熱病に倒れた平清盛。その最期を描いた『平家物語』の、SF顔負けの描写がすごい!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の第11回で、平清盛が没した。
劇中の描写はアッサリしていたが、鎌倉時代に書かれた『平家物語』によれば、清盛はひどい熱病に苦しんで亡くなったという。
その「熱の高さ」の描写がものすごい。
清盛が高熱を発して苦しんでいるので、比叡山から冷たい水を汲んできて石の水槽に入れ、そこに清盛を浸したところ、水はたちまち沸騰した!
さらに樋から水をかけると、炎となって燃えた!
清盛は実在した人物なのに、マンガやアニメのキャラもびっくりの描写である。
筆者も好きな『ウルトラセブン』の最終回に、モロボシ・ダンが体調を崩して、90度もの高熱に苦しむ……というエピソードがあるが、清盛の体調はそれと同じくらい悪化していたのでは……!?
本稿では、『平家物語』が描く平清盛の高熱っぷりについて、空想科学的に考察してみたい。
◆あまりに体調が悪い!
清盛の高熱を描いた『平家物語』巻第六「入道死去」には、こんな表現がある。
「四五間が内へ入(いる)ものは、あつさたえがたし」。
一間は6尺=1.82mだから、四間は7.3m、五間は9.1m。「耐えがたい暑さ」というのを「真夏の太陽光の2倍の熱量」と仮定し、人体が数m離れた場所に、それほどの熱を放射する温度を計算してみると……おおっ!
距離7.3mなら、清盛の体温は1500度! 9.1mなら1700度!
これはすごい。「体温90度のウルトラセブンなんか平熱のうち」と思えるほどの高熱だ。
ここでは体温を1500度と仮定して、次の描写を考えよう。
「水おびただしくわきあがッて、程なく湯にぞなりにける」つまり、水槽に清盛の体を沈めたところ「水が沸騰して、たちまちお湯になった」という。
驚くべき話だが、体温が1500~1700度もあれば、むしろ当然の現象である。
清盛の体重を60kgとするなら、体温が1500度として計算すると、沸騰するだけでは済まず、水温20度の水が140L蒸発する。
現代の一般家庭の浴槽は容量200Lほどだから、清盛をお風呂に入れたら、たちまち3分の1に減るわけだ。
さらにビックリなのが、それに続く描写「石やくろがねなンどのやけたるやうに水ほとばしって、よりつかず」である。
樋から水をかけたところ「焼けた石や鉄のように、水がほとばしって寄りつかない」というのだが、これはおそらく、体に触れた水が瞬時に蒸発し、その圧力であとから来る水がハネ返される様子を活写しているのだろう。
熱したフライパンに水を落とすと、丸い水滴になってフライパンの上を走り回るが、これと同じ「ライデンフロスト現象」が起きたと思われる。人の体の上なのに!
◆水が炎になってしまう!
そして、たまたま当たる水は「ほむらとなッてもえければ、くろけぶり殿中にみちみちて、炎うづまいて上がりけり」。
つまり「水が炎となって燃えた」と言っているのだが、これは科学的に不可解だ。
水は、水素と酸素が結びついたものだ。すでに反応が終わっているので、どれだけ熱を加えても、それ以上燃えることはない。普通に考えれば、水は燃えないはずなのだ。
ひとつだけ可能性があるとしたら、あまりの高温で、水が水素と酸素に分解し、これで生じた水素が、再び燃えている場合。これを「水の直接熱分解」といい、それを可能にする温度とは2500度!
これほどの高温になると、清盛が寝ている床などたちまち燃え上がり、家屋も炎に包まれるだろう。
その下の地面もこの高温には耐えられない。岩石の主成分である二酸化ケイ素は、1650度で融解し、2230度で蒸発するから、清盛は大地をしゅわしゅわ蒸発させながら地球の中心へと沈んでいく。……って、SF映画ですかーっ!?
平清盛には「大悪人」というイメージがあるが、それは『平家物語』の影響で、「実は温厚で度量の大きい人だった」という説もあるという。
まあ、そうかもしれませんなあ。これらの描写から考えるなら、『平家物語』というのは、かなり大袈裟に書いてるのかも……。