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3.8点問題と公正取引委員会の調査でも「食べログ」を批判するのが間違っている理由

東龍グルメジャーナリスト
「食べログ」トップページ

公正取引委員会が調査を開始

Yahoo!ニュースのトピックスにも掲載されましたが、公正取引委員会が「食べログ」や「ぐるなび」などの飲食店情報サイトについて、参加店舗に不当な条件を押し付けたりしていないか調査を開始しました。

少し前に、飲食店関係者が「食べログ」について「年会費を払えば店の評価を上げると言われ、断ったら評価が下がった」「お金を払えば悪い口コミを消せると言われた」という内容をTwitterに投稿し、話題になっていた時でした。

「食べログ」の点数を調査した記事もあります。3.6点が非常に多く、3.8点以上になることが難しいことが判明し、点数に偏りがあると指摘されたのです。

こういったことを受けて、「食べログ」を運営する株式会社カカクコムがプレスリリースを配信。飲食店向け有料サービスを含む食べログとの何らかの取引によって、点数やランキングが変動するということは一切ないとアナウンスしました。

周りの反応

ネット上の反応を見てみると、Yahoo!ニュースやNewsPicksにおけるコメント、Twitterの投稿では、「食べログ」に対して批判的なものが多いです。

もちろん、有料の「食べログ店舗会員」であるかどうかによって、つまり、金銭の多寡によって、「食べログ」が飲食店の点数を上下させていたとすれば、レビューサイトとして致命的な問題があることは確かでしょう。

ただ、現段階ではまだ何も判明しておらず、「食べログ」も完全に否定しています。そういった状況を鑑みると、「食べログ」に対する批判は冷静さを欠いており、いき過ぎているように感じたので、Yahoo!ニュースの記事にオーサーコメントを投稿しました。

しかし、オーサーコメントには文字数の制限があるため、しっかりと説明することができなかったので、改めて詳しく説明していきたいと思います。

点数算出のロジック

今回の件では点数の上下が問題となっていますが、そもそも点数はどのようにして算出されているのでしょうか。

「食べログ」の点数は加重平均であり、単純平均ではありません。投稿が多い食通のレビュアーの影響度を大きくしたり、投稿の少ないにわかユーザーの影響度を小さくしたりしているのです。

これには2つの大きな利点があります。

まず、飲食店をより適切に評価できることです。

たくさん投稿しているユーザーは、それだけたくさんの飲食店に訪れていると考えられます。あまり投稿してないユーザーに比べて、飲食店について精通しているとみなすことができるでしょう。したがって、あまり投稿していないユーザーよりも、たくさん投稿しているユーザーの影響を大きくした方が、より正確に飲食店を評価できると考えられます。

次に、不正対策に効果があることです。

数店舗しか投稿していないユーザーでも飲食店の点数に影響を与えられるのであれば、やらせ投稿やステルスマーケティングの温床となり、不正レビューが容易に行えてしまうでしょう。

なぜならば、1人で何人もの架空ユーザーを登録してたくさんレビューをすれば、点数を上下させることができるからです。こういった不正レビューを排除するためにも、あまり投稿していないユーザーの影響を小さくすることは正しいと考えられます。

また、レビュー数が少ない飲食店の評価が高くならないようになっていますが、これも不正レビューを防ぐために有効でしょう。なぜならば、数レビューであれば、影響力のあるユーザーを囲い込んで投稿してもらうことはできますが、数十レビューともなると、それが難しくなるからです。

「食べログ」は公式に述べていませんが、同じユーザーが投稿するのでも、ジャンルによって影響の度合いが異なるといわれています。

たとえば、フレンチに多く投稿し、日本料理にはあまり投稿していないユーザーがいたとすると、日本料理よりもフレンチへの投稿の方が、影響度が大きくなっているというものです。確かに、ユーザーによって詳しいジャンルは異なるものなので、これも納得できることでしょう。

飲食店をより正しく評価できるようにと、色々な要素を盛り込んでいるため、点数の算出ロジックが複雑になっています。

「食べログ」にとって点数を算出するアルゴリズムはサービスの根幹を成す重要な要素であるだけに、完全に公開することができないのは理解できることでしょう。それに、アルゴリズムの全貌が分かってしまえば、これを不正に攻略するコンサルタント会社が跋扈することは想像に難くありません。

加重平均やレビュー数の閾値、さらにはアルゴリズムの神秘性によって、ひとつのレビューが与える点数の影響度が分かりにくくなっていることが、「食べログ」が恣意的に点数を上下させていると思われている原因であるように思います。

飲食店をより適正に評価したり、不正を防いだりすることができるので、こういった要素はむしろ評価されてしかるべきところでしょう。

有料会員の仕組み

今回の件を考える時に「食べログ店舗会員」や「集客サービス」の理解が重要だと思います。

無料である「食べログ店舗準会員」および有料である「食べログ店舗会員」の詳細は以下の通りです。

食べログ店舗準会員

無料

メニューや写真などの各項目を管理画面で自由に設定・登録・修正可能

食べログ店舗会員

  • ライトプランS

月額固定費10,000円 + 従量料金(月締め)

表現力アップ、来店促進

  • ベーシックプランS

月額固定費25,000円 + 従量料金(月締め)

アクセスアップ、表現力アップ、来店促進

  • プレミアム5プランS

月額固定費50,000円 + 従量料金(月締め)

アクセスアップ、表現力アップ、来店促進、ゴールデンタイム強化、サポートサービス

  • プレミアム10プランS

月額固定費100,000円 + 従量料金(月締め)

アクセスアップ、表現力アップ、来店促進、ゴールデンタイム強化、サポートサービス

「集客サービス」とは、有料の「食べログ店舗会員」で提供されているサービスを指しています。この中には当然のことながら、点数を上げるためのサービスはありません。

サイトには「食べログの口コミおよび点数(評価)に、集客サービスおよびサービス内ネット予約機能のご利用状況は一切影響しません。食べログの点数(評価)及びランキングは、ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております」という注意書きも加えられています。

掲載されている飲食店はお金を払わなければ、店舗情報を修正できなかったり、風評被害につながるようなレビューを削除できなかったりする噂もありますが、これらは間違いです。

無料の「食べログ店舗準会員」でも店舗の基本情報を修正したり、写真を掲載したり、キャッピコピーや説明を記載したりできます。

「口コミガイドライン」で「お店へ悪影響を及ぼすかつ内容の確認が困難な事象についての投稿はご遠慮ください」と明記されているように、問題のあるレビューについては誰でも報告できるのです。

したがって、「食べログ」にお金を支払って「食べログ店舗会員」にならなければ、何もできないという投稿は完全に誤りであるといえます。

点数の偏り

算出ロジックや「食べログ店舗会員」について理解した上で、先に触れた点数の偏りについて考えてみましょう。

3.8点以上が非常に少なく、3.6点に集中しており、何かしらの壁があるのではないかという指摘がありました。3.8点以上となるためには、「食べログ店舗会員」になることが必要であるようなことが述べられています。

「食べログ」に掲載されている店舗は、4.0点以上がトップ500前後、3.5点から4.0点未満が全体のトップ3%、3.5点未満が全体の97%という構成。

このように明言されていることから、点数とトップから何店目であるかを定めるアルゴリズムが存在することは容易に想像できるでしょう。

点数とトップから何店目という枠が関連しているために、3.8点以上は非常に少ない店数となっており、3.6点あたりに集中してしまっていると考えても矛盾がありません。どのようなロジックを使っているかが分からない以上、点数の分布に何か偏りがあっても全く不思議ではないでしょう。

そうであるからこそ、「食べログ」は「有料集客サービスを利用しているかどうかが点数に影響することは一切ありません」と強調しているのだと思います。

アルゴリズムは日々改善されており、点数は原則月2回更新されているので、新しいレビューが投稿されなかったり、既存のレビューに修正がされなかったりしても、点数が変化することもあります。

このことを知らないために、点数が変わった際に、裏で何かが行われたと勘ぐる人も現れるのではないでしょうか。

東京のランキングを確認してみれば、3.8点以上どころか、トップ20の中にも「食べログ店舗会員」になっていない店舗がいくつも見かけられます。

レストランジャーナリストではなくとも、ファインダイニングによく訪れる人であれば、3.8点以上の中には、レストランガイドに決して媚びることがないような店舗がいくつもあることが分かるのではないでしょうか。

3.8点以上になるには、金銭を支払わなければならないと言及することは、3.8点以上の店舗に対して大変失礼なことです。全ての3.8点以上の店舗に対する風評被害に近いので、慎重に述べるべきところだと思います。

「食べログ」の関与

飲食店に対して、点数を上下させるような話が持ちかけられたことが、問題の発端でした。

もしも「食べログ」が、金銭のやりとりがあるかどうかによって、点数を上下させるシステムを採用しており、「食べログ」を運営するカカクコムが飲食店に不当な圧力をかけていたとしたら、完全にアウトでしょう。

しかし、何度も述べているように「食べログ」はこのようなシステムになっていないと説明しています。

「食べログ」のような巨大なプラットフォームがあると、善良な飲食店を食い物にするような悪質なコンサルタントが群がってくることでしょう。

点数の算出ロジックが明らかにされていないのをよいことに、良心のない業者が飲食店にコンタクトをとっている可能性は少なくありません。

飲食店に対して点数の上下の話があったとして、それがどの業者から話があったかが問題です。

悪質な飲食店コンサルタントが、飲食店の歓心を買おうとして、口からでまかせに点数が上がると吹聴したのであれば、むしろ「食べログ」は被害者であるといえるのではないでしょうか。

飲食店にとってのメリット

「食べログ」が存在していることによって、飲食店も多くのメリットを享受しています。

閉店したものも含めて全部で90万店が登録されており、チェーン店からファインダイニングやミシュランガイドの星つき店、ファストフードから会員制レストランやホテルレストラン、パティスリーから居酒屋やバー、フランス料理店までと、実に様々な飲食店があります。

日本全国で60万以上の飲食店があるといわれているので、「食べログ」にほぼ網羅されているといってよいでしょう。

「食べログ」に掲載されることによって、ユーザーに存在を知ってもらえることは、この現代においては特に重要です。なぜならば、情報が溢れている時代において、全く露出していないのは、そもそも気付かれないという文脈において、存在そのものが認知されず、訪れてもらうことが難しくなるからです。

先に述べたように、無料の「食べログ店舗準会員」でも情報を修正できるので、費用的な負担をかけずに、存在を知ってもらえるのはよいことでしょう。

悪いレビューにばかり目が向きますが、逆によいレビューによって客を集めるケースも当然のことながらあります。

質の高い食材を用いて、真摯に料理を作り、心を込めてサービスに努めてきたにもかかわらず、メディアに取り上げられないために繁盛していなかった飲食店にとっては、訪れてもらえた客による「食べログ」の好レビューはよい宣伝になるはずです。

特に観光地など地方にある飲食店はそうでしょう。「食べログ」があることによって、これまでメディア受けしなかった飲食店にも注目が当てられるようになったのは、素晴らしいことです。

「食べログ」によって恩恵を受けている飲食店は「食べログ」に対してあえて称賛の声を挙げませんが、「食べログ」で気に食わないことがある飲食店は積極的に不満を挙げるので、後者ばかりが目立っているように思います。

いずれにせよ、私がここで述べておきたいのは、「食べログ」の存在は、飲食店にとってデメリットだけではなく、メリットもあるということです。

ユーザーにとってのメリット

「食べログ」が存在していることによって、ユーザーにもメリットがあります。

日本全国の飲食店が網羅的に登録されているので、見知らぬ土地へ足を運ぶ時に、どういった飲食店があるのかと大いに参考となるでしょう。

もちろん、見知らぬ土地ではなく、地元であったとしても知らない飲食店はあるので、「食べログ」によって新しい飲食店を知る機会を得られます。

また、自分が食べに訪れた飲食店を記録したり、気になっている飲食店を記憶したりできることも、ユーザーにとって便利な機能でしょう。「食べログ」があることによって、飲食店を巡る楽しさを覚えた人もいるかもしれません。

他のレストランガイド

飲食店の評価には様々なものがあります。

「ミシュランガイド」は日本では最もよく知られたレストランガイドでしょう。食に関心がない人であっても、1つ星、2つ星、3つ星といった評価を聞いたり、3つ星が最高であると知っていたりするのではないかと思います。

「世界のベストレストラン50」「アジアのベストレストラン50」はランキングでレストランが評価されることや、今の時代を彩るに相応しい華やかなエンターテインメント性を備えていることから、最近特に注目されている、世界的なアワードです。

こういったレストランの格付けは、飲食店を評価するための大きな指標となることに間違いはありませんが、プロ目線の視点であり、10万店以上にもおよぶ東京にある飲食店を評価するには、掲載される飲食店数が少ないです。

それに対して、「食べログ」は地元にある飲食店も登録されており、食を専門としない普通のユーザーがレビューしているので、等身大という意味でも参考にしやすいでしょう。

「Retty」は「食べログ」の後に開始されたサービスであり、実名という信頼感や人とのつながりによって飲食店を発見できることから、多くの支持を得られています。どちらとも一般ユーザーが投稿できますが、性格は全く異なっているので、使い分けるのがよいのではないでしょうか。

完璧な飲食店の評価は存在しない

飲食店の評価に完璧なものなど存在しません。

絶対的な食味やサービス、ダイニング空間やテーブルウェアが存在しない以上、飲食店を客観的に評価することはできず、訪れる人の味覚や嗜好、経験や気分によって評価は大きく左右されるのです。

したがって、飲食店の評価には様々な手法が用いられるべきであり、異なるポリシーやあらゆる角度からの評価を重ね合わせることによって、各人にとってベストな飲食店に訪れることができればよいと思います。

「食べログ」のような誰でも参加できるような評価プラットフォームは、食のプロではない方が自由に評価するということで、極めて重要な役割を担っているのです。

飲食店を多面的に評価するために

「食べログ」は、月間利用者数が1億1877万人、口コミ投稿数が約3300万件、2019年9月の月間予約人数が約289万人にも到達する、レストランガイドの巨大サイト。

「食べログ」が飲食店に対して直接、不当な営業をかけていたのであれば大問題ですが、不埒な飲食店コンサルタントによる圧力であったのであれば、「食べログ」はむしろ被害者です。明らかに黒であると認定されたのでなければ、「食べログ」の功績や状況を鑑みて、冷静に受け止める必要があるのではないでしょうか。

今回の件を機に、「食べログ」は信用できない、「食べログ」はなくてもいい、といった声も聞かれます。しかし、飲食店をより多面的に評価するためにも、多くのユーザーがレビューできる「食べログ」のようなグルメサイトがあった方がよいことは、間違いないのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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