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共産党が頼った山本太郎の「れいわ」の風

安積明子政治ジャーナリスト
今度の参議院選では中心的存在(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

若い人たちが共産党の街宣に詰めかけた

 なんという人だかりだろうか。JR高田馬場駅前で予想外の塩村あやか氏(立憲民主党)と渡辺てる子氏(れいわ新選組)の“女の闘い”で時間をとったため、予定より20分遅れで横浜に到着した筆者の目に入ったのは、日本共産党の小池晃書記局長の演説に聞き入る人の山だった。

 横浜に来た目的は、同党から神奈川県選挙区に出馬した浅賀由香氏の街宣取材だ。ただ、いつも見る共産党の街宣とは景色が全く異なっている。JCPサポーターによる街頭宣伝は若い人を対象としているものの、共産党の通常の街宣で見る聴衆の年齢層はおしなべて高い。

 ところが高校生と思しき2人連れの男子など、若い人がけっこういるのだ。彼らの目的はおそらく、れいわ新選組の山本太郎代表。山本氏はこの街宣で午後3時40分から演説することになっていたのだが、なんらかの事情で遅れているのだろう。午後4時15分から演説予定の小池氏が先に行うことになったわけだ。

「安倍(晋三)さんは憲法を変えて何をやろうというのですか。憲法は国の理想を語るもの、違います。憲法は安倍さんみたいな人が勝手なことをしないように、手足を縛るためのものです。安倍さんは改憲論議は国会議員の責任だと言います。違います、憲法を守ることこそ、国会議員の責任です」

「自民党は『選択的夫婦別姓は家族の絆を壊す』と言っているそうです。しかし投票場に恋人を誘ってお父さんに行ってくださいと言う方が、よっぽど家族の絆を壊すんじゃありませんか。そんな無責任な人たちに、この国の未来を語ることはできない、語らせてはいけない。みなさん、政治を変えましょう」

山本太郎に頼る共産党

 時折揶揄をまじえてこぶしを振り上げながら、小池氏は熱弁をふるった。同党から神奈川県選挙区に出馬している浅賀氏の手を取り、聴衆にアピールもした。2016年の参議院選で次点に泣いた浅賀氏は今回も苦戦中。当落線上を日本維新の会の松沢成文氏と争っている。

 その雪辱を晴らすために、日本共産党はれいわ新選組の山本太郎代表を助っ人として頼ったわけだ。山本氏は7月11日に、大阪府選挙区から出馬の辰巳孝太郎氏と一緒に京橋や梅田で街宣。また翌12日には京都に行き、「失ってはならない国会議員」と述べて2期目を目指す倉林明子氏への投票を呼びかけている。

 その山本氏が現れると、聴衆から大きな歓声が飛んだ。

赤いガーベラ

「山本さん、これどうぞ」

壇上に向かう山本氏に、共産党のスタッフがガーベラを差し出した。今回の参議院選挙で日本共産党がイメージに用いている花だ。ガーベラの花言葉は「希望」で、「暮らしに希望を」は宣伝プラスターのひとつ。小池氏も浅賀氏もガーベラを手にし、同じ花を持った3人は聴衆に「仲間意識」をアピールした。

「まだ選挙に行っていないとおっしゃる方。どのくらいいらっしゃいますか。おお!票田が転がっているじゃないか!」

 山本氏が開口一番におどけてみせたのは、日本共産党特有の理詰めの演説とは違う味を出したかったからだろう。安全保障にしろ雇用政策にしろ、山本氏も小池氏も見解の差はほとんどない。あえて差異を求めるなら、小池氏は理詰めで訴えるが、山本氏は聴衆の感情に訴える点だろう。いわば頭で感じるものでなく、腹の底から湧き上がるような怒りだ。それを語る側と聞く側が共有することで、れいわ新選組は躍進してきた。

もちつもたれつ

「1枚目の投票用紙にこの人の名前を書いてもらわないと困るんです」

 聴衆と共感でつながった頃に、山本氏は浅賀氏を壇上に上げてこう述べた。れいわ新選組は神奈川県選挙区に公認候補を立てていないから、他党を応援しても差しさわりがない。

「ついでに言うんですけど、山本太郎は東京選挙区を捨てて今回は比例代表、2枚目の投票用紙で立候補しているんです。まだ投票先が決められていない方は、2枚目の投票用紙に『山本太郎』と書いてもらいたいなあと思っているんですけど。有難うございます。とはいいながらも、『山本太郎は気に食わん』という方も結構いらっしゃいますから、その時には2枚目の投票用紙には『日本共産党』とお書き下さい」

 なめらかに聴衆を自分の票集めに導く山本氏。山本氏との「票の取引」については日本共産党は否定するが、接戦の選挙区では票のやりとりは結構行われていると聞く。実際に浅賀氏と当落を競っている松沢氏にしても、「最終的には自民党から票が動く」と言われている。自民党は神奈川県選挙区で島村大氏しか擁立せず、余力がある。しかも改憲勢力を1議席でも増やしたいからだ。

 一方で特定枠の2名に加え、れいわ新選組で山本氏が当選するには、比例票を300万票以上獲得しなければならない。そうでなくても各調査ではすでに「1議席」は視野に入ったとされるれいわ新選組だが、最低でも政党交付金を支給されるために全国を通じて2%以上の得票率が必要だ。互いの生き残りをかけた選挙戦は、いよいよ最終日を迎える。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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