停電の千葉、障害者が育てる胡蝶蘭5千株「全滅」・再生へ動き出す
知的障害のある人たちが働く、千葉県富津市の「アロンアロン オーキッドガーデン」。台風15号の影響により、9月、胡蝶蘭の苗約5千株が全滅した。停電で温室の空調が止まって温度が上がり、商品として売れない状態になったという。それでも働き手は元気に通い、再生のために活動を続けている。
〇障害ある息子のため始めた
筆者は2017年、胡蝶蘭栽培の温室がスタートした際に現地を訪れた。オーキッドガーデンを運営するNPO「アロンアロン」の代表・那部智史さんは、知的障害がある長男の父でもある。
那部さんは大学を卒業後、通信会社でトップセールスマンだった。長男の障害があるとわかり、「お金持ち」になることを目指し、勤めていた会社から独立して2000年、インターネットのベンチャー企業を立ち上げた。
10年間で事業も拡大。長男は特別支援学校に通っていた。幸せな家族に見せたくて頑張ったが、心の穴を埋めるのはお金ではなかったと気づき、すべての会社を売却した。いすみ市に拠点を移し、不動産賃貸業を始めた。
長男が支援学校を卒業するにあたり、那部さんは様々な施設を見学した。息子を託す気持ちにはなれず、「毎週、家族が遊びに行きたいと思えるような場所を作ろう」と、2013年にNPOを始めた。胡蝶蘭を栽培して販売し、障害者の賃金アップを実現して社会を変える目的だった。
〇必ず売れる胡蝶蘭で収入アップ
なぜ胡蝶蘭だったのか。那部さんが会社を始めて社員を増やし、オフィスを広げたときのことだった。取引先から胡蝶蘭を贈られ、お返しをする文化を知った。「生花はディスカウントがない。知的障害のある人は働く場所が少ないし、あっても収入が低い。胡蝶蘭を売ろうとひらめきました。ビジネス出身なので、まず販路の開拓を考えたんです」
胡蝶蘭の栽培を障害者に指導していて、かつ全国に物流センターを持っている会社と組んだ。他は個人的に、取引先を増やしていった。売る土台を作ってあったので、障害者が働くようになって最初の月から充分な「工賃」を払うことができた。
オーキッドガーデンは「就労継続支援B型事業所」で、11人の障害者が働く。2017年に温室をスタートし、年に1億円を売り上げ、順調に歩んできた。こうした事業所の工賃は、全国平均で月に1万5千円程度だが、ここでは最も多い人で10万円を実現している。植物を育てる喜びがあり、「障害者が楽しく働いて、収入になる」と全国から注目されていた。
〇「苗のオーナーに」支援呼びかけ
今回は、停電によって温室の温度が上がり、5千株もの苗が傷んでしまった。およそ5千万円の損失だ。これだけの事態になっても、障害者やスタッフは通ってきて、弱音を吐かずに明るく働いているという。
「オーキッドガーデンの苗は全滅しましたが、群馬県太田市にある関連の農園は稼働しているので、お花の注文には全て対応しています。なんで自家発電機を導入しなかったんだ、と悔しくてなりません。でも、ピンチはチャンス。今後は災害時に近隣の住民の皆さんの避難場所になれるように、太陽光と大型発電機の併用による非常時オフグリッド(独立電源)化を目指します」と那部さん。
大事に育てた胡蝶蘭を、活用するための支援も広がった。摘み取った花を、近隣の協力者が販売したり、商品にはならない苗を家庭で栽培してもらおうとネットオークションに出したり。これまでに、傷んだ分はすべて廃棄し、新たに千株の苗を搬入した。また半年かけて、障害者が丁寧に育てていく。
アロンアロンは、これまでも募集してきた「苗のオーナー」になることを呼びかけている。胡蝶蘭の苗の仕入れ価格は千円ほど。1万円で10株の苗が購入できる。オーナーが購入した10株の苗は、障害者が半年間かけて開花させ、1株分はオーナーへのお礼として指定の届け先へ送る。残りの9株は企業に販売し、障害者の収入にする。
詳細はアロンアロンのホームページで。