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北京でバイトをしながら行方不明の息子を探すコロナ患者。息子は死亡という悲しい現実

宮崎紀秀ジャーナリスト
北京ではコロナ感染拡大を受け対応に追われる(2022年1月18日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 中国の北京で新型コロナに感染した男性。2年前に失踪した息子を探すために、元日から深夜労働に携わるなど過酷なアルバイトをしながら生活していたことが分かり、中国国内では同情の声が上がった。だが、警察はその息子がすでに死亡していた、と発表した。

深夜労働のコロナ感染者は息子を探すため

 北京に住むこの男性は、1月18日に陽性が確認された無症状のコロナ感染者。北京の衛生当局は、濃厚接触者の洗い出しなどのため、感染者の詳細な行動履歴を公表しているが、それによりこの男性が、新年早々、過酷なスケジュールでハードワークをしていたことが分かり注目を集めた。

 男性は、建築材料を運搬する仕事に携わっており、中国でも3連休となった3が日でさえ、毎日深夜から翌日の明け方まで働いていた。

 その過酷な労働条件に加え、中国メディアの報道によって、男性が、2年前に失踪した当時19歳の息子を探すために北京でバイト生活をしていることが分かった。そのため、SNSなどには、多くの人から男性を励ますと共に、息子が見つかることを願う声が寄せられた。反響の大きさから、中には息子の何らかの情報が得られるのではないかと期待した人もいたはずだ。

 そうした関心が高まる中で、捜査をしていた山東省の威海市の警察は、21日、男性の息子がすでに死亡したと発表した。

腐乱遺体の男性が...

 発表によれば、男性の息子が失踪したのは2020年8月12日9時頃。山東省の栄成という場所の警察が、男性の妻から通報を受けたのは同日18時頃。警察は監視カメラの映像などを調べたものの、その際には有力な手がかりは得られなかった。

 だが、その2週間後の8月26日、地元の貯水池の中から男性の腐乱した遺体が見つかった。DNA鑑定の結果、男性夫妻の息子だと確認されたという。事件性は無かったという。

 ところが、警察の発表によれば、男性と妻はこの事実を受け入れず、その後も捜索願を出し続けてきたのだという。

 警察がわざわざこうした経緯を発表したのは、メディアやSNSで炎上し、挙げ句の果てには「警察は何をやっているのだ」という批判が沸き起こるのを防ぐためだろう。それほどまでに人々の同情を集めた男性の不幸な身の上だったが、警察の発表通り、男性がこの2年間、息子の死を受け入れられないまま彷徨い続けているのであるならば、更に切ない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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