BTS SUGAが参加 PSY"That That" 何を歌ってるの? 調べたら「深すぎた」
いや~こりゃすごい。すごいもんが出てきた。
若い人たちの間ではPSYとSUGAのキレッキレダンスが話題なのだそう。TikTokあたりで踊ってみるのがかなり流行っている。フジテレビのお昼の番組「ポップUP!」でそう言っていた。
筆者自身は1977年生まれのPSYに年齢が近いが、最初にこれを見て爆笑。意味を知って、今度はちょっと泣いた。
韓国のソロ歌手PSYが4月29日に公開した新曲
'That That (prod. & feat. SUGA of BTS)'
のことだ。
2010年代の「米ビルボード2位」(PSY)と2020年代の「米ビルボード1位」(BTS SUGA)の共演。上記公式MVは早くも1週間で1億ビューを超えるなど、世界的な人気を得ている。確かにPSYの「おっさんなのにキレキレ」ダンスはすごい。
Tik tokでは深く考えずに楽しく踊ったらいい(‘Cause we don’t need Permission to Dance)。じゃあ本稿で何をしようとしているのかというと「韓国語が分かる筆者が、歌詞からその世界観を読み解いてみよう」というもの。おせっかい。いやいや曲の世界観まで分かればもっと上手く踊れるに決まってる。ちょっとその意味と背景を調べたら"深すぎた"のでご紹介を。
たった数行のアルバム紹介 44歳の小っ恥ずかしさ
楽曲の冒頭で、PSYはこう歌う。
2022 PSY Coming back
Long time no see huh?
戻ってきました、と歌うのだ。
PSYは2012年7月15日発表の「江南スタイル」で世界的ヒットを飛ばし、一世を風靡した44歳。作品の根底には「いい歳こいてやってます」という小っ恥ずかしさみたいなものが流れている。
この楽曲(That That)、PSYの「9thアルバム」のタイトル曲という位置づけだ。
公式のアルバム全体の紹介はたったの数行。若いアイドルだとアルバム発売時に事務所側が丁寧に制作意図を書き込むものだが、PSYの今作は小っ恥ずかしさを表に出している。
このアルバムはデジタル時代に逆行してパッケージで発売される、PSYのカラフルな9作目「PSY 9th」です。
江南スタイルが流行った10年前は、まだまだ店頭にジャケットで飾ったCDが並ぶのが通常だった。今は音源をダウンロードする大ヒット作はいくらでもある(最近のBTSもそうだ)。印刷・流通のコストなんかかけなくてもいい。それが時代。でも01年デビューの本人はこれまでの8作もパッケージを販売してきた。だから今回もそうするという。
PSYが威張りまくる前半部分 ターゲットは「20代」
'That That (prod. & feat. SUGA of BTS)' はこのアルバムの2曲目に収録されている。その前の1曲目、「9INTRO(ナイントロ)」の曲紹介にも、PSYが"伝えたいこと"がよく現れている。
01. 9INTRO
「よくやったな よくやるもんだ よくやった」
20代では20代がターゲット。30代でも20代がターゲット。40代も中盤を過ぎたけど、今回のアルバムも20代がターゲット。
そう。俺は22歳差。おまえが気持ちいいなら、おれもそうだ。生まれつきのピエロ。
クソみたいな状況からチャンピオン。芸能人だよRight Now, Gentleに江南スタイル、よくやったな、よくやるもんだ、よくやった。ラッパズボンのDADDY,New Face I LUV IT, Celeb そしてThat That よくやったな、よくやるもんだ、よくやった。ほんとよくやった。
続く2曲め、That Thatの前半では「小っ恥ずかしく」もありながら、威張りまくる。
「芸能人だよ」と。江南スタイル、よくやっただろと。公式MVでは、かの馬乗りダンスも登場するなどノリノリ。
1分32秒ににSUGAが登場するまでは。
SUGAとPSYの縁
SUGAは登場後、PSYに向かって「何してる人だか忘れたな」と言う。そしてその後、2人は殴り合う。
これは新旧の「ビルボードトップランカー」の共演だ。BTSが「Dynamite」や「Butter」で全米1位を獲るまでは、2012年9月から11月までの「2位」は韓国社会のとっての「金字塔」であり、絶対に破られないと見られていたのだ。
ここ、かなり笑えるシーンだが…じつは2人の間には奥深い縁がある。
SUGAはこの楽曲にプロデュースおよびMV共演というかたちで関わっている。作曲、作詞ともに共同作業で行ったのだという。
両者の縁は、2015年12月に遡る。
5月6日にPSYのYouTube公式アカウントで公開された本作に関する「フルインタビュー」の動画で両者が思いを口にしている。
「リハーサル中に見た後ろ姿だけでも、こんなに激しく踊れる子たちがいるんだな、と本当に驚いたんですよ」
PSYは江南スタイルの後の「DADDY」という楽曲で活動中だった。韓国内の音楽番組のリハーサル中に「RUN」を踊っている彼らを目にしたのだという。
この時のことをPSYがツイートし、BTSがこれを見ていた。SUGAもまた「驚いたし、光栄だった」と話している。
その後、SUGAはPSYに対してこう感じるようになったという。
「感謝ですよ。江南スタイルでアメリカに行く道を作ってくれた。彼のおかげでBTSがスムーズに入っていけたんです」
いっぽうのPSYは2020年から米ビルボードで躍進しはじめたBTSをこう見ていた。
「2012年、江南スタイルは7週間もの間、米ビルボード2位をキープしたけど、1位になれなかったんです。壁は高かった。ただ当時の自分は『自分の次の曲で1位になれる』と思っていたんです。僕自身が悔やむ部分でもあります。次の韓国アーティストの曲は1位になってほしかった。BTSはその点を晴らしてくれた後輩たちです」
SUGAの音楽的教養に感嘆
その後、お互いが「会いたい」と思っていたのだという。
SUGA:「BTSが2017年に初めてアメリカに行ったのですが、苦しかった時、どうすべきか助言を求めたいと思っていました」
PSY:「僕にとっての2012年、13年、一番幸せで一番不安定だった時には、アドバイスを求める人がいなかったんですよ。受け入れられないほどの非現実のような現実が起きていた。だから2017年からBTSがアメリカに進出した時には本当に拍手を送りたい気分でした」
今回の楽曲で出会った後、最初はSUGAのほうが「大先輩だから」と緊張していたが、音楽の話で打ち解けていった。PSYはSUGAのことをこう褒めている。
「本当に詳しい。よく勉強していて。彼が『90年代の音楽が好きなんですよね』と言うんで『何年生まれなの?』と聞いたら、『(19)93年』だと言うんですよ!」
韓国では2010年代中盤以降、「NEWTRO」が流行りだ。レトロなものを若い人が新しくアレンジする、という。楽曲はそこも狙って制作されたのだ。
MVのなかで2人が殴り合った後にSUGAが「ミン・ユンギとパク・チェサン」とお互いの本名を歌う。ここのフレーズをPSYの方から「90年代っぽく」とリクエストしたところ、見事に一発OKが出たのだという。PSYはSUGAのこういった「柔軟性に驚いた」とも話している。
- 該当のシーン(クリックするとそのシーンが再生されます)
殴り合って鼻血、の意味
公式MVではさらにこの後、殴り合いに負けたPSYが鼻血を出して倒れる。
このシーンについてPSYはアルバムのショーケースでこう話している。
「江南スタイルとの決別です」
いま現在流行っている若者に負けた。もう次のステップに進む、という意味だ。この点、韓国メディアでも最も大きく報じられている部分だ。
ではPSYはこの10年間、何をしていたのか。江南スタイルの次の楽曲「ジェントルマン」では「公式MVで駐車禁止の標識を蹴る場面が非道徳的」としてこれが韓国の地上波KBSでは放送禁止になるアクシデントがあった。その後は江南スタイルのような世界的なヒット曲に恵まれず。
5年前からは自らの芸能事務所「P NATION」を設立し、サポート役にも回っていた。PSY自身、今回は「会社設立後、プレーヤーとして初めての楽曲発表の機会」と話している。
そうやって「ちょっと若い人向けのもの作って小っ恥ずかしいけど、まあやってみますか~」という感じで登場したのだ。公式の曲紹介もまたぶっ飛んでいる。歌詞のサビの部分を多く引用し、こう記している。
そうだ、だから、それ、懐かしいそれ、それだよ。Long time no see huh? 久々だろhuh? また笑って泣いてケンカして Let's get loco おい俺が何してる人なのか忘れたって? That that I like that 時が過ぎても変わらず準備して一発撃ってくださいな That that I like that 気分いいな Babe That that I like that -
結局、サビの部分の冒頭の歌詞が本人の一番言いたかったことなんじゃないか。そんな想像もする。
「準備して一発撃ってくださいな(준비하시고 쏘세요/ジュンビハシゴ ソセヨ」
報われる時もある、報われない時もある。でも準備しときなさいよ、と。PSY本人の苦悩はさておき、公式MVではあっさりSUGAにぶん殴られて負ける。徹底的な自分イジり。そして過去を忘れる。そういう話を若い人のスタイルに合わせて作った。小っ恥ずかしさを滲ませながら。そういうところがカッコいい楽曲なのだ。