2月2日に公開された映画『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド』では、乾巧は新たな姿「ネクストファイズ」となって、かつての仲間達のもとに帰ってくるが・・・?(筆者撮影)
2024年2月2日に公開された映画『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド』では、乾巧は新たな姿「ネクストファイズ」となって、かつての仲間達のもとに帰ってくるが・・・?(筆者撮影)

本作でももちろん、仮面ライダー555(乾巧)の「その後」が描かれます。またこちら『パラダイス・リゲインド(2024)』は、東映特撮ファンクラブ(TTFC)(外部リンク)や、Blu-rayの発売(外部リンク)も決定しております。テレビ番組『仮面ライダー555(2003)』から繋がる「夢の続き」の物語・・・。

宜しければ、皆さまもご自身の目で確かめて頂けたらと思います。

最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。

(参考文献)
・菅家洋也、『講談社シリーズMOOK 仮面ライダー Official Mook 仮面ライダー平成 vol.4 仮面ライダー555』、講談社

博士(文学)/PhD(literature)

博士(文学)。日本の「特撮(特殊撮影)」作品を誘致資源とした観光「特撮ツーリズム」を提唱し、これまで包括的な研究を実施。国内の各学術学会や、海外を拠点とした国際会議へも精力的に参加。200を超える国内外の特撮・アニメ催事に参加してきた経験を生かし、国内学術会議や国際会議にて日本の特撮・アニメ作品を通じた観光研究を多数発表、数多くの賞を受賞する。国際会議の事務局メンバーのほか、講演、執筆、観光ツアーの企画等、多岐に渡り活動中。東海大学総合社会科学研究所・特任助教。

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