中谷防衛相「新しい弾道ミサイル防衛システム、THAADまたはイージス陸上型の導入検討」
11月24日の記者会見で中谷防衛相は「イージス・アショア(陸上型イージス)やTHAADといった新たなアセットの導入、これは具体的な能力強化策の一つとなり得る」として、新しい弾道ミサイル防衛システムの導入を検討していることを明らかにしました。
これまで自衛隊の弾道ミサイル防衛システムの整備は大気圏外で迎撃するイージス艦用迎撃ミサイル「SM-3」と、大気圏内で着弾直前の段階で迎撃する地対空ミサイル「PAC-3」の2本立てでした。PAC-3の配備は全国に完了し、SM-3に付いては現行型のSM-3ブロック1Aに加えて日米共同開発中の新型迎撃ミサイル「SM-3ブロック2A」の完成も間近で、整備計画は一旦の目途が付きそうな段階です。
しかしSM-3とPAC-3の中間の段階を担当する迎撃システムが存在せず、またPAC-3の射程が短く広域防空には不向きな点がある為、陸上型のシステムで両者の間を埋める装備としてTHAADとイージス・アショア(陸上型イージス)が新たな整備計画の候補として挙がっています。
THAAD(終末高高度防衛ミサイル)
THAADは車載移動式の地対空ミサイルシステムで、使用するXバンドレーダー(TPY-1)のみは既に在日米軍が青森県の車力と京都府の経ヶ岬に配備済みです。弾道ミサイル飛行経路の終末段階での迎撃を担当しますが、PAC-3よりも上層で使用されます。弾頭部の迎撃体は大気圏外か空気の非常に薄い高々度でしか機動できず、航空機や巡航ミサイルが相手では使えません。最大有効射程は200km以上と推定されています。
イージス・アショア(陸上型イージス)
イージス艦のシステムをそのまま陸上に設置、SM-3迎撃ミサイルを運用できます。ルーマニアに配備され、ヨーロッパの弾道ミサイル防衛システムの中核となります。弾頭部の迎撃体は大気圏外でしか機動できず、宇宙空間で使用される兵器です。イージス艦のものと全く同じ能力になりますが、整備や点検、遠征などで必ずしも日本近海で作戦行動中とは限らない艦艇と違って常時迎撃態勢を取れる上に、イージス艦を前進させて前方警戒センサーとして運用し、イージス・アショアで迎撃を担当するという運用も出来るようになります。最大有効射程はSM-3ブロック2Aで1000kmを大きく超えると推定されています。
イージス・アショアはイージス艦のものと同じ迎撃ミサイルを使用するので、THAADのように中間の隙間を埋めるという使い方にはなりません。しかしTHAADで日本の全ての都市を防空するとなると必要数がかなり多くなる為、THAADで防空出来るのは主要都市に限定されることになります。(それでもPAC-3よりは格段に防空範囲は広い)
THAADの導入で主要都市を隙間なく迎撃成功率の高い多段式の防空を目指すか、ヨーロッパと同様にイージス・アショアで全域を広く浅く防空するかは、今後の検討次第になるでしょう。