レスターと岡崎慎司の快挙が「土の匙(スプーン)の反乱」と賞賛される理由
チーム創設132年目にしてリーグ優勝を決めたレスター・シティの大快挙は、「レスター・シティはミラクルシティ」(『アジア経済』)、「最高の逆転童話を完成させたレスター」(『スポータル・コリア』)、「レスター・シティが描いた童話、ハッピーエンディング」(『スポーツ朝鮮』)など、韓国でも大きく報じられている。ニュース専門チャンネル『YTN』などは、「土の匙(スプーン)だったレスターの反乱、132年目の優勝」と報じた。
韓国メディアらしい表現だと思った。というのも、“土の匙”とは韓国の若者たちが最近よく使う言葉なのだ。韓国では、「裕福な家庭で生まれる(Born with a silver spoon in one’s mouth)」という英語の慣用句を受けて、“銀の匙=裕福な家庭”、“金の匙”、“銅の匙”、“土の匙”など、貧富の差によって人を区別し分類する「スプーン階級論」が若者たちの間でひそかに流行っていて、一般的な庶民は“土の匙”に例えられる。
ちなみに“金の匙”は超富裕層で、常識を超えた大金持ちの財閥一族は“ダイヤモンドの匙”とされる。言わばマンチェスター・ユナイテッドやチェルシーが“金の匙”や“ダイヤモンドの匙”ならば、レスター・シティは“土の匙”というわけだ。
そのレスターの一員として優勝に貢献した岡崎慎司も当然、取り上げられている。もともと韓国では岡崎慎司の評価が高かったが、レスター優勝を受けて「岡崎慎司優勝、レスター・シティ頂点に日本も急騰」(『エクススポーツ』)など、日本メディアの反応も紹介されているほどだ。
(参考記事:プレミア好きな韓国ファンも高く評価!! 「岡崎慎司は“アジアのテベス”だ!!」)
面白いのは「レスター・シティの岡崎慎司、アジア人3番目のEPL優勝」(『Eスターニュース』)とされていることだ。日本では日本人3人目のプレミア制覇と報じられたが、同メディアは2001-2002年にアーセナルに所属していた稲本潤一をカウントせず、2012-2013年にマンチェスター・ユナイテッドに所属した香川真司をプレミア制覇日本人第1号にカウントしている。ちなみに同メディアが報じたアジア人第1号はパク・チソン。パク・チソン、香川に続き岡崎がアジア人3番目というのが、韓国の見方だ。
ただ、韓国メディアの岡崎への好評価は変わらない。以前、このコラムでも紹介したが、サッカー専門誌『FourFourTwo KOREA』のホン・ジェミン編集長も言っていた。
「爆破的なスピードがあったり、技術がズバ抜けて優れているわけでもない。ただ、彼はいつも全力でプレーしていますよね。ゴール数は多くなくとも、いつも一生懸命に、いつも誠実に。大袈裟な言い方かもしれませんが、毎試合、死力を尽くしてプレーしている。活動量が非常に多いので当然、スペースを探し当てることにも長けていて、チャンスも多く作るし、岡崎本人も顔を出す。そう、パク・チソンを連想させるんです。それが韓国で岡崎の評価が高まっている要因でしょう」
(関連記事:あの朴智星(パク・チソン)は今、どこで何をしているのか)
(関連記事:「アジアのロールモデル(見本)だ」韓国が岡崎慎司を大絶賛するワケ ヤフーニュース個人 16/04/11)
興味深いのは、この『FourFourTwo KOREA』の本家本元であるイングランドの『FourFourTwo』が最近発表した「今年最高のアジア選手50」だ。昨年は韓国のソン・フンミン(トッテナム)が1位だったが、ソン・フンミンは2位にランクを落とし、岡崎が栄えある1位に選ばれている。
韓国ではこの結果について当然とする見方がある一方で、ソン・フンミンの今季の出来に失望する声も多い。岡崎と同じく今季からプレミア進出したソン・フンミンはシーズン途中に左足を負傷したこともあって最近は途中出場なども多かった。5月3日のチェルシー戦で久々に先発し、今季3得点目(カップ戦を含めると7得点)を決めたが、『世界日報』などは「ベンチを盛り上げる時間が多くなったソン・フンミン、アジア最高の選手の座も岡崎に明け渡す」と報じているほどだ。
ちなみに『FourFourTwo』が選んだ「今年最高のアジア選手50」には、キ・ソンヨン(3位)、本田圭佑(6位)、武藤嘉紀(7位)、宇佐美貴史(9位)、キム・ヨングォン(10位)と日韓の選手がベスト10に7名ランクされているが、韓国ファンの中には「香川真司がベスト10にいないのはおかしい」「イ・ドングッが15位でク・ジャチョルが35位とはどういうこと?」と首を傾げる書き込みも多い。
(参考記事:岡崎が1位だ! 英紙が選ぶアジアのベスト選手TOP10で岡崎がトップ その他日本人選手も3名選出)
いずれにしても“土のスプーン”でも極上の料理を食べられることを示したレスター・シティと岡崎慎司の話題は、韓国でもしばらく尽きそうにない。