なぜ久保建英とソシエダは好調を続けているのか?CLベスト16進出の決定…欧州で起こすサプライズ。
ビッグチームを、粉砕してみせた。
チャンピオンズリーグ・グループステージ第4節、レアル・ソシエダは本拠地レアレ・アレーナにベンフィカを迎えた。前半から積極的に攻め続け、3−1で勝利を収めている。
ソシエダは、ポルトガルの雄を圧倒した。1961年と1962年には、欧州で頂点に立ったクラブだ。そのベンフィカを退け、また他会場でインテルがザルツブルクに勝利したため、今季のチャンピオンズリーグでベスト16進出を決めている。
■経験から学んで
「我々には、分かっていなかった。アルバセーテと試合を行い、その3日後にユヴェントスと戦うという意味がね。チャンピオンズリーグの試合に、かなり懸けていた」
「しかし我々には準備ができていなかった。経験が不足していた。持続可能なチームではなかったし、3大会で戦うようにスカッドを組めていなかった。ただ、我々にヨーロッパのコンペティションで戦う機会を与えてくれるのは、ラ・リーガでの成績だ」
これは2003−04シーズンを振り返った時のロベルト・オラベSD(スポーツディレクター)のコメントである。
03−04シーズン、ソシエダはチャンピオンズリーグに挑んでいた。2勝3分け1敗でグループ突破を決めたが、ベスト16でリヨンに敗れて大会を後にした。
だが問題はその後に訪れた。リーガエスパニョーラで苦しみ、最終的に15位でフィニッシュ。欧州カップ戦出場権の獲得はおろか、2部降格寸前でシーズンを終え、ラ・レアルのサポーターの不満を溜める結果となった。
■補強の重要性
あれから20年が経過した。ソシエダは第二次オラベ政権で、補強に力を入れてきた。アレクサンダー・イサク、マルティン・ウーデゴール、ダビド・シルバ…。この数年、ソシエダが獲得してきた選手たちを見れば、それは明らかだ。
ビッグクラブや代表クラスで活躍できるような選手を、若い時に確保する。そして、良いオファーが届けば売却して、その資金を基に再び才能豊かな選手を獲得する、という循環をつくり出した。
2020年夏には、D・シルバが加入した。マンチェスター・シティとの契約が満了して、フリーになっていたD・シルバを、ソシエダが射止めた。この夏、ひざの負傷で引退を余儀なくされたD・シルバだが、彼の貢献度は計り知れなかった。
2022年夏には、久保建英(移籍金650万ユーロ/約10億円)、ブライス・メンデス(移籍金1400万ユーロ/約21億円)、モハメド・アリ・ショー(移籍金1100万ユーロ/約16億円)、アレクサンドル・スルロット(レンタル2度目)、ウマル・サディク(移籍金2000万ユーロ/約30億円)らが到着した。
そして、今夏、アマリ・トラオレ(フリートランスファー)、アンドレ・シウバ(レンタル)、キーラン・ティアニー(レンタル)、アーセン・ザハリャン(移籍金1300万ユーロ/約19億円)、アルバロ・オドリオソラ(移籍金300万ユーロ/約5億円)が加入した。負傷で出遅れている選手はいるものの、戦力は十分、整った。
■若い選手の野心と戦術
ソシエダはポゼッションを好むチームだ。ボールを保持しながら、主導権を握る。そのようにゲームを展開していくスタイルで試合に臨む。
だがイマノル・アルグアシル監督はテクニックに優れた選手たちばかりを集めているわけではない。守備面での規律、プレッシングを要求する。
直近のベンフィカ戦、また先日のバルセロナ戦で見せたように、前線からの「3枚プレス」で相手の自由を奪う。高い位置で引っ掛けてショートカウンター、というのが狙いのひとつにある。また苦し紛れに蹴られたボールを中盤あるいは最終ラインで回収して、そこから再びボールを握り、攻撃を仕掛けていく。
いずれにせよ、ソシエダの選手には高い強度と労働力が求められる。そのようなフットボールを志す時、選手たちに「野心がある」というのは重要だ。前述の通り、近年のソシエダは、将来有望なタレントを多く呼び寄せてきている。彼らには、ソシエダで、ラ・リーガで、または欧州の舞台(CL/EL)で活躍したいという想いがある。
カンテラーノの台頭、という側面もある。当然、カンテラから出てきている選手たちは若い。端的に言えば、彼らは走れる。そして、野心には事欠かない。イマノル監督の戦術を体現するのも難しくはない。
無論、久保にも恩恵がある。
久保はソシエダで、【4−3−3】の右WGでプレーしている。3枚プレスでプレッシングの先鋒となり、奪えばショートカウンターの切っ先になる。
速い攻めでは、久保がスペースのある状態でボールを受けることが多い。スペースと時間を確保できる状況でボールを受けられたら、久保のドリブルと1対1の強さが生きる。
久保とソシエダは、まさに「Win-Win」の関係を築いているのだ。
■突き付けられた課題
ソシエダは好調を維持している。ただ、課題はある。
先のバルセロナ戦は、現在のチーム状態をはかるビッグマッチだった。その試合、アディショナルタイムにロナウド・アラウホが決勝点を挙げ、バルセロナが1−0で勝利している。
ソシエダは“逃げ切りが下手”なチームだ。今季、ジローナ戦、セルタ戦、インテル戦、アトレティコ・マドリー戦、ラージョ・バジェカーノ戦、バルセロナ戦で終盤に失点を喫して勝ち点を落としている。
ラ・リーガでは、勝ち点8ポイントを失っている。それを獲得できていれば、現在、3位に位置していたはずだ。
「これが初めてではない。私は自己批判をしなければいけない。バルセロナを相手に、良い試合を行った。そのように考えても、役に立たないだろう。我々はみすみす勝ち点を手放してしまっている。良い試合をした時に、だ」とはバルセロナ戦後のイマノル監督の弁だ。
「我々が良いプレーをして、試合に負けた時、ここ(会見場)で何を言われるか…。我々は良い試合をするために、こういうことをしているわけではない。勝つために、やっているんだ」
指揮官の言葉には、重みがある。ただ、自覚がある分、修正の可能性はあるということだ。
ソシエダは欧州の舞台で良い状態をキープしている。歴史と実績を見れば、まだ欧州の無名の存在。だからこそ、もっとサプライズを起こして欲しい。そのために、課題を解決しながら、前に進んでいく必要がある。