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過激化する反ワクチン集団「神真都Q」を放置してはいけない理由

原田隆之筑波大学教授
(写真:イメージマート)

ついに逮捕者が

 4月7日、東京都渋谷区のクリニックで、新型コロナウイルスのワクチン接種反対を叫ぶ団体のメンバーが診察室などに乱入し、建造物侵入容疑で逮捕された。取調では「(ワクチンによる)殺人行為を止めに入った」などと供述しているという。

 彼らは、昨年末に設立された「神真都Q」(やまとキュー)と名乗る団体のメンバーで、アメリカなどで広がる極右陰謀論者集団「Qアノン」の日本版を自称しているという。

 神真都Qとはどういう団体か。神真都Qの「結成宣言」には「我々はこれまで永きに亘り支配されてきた悪の権化イルミナティ、サタニスト、DSグローバル組織、最悪最強巨大権力支配から「多くの命、子どもたち、世界」を救い守る為、自らの命をかけ活躍して頂いた偉大なる先駆者達偉大なるドナルド・トランプ大統領をはじめ、多くのホワイトハット、Q、HERO’Sたち、世界中の光輝く素晴らしい方々が切り拓いてくださった光の神道を、心からの感謝と敬意と勇気をもって「同じ真意、神威、目的」を掲げ、Qと云う同じ1つの光の旗のもと集い善なる光のQ活動を健全に行うものと宣言します」などと書かれている。

 何度読んでも理解できない荒唐無稽な内容であるが、彼らはこうした陰謀論を真剣に信じて、コロナワクチン接種は「闇の組織」が人類滅亡を目論んだものだと考え、反ワクチン、反コロナ論を展開しているのである。

 神真都Qが活動を始めた当初は、荒唐無稽な集団がSNSで奇妙なことを言ったり、デモと称して「イチニ、イチニ、光の戦士♪」などと珍妙なリズムで調子の外れた歌を歌いながら練り歩く様子を嘲笑しているだけでよかったのかもしれない。しかし、その急速な拡大と過激化を見ていれば、このまま放置するのは間違いなく危険である。

 なぜなら、次第にその活動は先鋭化し、3月には東京ドームのワクチン大規模接種会場や都内の接種会場で妨害行動に出て、接種が一時中断されるような事態となった。そして、今回の逮捕劇である。

陰謀論とは

 そもそも陰謀論とは何か、その背景や陰謀論者の特徴にはどのようなものがあるのかなどについて、最近の包括的なレビュー論文の内容をかいつまんで紹介しつつ説明したい。

 まず陰謀論の定義であるが、これをきちんと定義しておくことは重要である。なぜなら、気に入らない他人の主張を恣意的に「陰謀論」として無効化することがあってはならないからである。現時点では以下のような定義が代表的なものである。

重要な社会的・政治的出来事や状況の最終的な原因を、2人以上の強力なアクターによる秘密の陰謀によるという主張で説明しようとするもの

 陰謀論の対象となる「重要な社会的・政治的出来事や状況」というのは、今回はコロナワクチン接種という社会的出来事であるが、ほかにも気候変動や9・11テロが陰謀であるというものもあるし、3・11は人工地震だなどという陰謀論もある。最近ではロシアのウクライナ侵攻をめぐる陰謀論も盛んである。

陰謀論を信じやすい人には、特定の特徴やマインドセットがあることが明らかになっている。実際、ある1つの陰謀論を信じやすい人は、他の陰謀論も信じやすいというエビデンスはたくさんある。神真都Qも、ワクチン陰謀論だけでなく、3・11人工地震説やウクライナ陰謀論(ウクライナ侵攻はメディアのでっちあげだなど)を主張しているようである。

 さて、陰謀論者の特徴については、膨大な研究があり、その一部を抜粋すると以下のようになる。

人口統計学的特徴

 男性、未婚、失業者

 収入が低い、学歴が低い

 社会的孤立

認知的特徴

 合理的、科学的思考スタイルの欠如

 確証バイアス(自分の信じたい情報のみを受け入れて、あとは拒絶する)

 根拠のない信念を無批判的に受け入れる傾向

 低い知的レベル

心理的特徴

 高い不安傾向

 低い統制感(自力で物事をコントロールできるという自信が乏しい)

 社会からの疎外感

 自信欠如

 ナルシシズム(ユニークな存在でありたいという心理)

政治的信条

 左・右いずれかに両極端(ただし、保守派がより傾倒しやすい)

 権威主義

 この論文では、「敗北と排除が最大の誘因であるため、陰謀論は敗者のためのものであり、権力者やその連合を非難する傾向がある」と断じている。そして、社会的敗者たる陰謀論者は、「他の人が持っていない希少で重要な情報を自分が持っていると感じ、特別な存在であると感じられるため、自尊心を高めることができる」ために陰謀論に傾倒するのだという。

陰謀論の伝播

 陰謀論のなかには、それをもっともらしく思わせるための政治的、社会的、歴史的な粉飾がなされることが多いが、神真都Qの反ワクチン陰謀論は著しく稚拙で見劣りがする。

 ここで注目すべきは、陰謀論が伝播し、多くの「信者」が集まっていくプロセスである。この点において、インターネットやSNSの存在は無視できない。

 さらに、頻繁に行われていたデモや飲み会(コロナ禍であるにもかかわらず)が、彼らの重要な親睦の場であったことも特筆に値する。このような社会的イベントが陰謀論者の凝集性を高めることに重要な役割を果たすと言われているからだ。そして、そのなかで「エコーチェインバー現象」によって、ますます彼らの主張が声高らかになっていくのである。

 ここで私が最も注目するのは「不安」である。論文では「陰謀論は既存の世界観を脅かす出来事に意味を見出すための装置として広まる」とも書かれている。つまり、コロナ禍という未曽有の危機において、彼らが抱いた大きな不安や孤立を紛らわせてくれる「装置」となったことが推測できる。

 誰もが体験したことのないパンデミックのなかで、誰しも不安を抱いているが、ほとんどの人々は、適切な感染予防策を講じたり、ワクチンを接種したりするといった科学的で合理的な方法でこれに対処しようとしている。

 一方、科学的・合理的思考が欠如し、政府や専門家というエスタブリッシュメントに対して劣等感や反感を抱いている彼らは、あえて逆張りの思考を採用し、「コロナなど存在しない」と真っ向から否定することで、偽の安心を得ようとしているのだ。

 この点、論文においても「支配的な政治的・思想的前提に異議を唱えるために陰謀物語が使われる」とされていることに一致する。

陰謀論の害

 陰謀論は何も悪い側面ばかりではない。一人のか弱い個人が、エスタブリッシュメントに対して異議を唱え、オープンな議論を開く端緒になることもある。それによって、透明性が確保されることもある。

 したがって、論文では「陰謀論やそれを信じ伝える人々を悪魔化しないように注意したい」と警鐘を鳴らしており、これは非常に重要な指摘である。

 とはいえ、ほとんどの陰謀論は、社会的、政治的、公衆衛生的に有害な結果をもたらすとも述べられている。

 今回の事件のように、「テロ」とも言える実力行使に出たのであれば、もはや社会は彼らの主張を馬鹿げたものであると嘲笑しているだけではすまされない。断固たる対処が必要である。

 陰謀論が、しばしば過激な行動、暴力、テロに関連することは多くの研究が示している。なぜなら、彼らは往々にして「反対意見を表明するためには暴力が許容されることもある」という反社会的な信念を抱いているからだ。そのため、犯罪行動への抵抗感が薄れると言われている。特に、自分たちが「正義」であると信じている場合に、それは激化しやすい。

 神真都Qが、自らを「正義の戦士」と名乗り、社会は「闇の勢力」であると信じていることは、もはや笑いごとでは済まされないのである。規模は違えど、ロシアのウクライナ侵攻も「ネオナチからロシアを守るため」などという陰謀論に鼓舞され、ネオナチ打倒という「大義」の下に行われているのは周知のとおりである。

陰謀論への対処

 陰謀論への対処は容易ではない。しかし、重要なことはそれを軽視したり嘲笑したりするだけで放置してはならないということである。社会として「許さない」という態度を鮮明にして断固とした態度を取ることが重要である。

 オウム真理教の凶行を知るわれわれは、どんなに荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい集団だと思えても、それが巨大なカルトにならないよう対応を誤ってはならない。

 その意味で今回の逮捕は、適切な対処であったといえる。しかし、「介入が逆効果になる可能性がある」ことも論文は指摘している。

 逮捕を権力による弾圧と感じて、ますます集団の凝集性が高まり、社会への敵意が増大する可能性は多分にある。したがって、今後もどのような過激な行動も絶対に許容しないように、引き続き毅然と対応することが何よりも重要である。

 長期的には、教育が最も重要なツールとなると指摘されている。直観的思考や感情的思考ではなく、科学的思考、分析的思考を培うには、系統的な教育が必要である。これらは自然に身に付くものではないからだ。

 さらに、陰謀論についての研究をさらに深める必要がある。特に、どのような介入や対処が効果的であるかの知識が圧倒的に不足している。こうした研究を積み重ねることは、今後きわめて重要な課題である。

 今回、人々を感染症から守るために懸命に尽力されているクリニックで、いきなり不埒な集団に踏み込まれ、殺人者呼ばわりされた医師や看護師、スタッフの皆さんはどれだけ腹立たしく悔しい思いがしたかと思うと本当にやるせない気持ちになる。ワクチン接種をしていた子どもたちもいたとのことで、相当怖い思いをしたことだろう。

 本当に主張したいことがあるならば、「光の戦士」などという幼稚なごっこ遊びをしたり、卑劣な犯罪行為をしたりするのではなく、また徒党を組んで大声で相手を恫喝するのではなく、冷静かつ合理的な言論で意見を述べるべきである。

参考文献

Douglas KM et al. Pol Psych 2021. https://doi.org/10.1111/pops.12568

Ullah I et al. Vacunas 2021. https://doi.org/10.1016/j.vacune.2021.01.009

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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